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第28話 確認らしい

「あ゛あ゛あ゛! 帰ってくれたぜぇ。……疲れた体にコイツがキクぜ」


「台詞が危ない人にしか聞こえません」


 戻ってきた俺は、懐からドリンクを取り出しグイっと傾ける。すっかりお馴染みになった仕草だ。

 今の俺は気分が良い。だから、ライが何を言おうとスルー出来るのだ。


「いいじゃないか。アタシも初めてのお仕事でちょっと疲れてしまったよ」


「なら、今日はもうゆっくり休むといい。報告は私の方からしておく。モナーガ殿も、部屋へお戻りになられて構いません」


「そうかい? んじゃお言葉に甘えて。しっかし、あれだけやって手に入ったのがコレ一つとはな」


 そう言って取り出したのは、ソーティのDNAが入ったカプセル。

 袖の下に忍ばせておいたミニ採集キットを、さりげなく首に刺して手に入れたものだ。

 結局手に入ったのがこれだけじゃあ、労力に見合わんね。


「ああ! そういえば、……はい。酒場のマスターの分。手に入れといたよ」


「おいおい! でかしたじゃないのよ! もうハグしちゃう!!」


「おっと、それは勘弁。でもコレは上げるよ」


 ロズはいつのまにか、マスターからDNAを手に入れておいたらしい。カプセルを受け取るとそのまま懐に収めた。


 しかし、有能な人材が助手になって助かるぜ。ロズにしろザリカちゃんにしろ、何よりも愛嬌がある。美女がそばにいるとそれだけで力が出るってもんだぜ。


「へへへへへ」


「薄気味が悪い。何の妄想に耽っていらっしゃるかわかりませんが、とっととお帰りになられて下さいませ」


 何かノイズが聞こえたような気がしたが、気にしない気にしない。

 俺はスキップでもしそうなくらいにウキウキと帰宅するのだった。




 しかし、半ば予想通りと言うか。今日行った世界には『違い』があった。


 あの世界は、俺が地球で買ったいくつかの本の中の一つで、ある少女漫画が舞台。マジシャンの少女の話で、あの世界だとパフォーマンス専用の魔法をマジックと呼ぶらしい。


 読み終わった本は、スーラ君にも自由に読ませていたが、ユールー達と回し読みしていたようだ。今日連れて行った三人共その漫画を読んでいたようで、だから打ち合わせもスムーズにいった。


 そう、俺はあの世界に行った後、あの丘でソーティが来るのを待って四人で話し合っていたのだ。


 ところがだ。まず、ソーティはデカい鳥に襲われていたが、漫画だと猪だったはず。ソーティは魔法を使って逃げたんだよな。

 流石にまずいと思ってあの鳥を俺は倒した。そこで接点が出来たから行動を共にする事にしたんだ。


 それ以外にも、あのローブの男。漫画じゃアイツが出て来るのはもう少し先で、商会に雇われた荒くれ者がいろいろやらかすはずだった。なんせあのローブ男の出番は話の終盤にデカい鳥を呼び出して終了だったからな。

 そんなチョイ役があそこまで出張るとは。極めつけにドラゴンまで出してきやがって。


 漫画自体はそれからも十数巻出ている。今度また買いに行くか。


 ま、それはともかくとしてだ。今日の事で、俺は一つ仮説を出した。

 例えどんなに情報を頭ん中に詰め込んでも、全く同じ世界に行ける保証は無いって事だ。確証にはデータが足りないが、前回と今回でそうじゃないかとアタリは付けられる。特に前回は本当にひどかった。あんなクッソ汚い改変は二度とゴメンだ。



