九月。
レオナルド達が公爵領から王都に戻ってきて一週間が過ぎた。
この日、レオナルドは久しぶりにアレンと二人で森に行き、魔物相手に実戦訓練を行った。
ただ、今日はレオナルドの
「アレン、悪いんだけど一人で先に
「?レオナルド様はどうされるのですか?」
「ちょっと行きたいところがあるんだ」
レオナルドは、
そんな自分に対していい加減にしろ、と
「でしたら私もお
「いや、一人で行きたいんだ」
「そう言われましても……どちらに行かれるのですか?」
「……それは言えない」
「それでは私も
レオナルドの
「
レオナルドは余計なことを言わず、アレンに頭を下げた。それに
「っ!?おやめくださいレオナルド様!」
「…………」
けれど、レオナルドはやめなかった。内心ではアレンに申し訳なく思っていたが、何としても認めてもらわなければならない。
レオナルドの意志が
「……はぁ。わかりました。私は戻ります。けど門の前で待ってますから。ずっと待ってますから。必ず無事に戻ってきてくださいよ?」
アレンの言葉に、レオナルドは頭を上げるが頷くことはできなかった。その上で、さらに
「……アレンに一つ頼みがあるんだ」
「何ですか?」
「もし……、もしも戻ってきた俺が今までの俺じゃなかったら……、アレンから見てそう判断できるようだったら……、俺を殺してくれ」
「な、何をっ!?何をおしゃっているんですか!?」
レオナルドはいきなり何を言い出すのか。レオナルドの言葉は
「落ち着いて。たくさん考えたんだけど、アレンにしか頼めないんだ。それに本当にもしもの話だから」
アレンと一緒に鍛錬をしてきて、レオナルドはアレンのことを信頼していた。
レオナルドの口元は笑みの形になっているが、目が笑っていない。アレンには本気なのだと嫌でも伝わってきた。
「……もしも、なんですね?」
「当然だよ。そもそも俺は死にたくない。生きることへの
「……わかり、ました」
アレンは
「ありがとう、アレン」
ここでようやくレオナルドの表情が少しだけ
「いえ、何をされるのかはわかりませんが、どうかご無事で」
アレンは思わず
「ああ」
レオナルドは力強く頷くのだった。
こうしてアレンと別れたレオナルドは、初めに冒険者ギルドからほど近いところにある道具屋に
そして、ゲームの知識から得た精霊の封印されている場所へと向かった。
と言っても、遠くに行く訳ではない。精霊が封印されているのは、なんと王都の地下にある用水路の一画だ。なぜそんなところにという疑問はあるが、残念ながらゲームでは明かされなかった。
水路へと通じる出入口は、冒険者ギルドから歩いて行ける距離にある。水路の
そんな水路の清掃が国の仕事としてあるのだが、きつい、
真剣な表情でその出入口へと向かう道中、レオナルドはゲームのとあるクエストを思い出していた。
ゲームでは主人公達が調査・
(これ、絶対シャルロッテ様が
前世でプレイしていたときは何も感じなかったが、今のレオナルドは何となく裏事情みたいなものが理解できる。
このクエスト、魔物を目撃したのはほぼ確実に清掃作業をしていた者のはずで、本来なら冒険者ギルドが対応する内容なのだ。それを冒険者ではなく主人公にやらせたかったのは、つまり簡単なものから少しずつ主人公に
依頼を引き受けると、次はパーティメンバーの選択だ。ただ、ここでおかしなことが起こる。
依頼主であるシャルロッテがメンバーに固定されているのはいいとしても、なぜかレオナルドもメンバーに固定されているのだ。
この頃にはすでに使えないキャラと化していたレオナルドの強制参加にイラっとした記憶がある。
そうしてメンバーが決まれば、いよいよ地下水路に突入だ。地下水路に入ったところでちょっとした会話が発生する。レオナルドが「何か変な感じがしないか?」と皆に
(ゲームのシャルロッテ様って明らかに俺のこと嫌ってるんだよなぁ。この間のお茶会、俺は会いたかったけど行けなくなってよかったのかもなぁ)
十一年間のレオナルドの記憶ではそこまで嫌われている印象はなかった。レオナルドに魔力がないとわかってからはちょっと当たりが強いなとは感じていて苦手に思っていたが、それくらいだ。でもゲーム通りなら、遅くとも数年後には確実に自分がヒロインの一人であるシャルロッテからかなり嫌われているということに、レオナルドはちょっぴり悲しくなった。あまり関わらない方がいいかもしれない。
地下水路は
なぜなら、ここでエンカウントする魔物は
クエスト自体はそんな感じだが、重要なのは、この地下水路には王女であるシャルロッテも知らない隠し部屋が存在するということだ。隠し部屋は見つけなくてもストーリーに
そこは黒刀が一本地面に突き刺さっているだけの何もない部屋で、中に入ると、レオナルドが「声が聞こえないか!?」と言い出す。他のメンバーは一瞬
黒刀を調べると、主人公がその黒刀を抜こうとするがびくともせず、他にアイテムなどが手に入る訳でもなく、そのときは何の部屋なのかわからずじまいで終わるのだ。
そして、このクエストイベント終了後からレオナルドは使用不可となる。
後日、どうしても声のことが気になったレオナルドが一人でこの隠し部屋に行き、そこで精霊を
「ここだな」
クエストの