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第60話 氣を温存してる場合じゃなさそうだからな

「ハーピーか!」


 空中にいる、冒険者達と採掘者達が戦っている相手を目にした寧人は、思わず声を上げてしまう。

 肌も露な若い女性の両腕と両脚が、猛禽類の鳥類の翼や脚と混ざり合ったかのような、半人半鳥の化け物……ハーピーのことは、寧人は日本にいる頃から知っていた。


 ロールプレイングゲームなどで、モンスターとして見かけていたので、寧人はハーピーを知っていたのである。

 スライムやスケルトンに関しても、似たようなものであり、ガーディアンやモンスターには、寧人が日本において、ゲームなどで目にしたものと似ているものが多いのだ。


 人間の倍以上ある大きさの、白い肌に青い羽根を持つハーピーは、岩山の山頂で低空飛行を続けながら、その足先の鋭い爪で、人々を襲っていた。

 動きは素早く、爪は刃のように鋭いハーピーを相手に、冒険者達や採掘者達は苦戦していた。


 しかも、ハーピーは射程は長くはないのだが、口から火球を放って攻撃したりもするのだ。

 火球の威力は、銃撃と射撃剣を上回っている。


 近接戦闘でも中距離戦闘でも、ハーピーは冒険者達や採掘者達を、追い込みつつある状況であった。

 浅い階層で活動する、冒険者や採掘者達にとって、ハーピーは脅威といえる敵なのだ。


 寧人は岩山の山頂を蹴って跳躍すると、一瞬でハーピーとの間合いを詰め、そのまま鋭い跳び蹴りを放つ。

 ヘルガが使っていたのと同じ、直線的な高速の跳び蹴り、飛彈踢ひだんてきを放ち、ハーピーの頭部を蹴り飛ばす。


 ハーピーは吹っ飛ばされ、錐揉み状に落下して行くのだが、砂漠に墜落する直前で身体の自由を取り戻し、再び急上昇を開始。

 自分に奇襲攻撃を仕掛けて来た寧人に向かって、叫び声を上げながら突撃する。


(手応え……いや、足応えあったんだが、あれで倒せないのか?)


 輕身功で加速した蹴りは速いのだが、威力においては硬身功発動中の蹴りに劣る。

 急接近してくるハーピーに備え、防御力と打撃技の威力を引き上げる為、寧人は岩山の山頂に着地しつつ、硬身功も発動する。


 輕身功と硬身功、二つの內功を同時使用する状態になる。

 当然、寧人の氣の消耗度合いは高まる。


(氣を温存してる場合じゃなさそうだからな)


 直後、今度はハーピーの右足の爪による攻撃が、寧人に襲い掛かる。

 寧人は左前腕で受け止める。硬身功のお陰で、防ぎ切れはしたのだが、激しい衝撃と激痛に、寧人は苛まれる。


 硬身功は氣膜に比べると、防御能力だけでなく、苦痛を軽減する能力も遥かに高い。

 それでもハーピーの攻撃の苦痛を、抑え切れなかったのだ。


(受け切れたんだ! 上等だよ!)


 激痛を覚えはしたが、硬身功を発動しなければ、左前腕に深手を負っていただろう。

 それに比べれば上出来だと、寧人は頭を切り替え、即座に攻撃を開始。


 まずは右拳で、強烈な突きを叩き込んだ後、両手両足をフル回転させ、寧人は高速で連続打撃をハーピー相手に繰りだす。

 ハーピーも両足の爪で、攻撃を繰りだして来るのだが、両手両足を使って攻める寧人に、ハーピーは手数で劣り打ち負け、青い羽根を飛び散らせ、体中を滅多打ちにされる。


 接近戦は不利と踏んだのか、ハーピーは怒りの声を上げながら宙に舞い上がり、寧人と距離を取る。

 ハーピーが滞空しているのは、地上三十メートル程の高さ、距離は六十メートル程。


 輕身功で追い切れない距離ではないが、明らかにハーピーの空中移動速度は、寧人の輕身功を上回っている。


(輕身功で届く距離だが、ハーピーの方が動きがいいから、跳んで攻撃しても躱されるな)


 故に、寧人は遠距離攻撃を行う為、抱球の構えを取る。

 すると、寧人の目に、大きく開けた口から、赤々とした光を放っている、ハービーの姿が映る。


 冒険者達や採掘者達に放った時よりも、強力な火球を放つ為、口の中に強力な火を溜めているのだ。


(あっちも、何か放つ気だ!)


 飛び道具の撃ち合いになるのを、寧人は察する。

 そして、只の氣弾を作るつもりだったのだが、寧人は咒語じゅごを唱えて、仙術で細工した氣弾を作り出し、氣弾を放つ。


 白く光り輝く氣弾が、ハーピーに向かって高速で飛んで行く。

 ハーピーが口から何かを放つ前に、寧人の方が先に氣弾を放つことができた。


 猛スピードで迫りくる氣弾に気付き、ハーピーは攻撃を中断して口を閉じると、寧人から見て左側に回避する。

 ハーピーも攻撃のモーションに入っていたせいか、回避に入るのが遅れ、遠くまでは逃げられなかった。


 寧人は二弾目を放つべく、再び抱球の構えを取りながらも、ハーピーの回避が遅れたのを視認。

 ほくそ笑みつつ、鋭い声を発する。


「爆!」


 すると、凄まじい爆発音を響かせながら、氣弾は爆発し、白い光の粒子群を、打ち上げ花火のように空に撒き散らす。

 寧人が放ったのは、ただの氣弾ではなく、爆氣砲の爆氣弾だったのだ。


 爆発の衝撃波と、散弾の如き多数の小さな氣彈が、爆氣弾を回避しようとしたハーピーに襲い掛かる。

 ヘルガ程の読みの力もなければ、防御能力もないハーピーは、もろに爆氣弾の爆発による攻撃を食らってしまった。


 情けない悲鳴を上げながら、ハーピーは全身を小さな氣彈に滅多打ちにされる。

 青い羽根だけでなく、赤い鮮血を撒き散らしながら、ハーピーは砂漠に向かって落下して行く。


 ハーピーは前回とは違い、急上昇に転じることができず、今回は完全に砂漠に墜落する。

 砂漠に身体を叩きつけられ、更なるダメージを負ったハーピーの身体から、黒い煙が上がり始める。


 身に受けたダメージが限界を超え、ハーピーの身体が黒い煙に変わりつつ崩壊していく。

 ハーピーは倒されたのである。




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