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ヒーロー修業は異世界で
ヒーロー修業は異世界で
くずもち
異世界ファンタジー冒険・バトル
2024年12月12日
公開日
19.5万字
連載中
 西暦二千二十六年、世界は異世界から現れたドラゴン……龍の軍勢による襲撃を受けた。現代兵器が通じず、軍隊では倒せない龍とは、超常的な力を持つスーパーヒーロー達が戦うことになった。  だが、奮戦にも関わらず、スーパーヒーロー達は劣勢に追い込まれ、龍の軍勢の支配地域は拡大を続けた。そして、欧米や中国などの軍事大国に遅れ、とうとう日本でも龍の軍勢による襲撃が始まった。  大学生の寧人(ねいと)は、友人達と遊んでいた時、龍に襲撃された。スーパーヒーローとして活躍した祖父から、超常的な力を受け継いでいた寧人は、その力を使い、龍の襲撃から友人達を逃がすことに成功。  だが、スーパーヒーローになる道を選ばず、ろくに修行もせずに普通の学生として生きていた寧人の実力は、未熟過ぎた。結果として、ドラゴンを戦闘不能に追い込んだものの、同行していた龍の如き人間……龍人(ドラゴンメイド)に太刀打ちできず、寧人は致命傷を負ってしまう。  その場に駆け付けた、幼馴染にして祖父の弟子でもあるスーパーヒーローは、寧人に言い放った。 「スーパーヒーローとして生きることからも、己を鍛え続けることからも逃げたお前には、似合いの最後だよ……自業自得だ」  そんな厳しい言葉を口にした幼馴染が、龍人と互角に戦う光景を目にしながら、寧人は死んだ。スーパーヒーローになる道を選ばず、ろくに修行もせずに生きてきたことを、後悔しながら……。  だが、祖父から受け継いだ物のお陰で、寧人は蘇った。日本ではなく、魔術や仙術などが存在する、祖父が若い頃に究極の武術の修行していた、ファンタジックな異世界……クルサードにおいて。  これは、一度は敗れて殺された、スーパーヒーローになれなかった男が、異世界で蘇って修行をして、本物のスーパーヒーローとなり、世界を救おうとする物語。

第1話 文句はドラゴン共に言ってくれよ

「げ! ナポリタン三千円? また値上げしたの?」


 げんなりとした表情で、古びたメニューを手にした青年は、驚きの声を上げる。

 ジーンズに白いTシャツという、カジュアルな出で立ちの、黒髪をラフなショートにしている青年は、不満気に言葉を続ける。


「この前、値上げしたばかりなのに!」


 レトロなゲーム機の電子音が、あちらこちらから聞こえてくる、レトロな内装の喫茶店の中に、青年の言葉が響き渡った。


「文句はドラゴン共に言ってくれよ」


 カウンターの中にいるエプロン姿の男が、近くのテーブル席を占拠している、常連客グループの一人である青年に、言葉を返す。

 喫茶店のオーナー兼マスターである男は、禿げているせいか、実年齢より老けて見られるのだが、まだ四十代である。


 絵の様に壁に掛けられている、薄型のテレビを指差しながら、マスターは言い足す。


「あいつらのせいで、食材や燃料の値段が上がり放題なんだから。三千円でも、殆ど儲け無しなんだ」


 テレビ画面には、あたかもVFXを駆使した映画のような光景が、映し出されている。

 だが、テレビが放送しているのは映画ではなく、昼のニュース番組である。


 流されているのは、都市や港湾地域における、激戦の映像。

 戦っているのは、ファンタジー物の映像作品に出てくる、ドラゴンのような存在と、映画やアメコミに出てくるような、スーパーヒーローとしか思えない、個性的なコスチュームに身を包んだ者達。


 作り物の映像ではなく、ほんの一時間程前に、アメリカ軍が撮影した映像である。

 映像と共に流れる、女性アナウンサーのナレーションが、映像の内容を説明する。


「オレゴン州ポートランドを襲撃した、デストロイヤー級一体と、フリゲート級五体……五体のドラゴンの撃退に、ドラゴンスレイヤーズは失敗。ポートランドは完全に、ドラゴンの勢力圏となりました」


 ドラゴンスレイヤーズとは、スーパーヒーロー風の者達のことだ。

 アメリカ軍ですら太刀打ちできない、ドラゴンと定義された人類の敵を相手に戦う為、超常的な力を持ったスーパーヒーロー達や、その敵であった悪党達、スーパーヴィラン達が手を組んだ。


