「それじゃ、他に訊きたいことは?」
モリグナの三人は顔を見合わせると、訊き難い質問なのか、誰が訊くかを目で合図し合う。
質問者を目線で押し付け合った後、バネッサが大きく溜息を吐いて、仕方がないなとばかりに、質問を切り出す。
「……あの、その……仲よくするのと、一応……関係があるといえば、あることなんだけど……」
らしくない前置きをした上で、やや恥ずかし気に目線を泳がせつつ、バネッサは続ける。
「寧人が特異体質でのトラブルを避ける為に、ジーナさんが……その……寧人の相手を、してるじゃない?」
バネッサの問いに、夢琪は頷く。
何故にバネッサ達が訊き難そうにしていたのかを、大よそ察しつつ。
「寧人は女の人の相手をしないと、身体がトラブルを起こす特異体質で、相手にする女の数は、多ければ多い方がいいみたいな話を、ジーナさんから聞いてるんだけど、本当なの?」
再び、夢琪は頷く。
「信じ難い話かもしれないが、本当の話なんだ。まぁ、過ぎた力を得たが故の、代償のようなものさ」
夢琪は簡潔に、寧人の超人詛咒について、モリグナの三人に教える。
全てではないのだが、要点を簡潔に。
「……じゃあ、寧人の相手になる女が、三人増えても……問題ないよね?」
バネッサの言う「三人」が、誰を意味しているのかは、夢琪とヘルガにも明らかだった。
既に話の流れを察していたので、夢琪は驚かなかったが、ヘルガは露骨に驚きの表情を浮かべる。
「無粋を承知で確認しておくが、その三人というのは、君達のことかい?」
夢琪に問われたモリグナの三人は、恥ずかし気に頷く。
「そうか……別に構わないよ」
モリグナの三人は、夢琪の返事を聞いて、嬉しそうに笑みを浮かべる。
「むしろ、寧人の為になるんで、あたしとしては有難い程さ」
そんな夢琪の言葉は、本音である。
実は、寧人の超人詛咒が暴走する可能性が、高まってしまっていたので、信頼できるモリグナの三人が相手をしてくれるなら、夢琪からすれば有難い程だったのだ。
本来の能力に見合わぬ力を、使えば使う程、超人詛咒の状態は悪化し、超人詛咒が暴走する可能性が高まる。
寧人は今回、假面武仙となって、実力に見合わぬ力を揮い、消氣衰を起こすような真似をしてしまった。
そのせいで、寧人の超人詛咒が暴走する可能性は、かなり高くなってしまっているのだ。
可能性が高くなったとはいっても、今すぐに暴走するという程の状態ではないのは、既に確認済みである。
寧人が戻って来た直後、夢琪は寧人の項を確認した。
あれは、超人詛咒の暴走する可能性の程度を、確認していたのだ。
寧人の場合、超人詛咒の暴走が近付くと、項に
三本の線で構成される、鴉の足跡のような痣なので、
黒い線が一本ずつ現れるのだが、三本全てが現れ、鴉の足跡のような形になれば、暴走は確定的な状態。
夢琪が確認した際、寧人の場合、一本だけ現れた状態だったので、すぐに暴走するという段階ではない。
寧人の場合、女性と関係を持てば、超人詛咒の状態は改善される。
ジーナとの関係を、一週間も続ければ、線は消える可能性が高い。
逆に、線が現れている状態で、更に寧人が超人詛咒の状態が悪化するような真似をすれば、線は増えてしまう。
そうなれば、下手をすれば寧人の暴走を、引き起こしてしまいかねない。
故に、早目に線が消えるように、寧人の相手をする女が増えた方がいいと、夢琪は考えていた。
夢琪自身が寧人の相手をしてでも、早目に線を消した方がいいとすら、考えていたのである。
そんな時に、モリグナの三人が、自ら相手をしたいと言い出したのだ。
夢琪としては、まさに渡りに船と言える状況だった。
ちなみに、寧人のように鴉足痣が出るタイプの超人詛咒もあるが、そうではないタイプもある。
超人詛咒には様々なタイプがあるので、その現れ方は一概には言えないのである。
鴉足痣が出る寧人の場合は、分かり易いタイプといえるのだ。
「……でも、寧人はいつか……自分の世界に帰ってしまうのだから、長く関係を続けられる相手じゃないんだよ」
夢琪は真摯な口調で、モリグナの三人に語り掛ける。
「レヴァナントのジーナとは違い、君達は相手など選び放題なんだ。それなのに、遠からず関係が終わると決まっている寧人を、深い関係となる相手に選んでいいのかい?」
問いかけられたモリグナの三人は、目線で互いの意志を確認する。
そして、シェイラが口を開く。
「……いいんです。ちゃんと寧人君に恩を返したいんで、寧人君の助けになるのなら……」
シェイラの言葉に、バネッサとティルダも頷き、同意を示す。
「それに、私達は選び放題とは程遠い状態ですよ、『ゾフィーの悲劇』状態なんで」
そんなティルダの話を、バネッサが受け継ぐ。
「正直言えば、そろそろ経験してみたかったんだ。寧人が相手になってくれるなら、むしろ嬉しいくらいだよ」
明確な言葉こそ口にしてはいないが、明らかに寧人に対する好意を露わにした、三人の話を聞いて、夢琪は少し意外そうな顔をする。
「驚いたよ、寧人が君達に、そこまで言わせるなんて……」
モリグナの三人が、寧人を弟分のように可愛がっているのは、夢琪も知っていた。
付き合いの短さの割りには、親し過ぎる程だとも。
それでも、男女の関係になってもいいとまで、モリグナの三人が思っていたのは、夢琪にとっては意外だったのだ。