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第30話 我らは栄光であれ!

「君たちが私と組みたいと言う新人君達かな?」


「そんな事言った覚えはないけど、一緒にパーティを組んでくれるなら歓迎だよ!」


「勿論さ! そして何も心配する必要は無い! この私がいれば、どんな敵だってイチコロさ!! 私の広い背中を見て、成長の糧としてくれたまえ!!」


 続けてハーッハッハッハと大仰に笑うアピタ。

 そんな彼女を見て、新人冒険家の少女も釣られて笑い出した。


 しかし、もう一人の新人と思われる深く帽子を被った男は、頭を抑えて額にシワを寄せる。

 足元では、そんな彼を慰めるかのように白い猫がすり寄っていた。


「…………何なんだこれは?」


「おお、大丈夫かい青年?」


「ああ、大丈夫だ。大丈夫だからもう少し静かにしてくれないか。頭に響く」


「おや、すまない。しかし、どうして君はそんなに気分が優れていないのかな?」


「……さあ何でだろうな。それよりもだ、貴女が私達と冒険へと出てくれるという事でよろしいか?」


「ふふふ、何度も言わせないでくれと言いたいところだが、君たちは冒険に胸を踊らせている新人なのだから分かる。いいとも、改めて自己紹介しようじゃないか」


 そう言うとアピタは姿勢を整えて、ビシッと指を突きつけるようにポーズを決める。


「我が名は『剣姫』アピタ・エスパーダ。天の調しらべを聴き、世に蔓延はびこる魔に鉄槌を下す勇!!」


 高らかに自らを語る様は、まるで大舞台に上がった主役かのように堂々としていた。

 その姿はまさしく剣姫と呼ぶに相応しいものだっただろう。きっと。


「さぁ、共に行こう! 私達の未来の為に!!」


 アピタは声を上げて宣言すると同時に、マントを大きく翻した。


 その瞬間、アピタの背後から光が溢れ出す……ような幻覚を青年見た。思わず目眩にも似た感覚に襲われる。だが、それも一瞬の事だった為すぐに持ち直す事が出来た。


 しかし、傍らの少女はアピタの見得切りに興奮の様子。


「か、カッコイイ!! 凄く素敵だよ!!」


「ありがとう! そう言って貰えると嬉しいよ!」


「うんうん!! ねぇ、お兄ちゃんもそう思うよね!?」


「頼むからこっちに振るな」


 恐らく少女の兄だと思われるその青年は、迷惑そうな顔を少女に向ける。が、そんなものは見えないと言わんばかりに少女は青年の腕に抱きついた。


「おい!」


「いいから、いいから。ボクの名前はユールー! で、こっちはアルフェンお兄ちゃん! よろしくねアピタさん!」


「うん、仲良き事は美しきかな。これから一緒に頑張ろうじゃないか!」


 アピタはそう言って、手を差し伸べる。

 すると、少女は嬉々としてその手を握り返した。


 握手を交わす二人。その様子を見て、青年はため息を吐いた。

 そして、そんな様子を眺めながら、アピタは満足そうに微笑むのであった。


 ◇◇◇


 それから暫くして……。


 場所は変わって、街の外。

 そこで、新パーティは魔物との戦闘を繰り広げていた。

 相手は毒蛇型のゲルマンダ。全長は二メートル程あり、牙には猛毒を持つ凶悪な存在だ。

 その群れを相手に三人は戦い、その数もあと一匹。


「ようし! これでおーわりィ!!」


 ユールーの剣が振り下ろされ、最後のゲルマンダを倒す。

 それを見て、アピタは大きく笑った。


「ハッハッハ!! やるじゃないか、ユールー君!! どうやら私の出る幕が無かったようだ!!」


「えへへ……、それほどでもぉ~」


 豪快に笑い声を上げながら、新人冒険者であるユールーを褒め称えるアピタ。

 褒められて素直に喜ぶユールーを横目に、アルフェンは剣についた魔物の体液を振り払いながら、思案する。


(何故、こんな事に付き合わなくてはならない。どう考えても閣下の命令外の行動だろう)


 気づいた時には遅かった。巻き込まれ、流れに逆らう暇も無くこの場に立ってしまっているのだから、本人は不満だった。


「やれやれ。アルフェン君も喜んでみないか? 君の妹君が初の実戦で武勲を立てた記念すべき、瞬間なんだよ? 君にはスマイルが足りない! ほら私を見習って共に称え合おうじゃないか!! さあ、さあ!!」


(何故、こんな鬱陶しい女と組まなければならないのだ。ユールーといい、全くどうして……)


「お兄ちゃ~ん! やったよぉボク! えっへへ、褒めて褒めてぇ!」


「ええい! いちいち抱き着くな、暑苦しい!!」


「そんな照れなくてもいいじゃん。もうもうもう!!」


 己の腰元に抱き着いてきたユールーに、アルフェンはユールーの頭を手で抑え付け引き剥がそうと試みる。だが、ユールーはそれを意にも介さず、そのまま頬ずりまでしてきた。


「うむ! 仲良き事はなんとやらだな! よし、私も混ぜてくれ! 親交を深め合おうじゃないか。ユールー君、アルフェン君!」


 何を勘違いしたのか? アピタは、美しい兄妹愛に関心してそんな事を言ってくる始末である。


「ふざけるな止めろ! 離せ貴様ら!!」


「やぁだよぉ~。お兄ちゃん大好きぃ!」


「はは、良いじゃないか! パーティは一心同体であってこそだ!! ははは、可愛い奴だな君は!」


 アルフェンによる怒号が鳴り響きながら、抱き着く抱き着かないの二対一の戦いはその後も一進一退の攻防を繰り広げながらも、最終的には数の暴力でアルフェンの負けで終わったのだった。


 その有様、まさに阿鼻叫喚。


「貴様らには羞恥心というものが無いのか?!」


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