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四十八、ドクターヘリ 

四十八、ドクターヘリ 


 ヘリコプターの中で咲苗は看護師の手によって治療を受けた。これがドクターヘリというやつか。後ろの席には明日花が座っている。


 昨日の出来事すべてが、目に焼き付いて離れない。咲苗は自分がどうして生きているのかわからなくなって、涙を流した。


「痛いですか?」


 優しい看護師の声に思わず号泣してしまう。こんなはずじゃなかった。でも嬉しかった。こんなはずじゃなかった。でも、生きていたい。


 島に残してきた鷹のことが心配でならなかった。鷹は嘘をついた。自分のせいで嘘をつかせてしまったことにひどく責任を感じる。


 仙台の質問に対して、最終的に鷹はこう答えた。


「好きなのは……三方咲苗」


 その時の菫の剣幕を思い出すと背筋が凍った。仙台は高笑いしていた。


「あっはっははは! こんなボロボロのおばさんが好きなんだ。へぇ~、鷹さん、答えてくれてありがとう。ほら、約束通りあんたのお姫様は返してやるよ」


 そう言って仙台は私の背中を蹴った。気まずい雰囲気だったが、鷹が手をとってくれた。


「彼女を予定通り、本島へ返したい」

「お望みどおり、娘と一緒に返してやるよ。その代わり」

「代わり?」

「高松菫、お前が人質だ」


 鷹は即座に菫の前に立ちはだかる。その時、咲苗の手を離したのだった。その行動がすべてを語っていた。彼の心の中にいるのは自分ではないと。


 咲苗は知らず知らずのうちに涙を流していた。


「ほら、お姫様を護らなくていいのか。お前がそっちを選んだんだろ?」


 鷹が歯を食いしばっていた。どうしてあの時、私のことは放っておいてって言えなかったのか。だって生きたかった。娘がこんなところまで助けに来てくれたのだから、生きて罪を償いたかった。


 仙台がヘリを要請すると、どこかで待機していたのか僅か三十分ほどでヘリがやってきた。もしかして、鷹が自分を選択するとわかっていての用意だったのか、ヘリが普通のヘリではなくてドクターヘリだったので、菫のお迎えでないことは明らかだった。


 ヘリコプターの窓から見える空はまだ暗く、星が輝いている。


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