 そして、龍殺しの英雄達……ドラゴンスレイヤーズを名乗り、欧米と中国とロシアを舞台に、ドラゴン達と戦い始めたのである。

 だが、戦況は不利といえる状況で、多くの都市が廃墟と化し、ドラゴンの支配圏と化してしまった。


 今のところ、ドラゴンによる直接的な被害を受けているのは、欧米と中国とロシアだけであり、日本にドラゴンは姿を現してはいない。

 だが、日本もインフレや物不足という形で、被害を受けている。


「アメリカ最大の小麦出荷量を誇る、ポートランドの陥落は、小麦価格と消費者物価指数の更なる上昇を、引き起こすことになりそうです」


「……来週辺りは、四千円超えてそうだな」


 テレビ画面を半目で睨みながら、言葉を吐き捨てた青年は、対面に座っていた、縁なし眼鏡の色白の少女に、メニューを手渡す。


「デフレの頃が懐かしくなりますね、こう値上がり続きだと」


 縁なし眼鏡の少女は、メニューを見ながら愚痴を吐く。

 黒髪のショートボブが印象的な、サロペットに水色のノースリーブのシャツという出で立ちの、真面目そうな見た目の、小柄な少女だ。


 メニューの価格の部分には、値段が書かれたシールが重ね貼りされている。

 今年の四月にドラゴンが現れてから、梅雨が明けたばかりの七月初旬の今に至るまで、何度も値上げが繰り返され、その度に新しい価格のシールが、上から貼られ続けた結果、そうなったのだ。


「ここまで値上がりすると、高校生の財布にはキツイよ。土曜会の集合場所、どこかお金かからない所に変えませんか?」


 縁無し眼鏡の少女の言葉に、少女の左隣に座っていた、背の高い少女が、メニューを覗き込みながら応える。


「これくらいなら、どうってことないじゃない」


 しれっとした口調で言い切る、背の高い少女は、栗色のロングウェーブヘアと、日焼けしたかの様な色合いの肌と、派手な顔立ちが印象的だ。

 ちなみに、髪の色も肌も、メキシコ人の母親の影響による、生まれつきの色である。


 ダメージジーンズと、白い半袖のブラウスに包まれた肢体は、程よく鍛え上げられている。

 護身術として、キックボクシングを習っているせいだ。


「毎月の小遣いが十万円もある、百虹架もにかと違って、ウチは金持ちじゃないから、これくらいの値段でもキツイのよ」


 背の高い少女……さざなみ百虹架を一瞥しつつ、縁なし眼鏡の少女は、言い添える。


寧人ねいと先輩達と違って、今年はバイトもできないから、お小遣い頼りだし……」


「俺等……大学生組と違って、清音きよねは今年は受験生だから、バイトもできないからな」


 ナポリタン好きの、ジーンズに白いTシャツ姿の青年……神志南かしな寧人は、縁なし眼鏡の少女……左部さとり清音に、言葉を返す。

 大学一年生の寧人は、高校三年生の清音や百虹架よりも、一つ年上である。


 だが、 年下に見える程に童顔であり、長身の百虹架よりは、背も少しだけ低い。

 肌の色は 百虹架と同様、日に焼けたような色合いだが、生まれつきなのだ。


 寧人の言う大学生組とは、土曜会というサークルに所属する、大学生メンバーのことだ。

 土曜会というのは、元々は埼玉県の茶山さやま市にある、彩武さいぶ学園高等学校の、電子遊戯部……有り体に言えばゲーム部のOBとOGの集まりである。


 暇なOBやOGが、自然と土曜日の午後に、レトロという喫茶店に集まり始めた結果、何時の間にかサークル状態となり、土曜会という名がついたのだ。

 今では社会人や大学生だけでなく、清音や百虹架のように、現役の電子遊戯部の部員達も所属していて、毎週の土曜日の昼には、二十人以上のメンバーが集うようになっている。


 土曜日の昼頃にレトロに集まり、会話やレトロゲームを楽しみつつ、昼食をとる。

 その後は、茶山市の商業地区に繰り出し、ゲーミングパソコンを揃えたeスポーツ施設でゲームを楽しんだり、ゲームセンターでアーケードゲームを楽しんだりするのが、土曜会の基本的な流れだ。




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