真夏の青空。
深くどこまでも続くような青い空は、青春と呼ぶには少し遅い自分の恋心を。そして青空に負けないくらい大きく広がる白い雲はそんなまっさらな恋心を色づけるためのキャンパスに見える。
「「はぁー……」」
不意についたため息が、誰かと被ってしまい、慌てて口を隠す。
それはいつの間にかいた、隣の人も同じだったようで、無意識に振り向いてしまった。
「あっ、すみません……」
「いえ、こちらこそ……」
「……って、あれ? アナタは……!」
「え……あっ!」
そして次の瞬間、私
「『
「『
私、
彼女、
後の『Bonheur 女子会』と呼ばれる会の、第一回目だった。
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――――これは、夏祭りの話の数日後のことだった……。――――
私、夏風 碧は、先日の夏祭りで想い人である『
「はぁ〜、夢見たい! 青山さんと、れれれ、連絡先を交換したなんて……!!」
ベッドの上を何度も転がりながら、私は何度もスマホの画面を見てはニヤニヤすることを繰り返していた。
「……って、ダメよ碧! 連絡先を交換できても、ここから先に進めるかは自分次第よ……!」
私は両手で頬を、軽く叩いて起き上がる。
「こういう時こそ、自分磨きよ!」
そうして私は身支度を整えて、今の自分の心のように晴れ渡る夏の空の元へと飛び出すのだった。
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「あ、暑い……」
外に出たはいいが、あまりの暑さにすでにダウン寸前だ。
「自分磨きのためと言っても、コスメとか洋服とか自信が無いから
茜音ちゃんこと、『
「茜音ちゃん、急遽お仕事が入るなんて……もぉー! コスメも服も、沢山ありすぎて分からないよぉー!」
木陰で悶々としながら、私は大きなため息をつく。
「はぁー……」
「はぁー……」
誰かと被ってしまったことに、思わず口を隠す。
それはいつの間にかいた、隣の人も同じだったようで……私は無意識に振り向いてしまった。
「あっ、すみません……」
「いえ、こちらこそ……」
――――この人、どこかで……。
自分より高身長でスタイルのいいその人物に、どこか見覚えがある。
「……って、あれ? アナタは……!」
「え……あっ!」
――――髪型は違うけど、夏祭りの日にいた!
「『
相手の人も私に気づいたようで、私たちは大きな声でハモるのだった。
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「あっ、私、夏風碧って言います」
「えっと、私は那月葵です」
突然だが、私たちは近くのカフェでお茶をすることになった。
……そして誘われたのは、何故か私の方だ。
「すみません、付き合ってもらって……」
「いえ、私で良ければ……」
私たちはそれぞれ、頼んだお茶を飲む。
――――どどど、どうしよう……誘われたのはいいけど、何を話せばいいのか全然分からない……。
カップをカタカタと震わせながら、私は必死に話題を考える。
――――それにしても、すごく綺麗な人だな……青山さんも、こういう人が好きなのかな?
茜音ちゃんとは違う美しさと、自分とは正反対の落ち着きのある姿に、正直羨ましいと思う。
「あの……夏風さん」
「は、はい!」
「率直に聞きます、古奈とはどういう関係なんですか?」
――――……? どうしてここで、陽太くんの名前が出てくるんだろう……?
「えっと、陽太くんですか? 仲の良い店員さんだと思ってます」
私は陽太くんに対してる意見を、そのまま伝える。
「それにしては、凄く親しそうだと思って……」
「いやいや、陽太くんには、いつもからかわれているだけ……」
――――あれ? ︎︎もしかして、この人……。
「もしかして那月さんって、陽太くんのこと好きなんですか?」
「……!? ゲホッ! ゴホッ!!」
「わわわっ! 大丈夫ですか!?」
気管に入ったのか、咳き込む那月さんの背中を慌ててさする。
「す、すみません……」
「こちらこそ、ごめんなさい!」
落ち着いてきたのか、制止されて私は席に戻る。
「……ななな、なんで……!?」
「いやぁー……何となくというか、なんというか……」
顔を真っ赤にする那月さんに、私はどことなく親近感を覚える。
「じ、実は私も似たような感じなので……例えば那月さんは、青山さんのことどう思って……」
「……? 青山先輩は、尊敬できる先輩だと思い……って、まさか!?」
「はい……そのまさかです……」
互いの想い人を悟った私たちの間には、気まずい空気が流れる。
「……すみません、私の勘違いでした……」
「い、いえ! 好きな人が他の人と仲良くしてるのを見たら、気になっちゃいますよね!」
「す、好き……っ!?」
――――こ、これは……!!
那月さんはこういう話に、あまり慣れていないのだろう。さらに顔が真っ赤になり、先程までのクールな印象とはうって変わって、可愛いと思えてくる。
普段は茜音ちゃんの惚気話を聞いたり、恋バナを所望されたりする側だったが……。
――――今ならわかる! 茜音ちゃんの気持ち……!
「あ、あの! 良かったら、連絡先交換しませんか!?」
「えっ!?」
「恋する女の子は、可愛……じゃなくて! よければ私の恋愛相談に、乗ってくれませんか!?」
私は半分勢いで、那月さんの手を握りながら言う。
――――いっ、言っちゃったー!!
行きつけの喫茶店の店員さんと言っても、那月さんとはほぼ初対面に近い。自分でも、かなり大胆なことを言ったとは思う。
――――でも茜音ちゃんならきっと、応援するはずだもの!
「あっ、でも、もちろん嫌なら断ってもらっても……」
「……よ……」
「『よ』?」
「よろしく……お願い、します……」
那月さんは顔を逸らしながら、耳まで赤くして小さくそう言った。
――――か、かわ……!!
「こちらこそ、よろしくお願いします……!」
「な、なんで泣いてるんですか!?」
那月さんのあまりの可愛さに、思わず涙が出る。
こうして私は、那月さん……いや、葵ちゃんと連絡先を交換したのだった。