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第六十五話「人身売買島」

「ふむふむ……なるほどねぇ」


 ヒナさんは黙々と作業を続けていたから、邪魔しないように後ろから見ていた。

 だけど、30分ほどたった所で、お茶を出してみる。


「あの……お茶でもどうぞ」

「ん。ありがとー」


 画面から目を離さずに、お茶を口に含んだ。

 そして、暫く立った後に、私達がそわそわしている様子を見て気にかけたのか、ヒナさんが声をかけてきた。


「何か言いたいことあるの?」

「あの、ヒナ姉って呼んでも良い?」

「ぶ!」


 ヒナさん改め、ヒナ姉が口に含んでいたお茶を噴き出した。


「いきなり何言うんすか!」

「だって、私達のことを妹と弟って言ってくれたから」

「はあ……好きにして」


 頬を赤らめながら許可してくれた。


「でも、美琴は不思議だね。さっきまで言い争いみたくしていた自分にこうやって距離を詰めてきて。それに、雪乃とかいう新人ちゃんとも命を賭けて戦った相手なんでしょう? よく同じメンバーで仲良くしてるっすね」

「雪乃は雫姉さんの絡みもあるから私だけの力では無いような」

「でも、なんか人を惹きつける魅力みたいなのはあるっすね。同じアイドルだから、そーいうのには敏感なんすけど」

「ああ。その通り、美琴はとても魅力的だ」

「そ、そんな……」

「イチャイチャするな!」

「……ごめんなさい」


 ヒナ姉が机を叩きながら怒ってきた。


「そういえばもう一つ気になってたことがあるけれど……ヒナ姉はアイドルで裏稼業もやってるってことだよね? それじゃあ、他のメンバーも?」

「うん。そうっすね」


 あっさりと驚くべき答えが返ってきた。


「狂歌さんからは、聞かれたことが正しかったら本当のことを教えていいって言われてるっすよ。もちろん、当てずっぽうに聞くのは無しっすよ」

「え? そうなの?」

「あんたらは狂歌さんから一定以上の信頼を得たってことっすよ」

「そうなんだ……」


 少しだけ、嬉しい気持ちになった。

 つい先日まで敵だと思ってたから、少し複雑な気持ちだけど。


「狂歌さんって何者なんだろう」


 ポツリと進士が呟いた。

 本当にそうだ。まあ、それをこれから調べていくんだけど。


「もちろんそういう聞き方には答えられないっすよ。というか、自分に依頼してきた情報処理。これを手掛かりに狂歌さんが何を考えているか調べていくんでしょう?」


 そう言いながらヒナ姉は情報処理の結果をまとめたものを見せてきた。

 そこには、驚くべき結果が表示されていた。


「え……? どういうこと?」

「……」


 私と進士はモニターを見て固まった。


「画面に映している通り、USBに保存されていた情報は人身売買に関する情報だよ」


 ◆◆◆


「ちょっと楽曲作りに集中したいから、このPCそのまま借りるね。あと、今日はここに泊まらせて」


 そう言うと、ヒナ姉はヘッドフォンを着けて作業に集中した。


 その間、進士と情報の整理をすることにした。


「まさか、日本で人身売買が行われていたなんて……。なんとなく、裏でそういうことが行われているかもしれないって思っていたけれど」

「まあ、俺も噂で聞いたことがある。日本人の臓器は人気らしい」


 日本だけでなく、世界中で人身売買が行われているらしい。

 小さい子を狙った売春や臓器目当ての誘拐、殺人。

 行方不明を利用した戸籍盗み「背乗り」。


 今回、これまで私達が会社や公安から盗んできた情報は、そういった人身売買が行われている証拠となるものであった。

 もちろん、公安は人身売買を調査する立場で、会社側が人身売買に関わってきた立場。


「狂歌さんは、俺達に人身売買の証拠を集めさせていたってことになるのか」

「そうなるね。あ、ここ見て!」


 私は人身売買の取引に関するスケジュール資料を見つけた。


「基本的に島で人身売買が行われてるみたいだけど……来週に大きな取引が予定されてるみたいね」

「そうだな。そういえば……同じ日に俺達の予定も空欄だな。戦闘訓練もダンスレッスンも無い」

「もしかして、狂歌がこの取引を阻止するように動くのかな……?」


 私と進士はお互い見合った。

 そして、考えていることも同じだった。


「外出する許可をもらおうか」


 ――ちょうどその時、狐面の巫女が料理を持って部屋に入ってきた。


「ありがとう! って、手紙も一緒に?」


 料理と一緒に手紙も届けられた。

 その内容は、私達の外出許可に関する内容だった。


「狂歌さんは、ヒナさんに俺達に協力させるよう動いた時から、俺達も手伝わせるように考えてたのかもしれない」

「本当に準備が良いというか、策略家というか……。何手先まで考えて行動しているんだろう」


 改めて、狂歌の凄さに驚かされる。

 しかし、この外出許可をどう使うか。どう自分達は動き、この悪事を暴くか。

 そのことを考えていかなくてはならない。


 と、その前に。


「ヒナ姉。夕飯一緒に食べよう。あとあなたも」


 ヒナ姉と狐面に声をかけて一緒に食卓に座らせた。

 わたしがこうすることを予想していたのか、いつもより料理の量が多かった。

 狐面は嬉しそうに私の隣に座った。


 その後は皆で和気あいあいと夕食を食べて、就寝することにした。


「ねえ、今日は一緒に寝ない?」


 私は狐面に声をかけた。

 ヒナ姉が「泊まらせて」と言うから一緒に寝ることになるんだろう。

 一応、彼女とは打ち解けたとはいえ、今日会ったばかりの人だ。

 安心できる同性も巻き込みたい気分。


「……!」


 ぴょんぴょんと狐面は嬉しそうにジャンプして喜び、抱き着いてきた。

 可愛い。


「さあ寝るっすよー」

「ってヒナ姉! もう布団入ってるの?」

「アイドルは早く寝なきゃねぇ」


 ヒナ姉の自由奔放さに呆れながら布団に入る。

 大きいベッドだから四人同時に入っても大丈夫! ……ってそういえば。


「俺はソファで寝るから大丈夫」


 進士が気を遣ってくれた。

 何故か鼻にティッシュを詰めているようだが。


「自分は気にしないからいいっすよー」


 ヒナ姉の言葉に狐面もうんうんと頷く。

 しかし、進士はとんでもない事を言ってきた。


「百合の間に挟まるくらいなら、俺はここで自害する」

「……」


 これも狂歌の教育か?

 何を教えてんだよ!!!!

 変な方向に成長しなくて良い!!!


「なるほどなるほど、そうっすかー。それならば、このデータを渡しましょう」

「……これはまさか、百合漫画?」

「自分のお気に入りのコレクションっす」

「ありがとうございます!」


 進士は勢いよくお礼を言うと、PCを付けてまじまじとモニターに向き合った。


「変なこと教えないでよ……」


 ヒナ姉は私の言葉を無視して、こちらに背を向けて寝た。

 仕方が無いので、私は狐面ちゃんを抱き枕にして寝ることにした。


 狐面ちゃんは温かくて柔らかくて、気持ちよかった。


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