<ピヨちゃん(狂歌)視点>
「めんどくせぇな。碌でもないこと思い出しちまったよ」
会いたくない人と出会ってしまったわ。
今は「狂歌」という仮面を被っているのに。
「本当に……ピヨちゃんなの?」
「なに惚けたこと言ってんだよ。それ以外に誰が居んだよ」
「だって……雰囲気全然違うじゃん。それに言葉遣いも……というか、そもそも死んぢゃったと思ってたし……」
「おいおい、泣くんじゃねーよ。というか、今は昔話なんかしてる暇なんか――」
「ちょっと! ピヨちゃん!? 大丈夫!?」
まずい……。
安心したら眠くなってきた。
力も抜けてくる。
過去に置いてきた記憶が蘇ってくる。
◆◆◆
――昴達と施設で育てられた幼少期。
「国を守るための修行?」
「そうです」
白衣を着た研究員達が、わたし達幼子に各々の『在り方』を叩き込んできた。
わたしはPP404番。
『伊邪那能力開発局』という施設で育てられた。
ここは国を守るための特殊な戦士を育てるための施設。
秘密裏に裏の世界で戦う人間兵器を生産する工場。
大人となったわたしには理解できるけれど、当時のわたし達からしたら普通のことであった。
真っ白な建物で真っ白な壁に囲まれている。
無駄な物なんて何もない。
わたし達だって真っ白だ。
心も頭の中も全て漂白されて、戦う術を叩き込まれていく。
わたし達は一人ひとり番号が振られ、殺戮人形として「作られ」ていく。
――でも、わたしは出来損ないだった。
「ピヨちゃんは優しすぎるんだよ」
「確かにそうかもしれないね。M917番は何も考えてないだけだけど」
「は? M731番はいじわる!」
「きゃはは。二人は仲が良いね」
「「良くない!!」」
わたしは戦闘が苦手で、いつもボコボコになってピヨピヨしていた。
だから、M917番とM731番――今でいう鈴谷昴と藤間凛から『ピヨちゃん』というあだ名で呼ばれていた。
「二人とも凄いよ。わたし達の中でトップレベルに強い。電気や炎を操る異能の力も圧倒的。わたしには何の異能の力も無いのに……」
一般人の中でいう小学生くらいの年齢だったわたし達。
過酷な環境の中で、励まし合って生きてきた。
「ピヨちゃんだって凄いじゃん。対人戦はからっきしだけど、他の成績は超優秀!」
「M917番と違って頭も超良いしね。私達の中では一番頭良いんじゃないかな?」
「ボクだけを馬鹿扱いするな! M731番だって馬鹿じゃん!!」
「きゃはは。でも、対人戦が一番重要だよ」
「いやいや、ていうかさ」
その後にM917番が言ったことを今でも覚えている。
――「クラスで生き残ったの、ボク達だけじゃん。それだけでも凄いよ」
同期は1,000人以上居たはず。
1クラス40人。
わたし達以外の37人は皆命を落とした。
過酷な『教育』に、小さな身体が耐えきれなかったから。
「確かに。でも……心配だな。明日の実戦訓練」
「うん。緊張するね」
これまで施設内での特訓を送る日々であった。
だけど、明日は施設の外で行われる作戦に参加することとなっている。
――それは、わたしの運命が変わる出来事でもあった。
◆◆◆
「はぁ……はぁ……。ここは、どこ?」
いま、わたしは一人。海上でプカプカと浮いている。
――夜間の海上で行われた作戦。
他国の船との接触により、わたし達が乗っていた船は破壊されて沈没してしまった。
M917番とM731番は別の船に乗っていたから大丈夫だろう。
成績別で乗る船が分けられていた。
わたし達落ちこぼれ組の船だけが海の藻屑となった。
「このまま死んじゃうのかな」
船の残骸に掴まり、浮くことししかできない。
周囲は暗闇に包まれ、頭上に浮かぶ月と星々だけがわたしの事を照らした。
憎らしいくらいに美しい光景。
やっと外に出て見られた美しい夜空。
憧れていた世界。
だけど、みんな死にゆくわたしの事を嘲笑っているように見えてくる。
「死にたく……ない。死にたくない! いやだ! 死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない!!!」
心の中で沸き上がる絶望、悲しみ、怒り、憎しみ。
施設で育てられている間に無くしてしまったと思っていた感情。
それが突然蘇り、怨嗟の言葉となって口を通して溢れてくる。
でも、それを受け止めてくれる者は存在しない。
それどころか、波音でかき消されてしまう。
「うぅ……」
無力感に支配される。
こんな思いをするために、わたしは作られたのか。
――しかし、そんなわたしの事を神は見放さなかったらしい。
「これは……歌?」
何もないはずの海上。
しかし、何故かわたしの耳……いや、魂が捉えた。
「賭けてみよう」
わたしは、不思議で熱い旋律を道しるべに泳ぎ出した。
真っ暗で何も見えない。
だけど、この音なら『視える』。
信じられないことに、耳だけでなく目に視えるようになってきた。
真っ暗なキャンバスの上を、虹色の波紋が幻想的に彩っていく。
――共感覚。
音を辿り泳いでいくうちに、どんどん音の光が強くなっていく。
だから、決して迷わない。
わたしを呼ぶこの旋律は、決して私を裏切らない。
そう、確信したのであった。
――そして、辿り着いた先には悪魔の恰好をした女神が居た。