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第七十一話「プロジェクト:ニューワールド・オーダー」

<狂歌視点>


「きゃははは。まさか……ドローンによるテロを起こそうとしていたとはな。クソ野郎ども。そしてスサノオもどき。まさかあの後こんな所までやって来て、こんなクソダセぇことやってたとはなあ! びっくりしたわ! きゃははははは!」


 狂歌はスサノオに殴られた。

 彼女は柱に縛り付けられて動けない。

 そのため、防御することもできずにその攻撃を顔面に受けることとなった。


 狂歌はボロボロの状態で男達に囲まれている。

 スサノオが彼女の目の前に立ち拷問し、周囲の人間はその様子を見守っている。


「お前も無様だな。バルクネシアではあんな強者ぶっていた。それが何だ? 少し人質を見せただけでビビッて大人しく捕まった」


 スサノオは、この島で捕らわれているであろう女性二人を狂歌に見せつけた。

 二人とも着物を着ており、この場所に居る者達へあらゆる接待をしていたことが伺われる。


「ビビッてんのはテメーだろ? 人質……しかも女を盾にしなきゃマトモに狂歌の前に立てねーんだろ? きゃはははははは!」

「黙れ!」


 再びスサノオが狂歌を殴った。


(あーちきしょう。狂歌の悪い所が出たな)


 狂歌は排気口へ潜入した後のことを振り返った。

 目論見通り、敵のアジト中枢へ進むことができた。

 そして敵の作戦会議を直接聞き、今日行われるテロ行為の全貌を掴むことができた。


 しかし、人質になっている二人の女性が余興として殺されそうになった。

 女性に対して引き金が引かれる寸前、身体が勝手に動いて助けようとしてしまった。


 結局、こうして捕まってしまった。


「無様だな。自分の正体を明かさずに裏で立ち回っていたんだろ? お前の事を知る裏の人間は居なかった。だけど、最近色んな場所でお前の妨害行為が目立っていたから本当に目障りだったんだ」

「きゃはははは。別に正体隠してるわけじゃねーよ。狂歌は狂歌だ。狂歌のことがわからずにオメーらが慌てふためいてたのは、純粋にオメーらがトロいだけだろ!」

「この減らず口がぁ!!」


 スサノオは何度も狂歌を殴った。

 顔面、頭部、腹部、と殴れる場所全てを殴った。


「どーだ? 気が済んだかバカ野郎」

「こ……この野郎」


 顔面を血で濡らしながら、スサノオを嘲笑う狂歌。


「なるほどなぁ。この島で作った生物兵器――殺人ウイルスをドローンに乗せて運ぶとはな。考えたじゃねーか。異様に島周辺で電子機器の流通が活発になっていたと思ったら、島内でドローン製造までやってやがったのか」


「これは始まりに過ぎない。あらゆる作戦の一つでしかない。今の支配構造を破壊し、新たな世界を作り上げるためにはこの国で地獄を作り上げる必要がある」


 狂信的に演説するスサノオに対して、狂歌は侮蔑の言葉を送った。


「オメーは脳に筋肉が詰まってるようだな。よーく考えろバカ野郎。この狂歌様が教えてやるよ」

「何だと?」


 狂歌はこの場所に居る者以外――美琴やジェムズ・シャイン達へ届けるためにも言葉を紡いだ。

 口内に溜まる血液を吐き出しながら。


「オメーらは【プロジェクト:ニューワールド・オーダー】という計画に利用されている駒なんだよ。争いの無い、平和で持続的な社会を形成するための全世界を巻き込んだ計画だ」


「……」


 スサノオは黙った。


「スサノオ。オメーは日本でテロを起こそうと躍起になっているのは衛星兵器を狙っているからだろ?」


「……」


「裾野スマートシティでの事件の後、人の心に干渉する特殊能力を持った女性が衛星兵器に積み込まれ、宇宙空間へと打ち上げられた」


「……」


「この衛星兵器は全世界を洗脳の光で包み込むという代物だ。全世界の人間が洗脳され、一つの光の下に集う。きゃははははは! そんなクソみたいな世界を作ろうというのが【プロジェクト:ニューワールド・オーダー】という計画だ」


「……」


「なァ。オメーはこんなクソみてーな兵器に大事な人が使われてんのが許せねーんだろ?」


「だったら!!!!」


 スサノオは激高した。


「そこまで知っておきながら、何故何もしない! 何故この国を守ろうとしているんだ!」


「きゃははは」


 スサノオは嘲笑う狂歌を睨んだ。

 しかし、狂歌は至ってシンプルな答えを述べた。


「戦う相手を間違えてるだけだろ。オメーは単純に考えすぎなんだよバカ野郎」


 ――パチパチパチパチ。


 突然、一人のスーツ姿の男が拍手をして話の間に割って入ってきた。


「これはこれは素晴らしい演説でした。しかし、そろそろ時間です。無駄なお喋りはこのくらいにしましょうか」

「あ? なんだテメーは」

「別に私は何者でもありませんよ。気にしないでください」

「嘘つけバカ野郎。オメーは某国会議員秘書の山上だろ? うまいことバルクネシアで国会議員に女性をアテンドしてハニートラップ仕掛けやがって」

「何ですかね? その話は」

「きゃはははは。もっと教えてやろう。大震災で亡くなった人の戸籍を乗っ取る『背乗り(はいのり)』で山下って犠牲者のフリしてるクソみてーなバルクネシア人だよなァ?」

「……よく喋る口ですね」


 狂歌に山下と呼ばれた男は拳銃を取り出し、狂歌の額に向けた。


「どうやらこの肉の塊には沢山の素晴らしい情報が詰まっているようだ。これで穴を開けたら、さぞかし素晴らしい経済効果が生まれるでしょう」


「きも。映画に出てくる悪役のセリフを真似してんのか? 無理すんな。オメーには文才も悪役の才能も無いただの雑魚だ。バルクネシアで首相補佐って肩書で身を隠してるクソ野郎だよ」


 山下は狂歌の落ち着き払った姿を憎たらしく思い、笑顔が引き攣りだした。


「はははは……不思議だな。この期に及んでも、ここまで下らないことを言えるとは。余裕ぶっても仕方ないのに。状況把握する能力が足りていないらしい」


「きゃははは! その言葉、そっくりそのまま返してやるよ。状況把握できてねーのはオメーの方だバカ野郎。すでに狂歌は弾丸を放っている。その内オメーの眉間を貫くぞ?」


「何だと!?」


 山下は慌てて周囲を見回した。

 スサノオも、周囲の男達も状況確認をした。


 狂歌は敵の無様な光景を見て笑い、頭上を見上げた。


 ――頼んだぞ。狂歌の可愛い弾丸達。


 狂歌はチームメンバー皆に対して小声で言葉を送り、意識を闇の中に沈めた。


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