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第69話 ゴーストって感じじゃないな、活き活きしてやがる

(W型の……大きさはコルベット級くらいか?)


 ゴーストドラゴンの姿を視認した寧人は、自分がいた世界でのドラゴンの基準で、ゴーストドラゴンを表現してみる。

 仙人となり視覚も向上した寧人は、かなり離れているのだが、正確にゴーストドラゴンの大きさと姿を、把握することができた。


 コルベット級というのは、ドラゴンの中では最も小型の部類であり、W型であれば、立った時の全高が二十メートル前後のものだ。

 寧人の目測では、姿を現したゴーストドラゴンは、二十数メートルありそうなので、コルベット級の中では大型といえる大きさ。


 つまり、寧人が戦ったコルベット級よりは、かなり大きいといえる。

 ゴーストドラゴンは元々のドラゴンに比べ、弱体化している筈なのだが、どの程度の強さなのか、寧人は強く興味を引かれる。


(こっちの世界だと、西式の丁龍ていりゅうになるんだろうが……)


 今度はクルサードでの分類法で表現しつつ、寧人はゴーストドラゴンの様子を観察する。


(ゴーストって感じじゃないな、活き活きしてやがる)


 ゴーストドラゴンは上を向くと、大きく息を吸い込み、胸を膨らませる。

 明らかに、ドラゴンブレスを放つ直前の動きだ。


(天井にドラゴンブレスで、穴を開ける気だ!)


 先程、何度か揺れた後、轟音が響き渡った。

 下の階層での戦いで、冒険者達やバウンサー達を退けてから、ゴーストドラゴンはドラゴンブレスで、天井の破壊を始めたのだ。


 ドラゴンブレスを放ち、階層を隔てる分厚い第七階層の天井……つまりは第六階層の地面を、ゴーストドラゴンは罅割れさせた。

 その上で、ゴーストドラゴンは天井に体当たりを食らわせ、突き破って大穴を開けたのである。


 第六階層に姿を現したゴーストドラゴンは、すぐさま天井に向けて、ドラゴンブレスを放とうとした。

 だが、ゴーストドラゴンはドラゴンブレスを、放つことができなかった。


 突如、第二キャンプの辺りから飛来した巨大な火球を、喉元に食らったのである。

 火球は直撃次第、大爆発を起こし、ゴーストドラゴンはアッパーカットでも食らったかのように、仰向きのままのけぞってしまう。


 シェイラが攻撃魔術を放ち、ゴーストドラゴンのドラゴンブレスを防いだのである。

 直径にして十メートル前後の、巨大な火球を敵に叩き付ける、流星大砲トルメンテリオテという攻撃魔術だ。


 流星大砲は放つまでに準備が必要な為、連射はできないが、寧人の爆氣砲など足元に及ばない程に、強力な破壊力を誇る。

 ゴーストドラゴンが出現次第、即座に攻撃できるように、シェイラは呪文を詠唱し備えていたのである。


 喉の辺りの表層部分に、大穴が開く程に焼かれ、ゴーストドラゴンはダメージを負う。

 隙だらけの部分を、奇襲攻撃により狙い撃ちされたので、回避できなかったのだ。


 続いて、ゴーストドラゴンの頭上に、聖術を発動させる為に、文字や記号を組み合わせた複雑な図……聖術陣が出現。

 白い巨大な聖術陣から、無数の光の矢がドラゴンに向かって放たれる。


 レーザー光線の雨が、降り注いでるかのような光景だが、光の矢はゴーストドラゴンの全身に突き刺さり、地面に縫い付けてしまう。

 敵の動きを封じる聖術……百光槍磔クルセマスルシスを、ティルダが放ったのだ。


 ゴーストドラゴンは強力な龍の氣……龍氣りゅうきで体表を覆って身を守る、龍氣膜りゅうきまくを使用している。

 龍氣膜なしでも、ゴーストドラゴンの身体は、強力な防御能力を誇る。


 だが、百光槍磔の光の矢は、そんなゴーストドラゴンの巨体を、龍氣膜ごと貫いて、地面に縫い付けてしまえるのだ。


 実は百光槍磔の光の矢には、攻撃能力はない。

 対象の身体を貫くのだが、動きを封じるのが主な目的であり、貫かれた部分は無傷なのである。


 百光槍磔を放ったのは、聖術士のティルダだ。

 ティルダもゴーストドラゴンの出現に備え、出現次第すぐさま百光槍磔を放てるように、呪文を詠唱し準備を整えていた。


 本物のドラゴンであれば、せいぜい数秒、動きを封じることしかできないらしい。

 だが、ゴーストドラゴンであれば、数十秒は動きを封じることができる。


 死体や残骸を使用した、ゾンビ系とも呼ばれるモンスターやガーディアンに対し、聖術は高い効果を発揮する。

 ゴーストドラゴンもゾンビ系のモンスターなので、百光槍磔は高い効果を発揮し、数十秒間……動きを封じられるのである。


 多数の光の矢に動きを封じられたゴーストドラゴンは、口惜し気に咆哮しつつ、身体を動かそうと身を捩るのだが、まともには動かせない。

 本来の力を出せば、光の矢が刺さっている地面ごと、持ち上げてしまえるのだが、聖術に弱いゾンビ系であるが故に、弱体化させられているのだ。


 その隙を、バネッサは見逃さない。

 実は、ティルダが百光槍磔を放つ少し前から、アウラを使って移動速度を引き上げる、奥拉駆動オーラドライブを使って加速し、バネッサはゴーストドラゴンに向かって、地割れだらけで荒れ放題の荒野を、突進し始めていた。


 ゴーストドラゴンが動きを封じられた時、既にバネッサは、その近くまで接近していたのだ。

 バネッサは奥拉オーラを両手に集め、両手に持つ二本の剣に奥拉を流し……纏わせる。


 奥拉を纏った二本の剣が、青白い光を放ち始める。

 あたかも、SFの映像作品などに登場する、レーザーやビームで形成された剣で斬る武器のようである。




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