目次
ブックマーク
応援する
3
コメント
シェア
通報

第14話『変えることはできなくて』


 好きな人と一緒になれる可能性は一握りだと思う。


 全国の若者の引きこもりが増加しているというニュースが流れた。


 当然そうなるよな。

 朝食を口に運びながらぼんやりとテレビに視線を向ける。


 もしかしたら僕たちのクラスも、矢野と柊さんがパートナーという関係性ではないことを知ることによって、傷つく人が出てくるかもしれない。


 矢野・柊さん・沢辺さん・橋本くんを含めた僕らの関係性は内緒にしなければならない、絶対に。

 ――そう思っていたのに、教室に入ると矢野の席に男子がこぞっと集まっていた。


「俺達、柊さんのパートナーは矢野だったら許せるかと思って譲ってやったのに!」


「こんなことなら俺もパートナー変えたいわ! つーか、無し! 話し合いしたの全部無し!」


 矢野がめちゃくちゃに責められていた。

 なかでも矢野と一緒のグループだった光枝みつえくんは相当キレている。


 光枝くんは一緒に行動している女子の一人とパートナーを組んでいた。


 光枝くんに何も言い返さない矢野。

 この様子からして、矢野が自ら柊さんのことを伝えたとは考えにくい。


 ドアの隅で教室を見渡すと、小谷がニヤニヤとニタつきながら矢野たちの様子を楽しんでいた。


 ……小谷だ。間違いない。自分だけ外されたことを妬んでクラスのヤツらに言いふらしたんだろうか。


 けれどニヤついているだけで小谷が流したという確証がない。「この間牛丼奢ってやっただろ!」と言う僕の脅しも効果はゼロだろう。


 相田さんはいつものようにまだ来ていないし。彼女が教室に入ってくる前にどうにかして事を落ち着かせたい。



 男子だけではなく、女子も不満を漏らし始めた。


「私達だって妥協して一緒になってんのに」


 この流れは昨日の小谷と沢辺さんと全く一緒だ。


「それに、隣のクラスの橋本くんも参加してるって言うじゃない! そんなの聞いてない! 私達だって参加したかった!」


 まずい、このままでは昨日の小谷と沢辺さんのように自然崩壊してしまう。


 自然崩壊なんてしたら、僕に残されていた僅かな可能性が一気になくなる。矢野の為にも僕自身のためにも僕がなんとかするしかない。


 腹を括って矢野に近づこうと席から離れたとき、先生が教室内へと入ってきた。


 いつもはすんり席に着くクラスメイト達も、今日という今日はそうはいかず視線が一気に担任へと集まる。


「何をしている、席へ着け〜」


 ひと悶着あった教室で、皆が言うことを聞くはずはなかった。


「先生、やっぱりおかしくないですか?」


 とある男子が口を開く。先生は何のことか一瞬で理解したようで口を歪ませた。


「なにがだ」


「結婚相手を国に勝手に決められることです!」


「はあ……おまえら納得していただろう?」


「――柊さんと矢野がパートナーじゃないなんて納得でききません! それならここにいる全員、もう一度話し合うなりなんなりさせてくれよ!」


「なにを言っている。現実を見ろ」


 非現実のようなことが起こってしまっている今、現実を見ろはあまりにも酷だと思う。

 それでも国から何かを言われているであろう先生達は皆、パートナーを成立させるために必死なのだろう。


 数週間までは、皆幸せになってほしいと言ってくれた先生。今は皆の幸せのためではなく自分自身の、保身のように動いている気がする。


 僕たちは皆、いきなり国に狂わされた。



「文句ばかり言っているがな、おまえ達より上の年齢の未婚者で、まだ高齢出産の年齢に達していない者達には既に国から通知がいっているらしい。どんな通達かは知らんがな」


 先生は頭を抱えながら、ポツリポツリと答えた。



 同時に「おまえ達は少なからず自分達で選べるんだから、まだいい方だろう」という目を向けられた。


「決めたパートナーが嫌なら、無かったことにしてもいい。その代わり国に従うまでだ。因みに、決められたパートナーは既に国に通達している。これがどういう意味か分かるよな?」


 僕達が何気なく決めたことが国に晒されてしまう。


 一昨日まで公表されていなかったことが知らないうちに義務となっており、昨日までに公表されていなかったことが、今日義務と化している。


 今日以降も明日、明後日とまだまだ公表されていないことがあるのだろう。



 昨日の放課後集められた僕たちは、自分たちの意思で結婚相手を決めていいということだった。けれど、クラスメイトは皆、結婚相手の変更すら叶わなくなってしまった。


 僕らは僕らの意志で結婚相手を決められるんだろうか。本当にその通りになるんだろうか…


 各々仕方なく席に着き、モヤモヤを抱いたままホームルームへと移った。すると、見計らったようなタイミングで相田さんが教室のドアを開けた。


「おはようございまーす」


 何も知らない相田さんは教室に響き渡るように挨拶をし、自分の席へと鞄を置いた。


 いつも、「また遅刻か~」と注意をする先生も、今日ばかりは相田さんに何も言えないでいる。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?