 そんな事を考えているうちに、足が自分の部屋まで辿り着いていた。

 これ以上考えるのは止めだ。今後どうするかは、一休みしてからでも遅くないだろう。


「ただいま! スーラ君、今日は何?」


「おかえりなさいモナーガさん。今日は煮込みラーメンを作ってみました」


「お、いいねえ。さっそく食べよう」


「あ、でも……」


 スーラ君が何かを言いかけていたが、その前にリビングへと入る。

 テーブルには鍋が湯気を上げていた、味噌かな? ラーメンの匂いが腹を刺激する。

 そしてテーブルの周りには、空のお椀が二つに……椅子に座ったタライヤが、既に一人で麺を啜っていた。


「ど、どういう事!?」


 理解が追いつかない俺に、スーラ君が話し掛けてくる。


「実はさっきタライヤさんが遊びに来まして、折角だからお夕飯をすすめました」


 何の罪悪感も感じる事も無い微笑みで、スーラ君はサラっと答える。

 この子はどういう訳か、本気で俺とタライヤは友達だと思いこんでいる節がある。

 冗談じゃないよ、ただの腐れ縁だよ。


 呆然としている俺に、麺を啜り終えたタライヤは何の悪びれもなく声を掛けてきた。


「ああ、帰ってきたのですか。食事の前はきちんと手を洗ってきてください。

ばっちい上に卑しいですから」


 何の邪気も感じられない鉄面皮。まるで、ちょっとした世間話をしているかのような口調だ。

 それだけ言い終えると、鍋から自分のお椀へと麺を掬い始める。ええい、いつもいつも俺の神経を逆撫でしてきやがって!


 折角気分が良かったのに、冷水でもぶっかけられた気分だぜ。


 なぁ~ご。


 どこからか猫の鳴き声が聞こえてくる、ふと足元を見ると白い猫が俺の足に頭を擦り付けていた。

 俺は、その猫を掬い上げ顔元まで持ってくる。


「ゴメンね、やっぱり迷惑だったよね。モナーガ君」


「い、いやいいんだお前は。マキナは歓迎するけど、コイツに誠意と常識とマナーが無いのが問題なんだから」


 猫型ロボットのマキナは、前回の仕事の後に念の為に検査を受けていた。精密機械の塊だから、俺よりもデリケートな扱いが必要なのだ。


 コイツがこうしてここに居るってことは、検査の結果は特に異常無しなんだろう。

 それはいいことだ。これからも相棒には活躍してもらいたいからな。


「ふぁふぃふぉふぁいふぃふぁふぉふふぇふふぁふぁ、ふぁんふぇんふぉふぃふふぉふぁふぉうふぇんふぇふ」


「何言ってんのかわからねぇんだよ!? 食うか喋るかどっちかにしろ!!」


「……」


「結局食べんのか!!」


 突然、口に物を入れながら意味不明な言語で話すタライヤ。

 注意したら、飯を食う方を優先しやがった。何が言いたかったんだ結局。


「と、取り敢えず頂きましょうかモナーガさん。はいおしぼり」


 俺は差し出されたおしぼりを受け取り、手を拭く。

 何だかんだで俺も腹が減ってるし、折角のラーメンが伸びる前に食べるとしよう。

 麺に関しても、俺が地球で買ってきてストックしてあるのだ。


 箸を手に持ち鍋の中を覗き込む。スープが煮込まれて味噌色に染まった中に、チャーシューが浮かんでいた。もやしに煮卵もうまそうだ。


 必要な分をお椀に入れて、口の中へと麺をご招待。


 コシがあって、モチモチとした食感だ。噛む度に旨味のある汁と絡み合い、濃厚で深みある味わいを生み出している。これはうまい。


 続いて具にも手を付ける。煮込まれたもやしは程よい歯応えがあり、甘みがある。口の中にシャキシャキした音が広がる。そしてチャーシュー。豚バラ肉をタレに漬け込み、じっくりと煮込んだものだ。トロリと柔らかく、それでいてしっかりと噛みごたえもある。


 いやあ、満足! スーラ君にレシピ本をプレゼントしてよかった。地球で買った本にはそういう物も含まれていたのだ。


 いろいろあったが、こういう一日の締めも実にオツなもんだな。


「あ、それ私が予約したお肉ですよ」


「そんなシステムはねえよ!」

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