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最終話:貴方と共に~君と共に~



 リリィとエミリオの婚約が決まって数年が経ちました。


「フィレス王太子様万歳―!」

「リリィ王太子妃様万歳―!」

「ご結婚おめでとうございます!」


 王都が、国中が歓声に包まれました。

 リリィとフィレス殿下の結婚が決まったからです。

 これから、リリィは公爵家の娘ではなく、王太子妃として王宮に住むことになります。

 フィレス殿下と共に暮らすのです。


 そしてしばらく二人で政治の勉強をしたら、王妃様と国王様はその座を二人に譲るでしょう。

 我が子がこのような運命になるのを予想はしていませんでした。


 それと、その少し前にエミリオとリチアさんが結婚しました。

 多くの友人達に囲まれ、親族にも囲まれ幸せそうな結婚式を行きました。


『エミリオ、其方はリチアを妻とし生涯愛することを誓うか』

『はい誓います』

『リチア、其方はエミリオを夫とし生涯愛することを誓うか』

『はい誓います』


 そう言って誓いの口づけをする二人、我が子の結婚式をこのように見られるなんて夢のようでした。


 そもそも、夢なのでは無いかと私は疑ってしまって、何度も頬をつねりました。

 でも、痛かったです。


 十年以上前、あの男から見捨てられ虐げられ、継母と継子達にこき使われるようになってから私は夢を見なくなった。

 夢を見るだけなど辛いことだから。

 現実との差異が大きいほど辛くて仕方なかったから。


 でも、レイオス様と出会ってから私は夢を見る事を恐れる事は無くなりました。

 夢を再び見るようになりました。

 夢と言えばティア様の騒動があったけど、ティア様はリチアさんとして生まれ変わり、もう欠片も消えてしまって、人格も消えてしまった。

 残ったのは一部の人だけが知る、リチアさんはティア様の生まれ変わりという事実だけ。

 それも、いずれ意味を成さないものになるでしょう。

 だって、リチアさんはリチアさんなのですから。

 私の大切な息子、エミリオの大切な奥さん、その事実だけで充分です。


 結婚式では、皆うれし泣きしましたが、特に公爵様が号泣しておられました。


『エミリオ、私とスノウの可愛いリチアをよろしくなぁ!』


 と言ってうおぉおおん、と号泣成されていました。

 あまりの号泣っぷりに引く方々も多くいましたが、フレンさんとスノウさんが宥めていました。

 そしてフレンさんはクレスト侯爵のご息女、アリナさんと結婚をいたしました。

 私が面倒を見た子の多くは結婚したりしていました。

 メンフィス公爵家ですが、レオンさんが跡取りになり、ルークさんは騎士団に入られました。

 ルークさんは家に帰る度に──


『ゼスティックの爺さん強すぎだよ、何なんだよアレ!』


 とぼやいては料理を豪快に食べて居るそうです。

 レオンさんはエドモン辺境伯様のご息女アリッサさんと結婚をしました。


 まだ結婚していない方も多数いますが、いずれ結婚する事となるでしょう。


 また、メンフィス公爵様の家はもうメンフィス公爵夫妻はレオンさんに公爵家を任せ、ほぼ後ろ盾くらいのことしかやらなくなった──実質隠居成されたそうです。

 百年以上も公爵として働いていたのだから、もういいだろうと、メンフィス公爵様はおっしゃいました。

 今、レオンさんは──レオン公爵様として頑張っている最中です。


 いずれ、私達もエミリオに任せて隠居するつもりですが──


『私はまだまだ国王陛下達がさせてはくれまいよ』


 と、レイオス様は悲観的。

 どうやら今まで逃げていたあれこれをやるように言われた様子。

 なら仕方ないですね、レイオス様。


 レイオス様と私が隠居する頃には、フィレス殿下とリリィは国王陛下と王妃殿下になっているかもしれませんね。


 現国王様と王妃様はまだまだ二人は未熟と判断し、仕事を色々と任せて全てをこなせるようになり、なおかつ余裕を持って行えるようになったら隠居すると公言しておりました。


 フィレス殿下もリリィも優秀ですが、更に優秀な現国王様と王妃様のレベルに到達するにはまだまだです。

 ですから、私達の隠居もまだまだでしょう。

 その間に、エミリオとリチアさんに教えるべき事を教えなければ。


 一方公爵様とスノウさんは、フレン君が結婚すると一ヶ月後には隠居なされました。

 あまりの速さに私もレイオス様も驚きました。

 公爵様──いえマリオン様曰く


『俺みたいな百年以上も貴族の当主やっている奴は老害になる前にさっさと隠居するに限る』


 と、発言なさいました。

 スノウ様は苦笑し、


『マリオン様がおっしゃるなら、そうなのでしょう』


 と言って、今は領地の別荘で暮らしています。


 リリィとフィレス殿下の結婚を機会に自分の子に爵位を譲る子が多数出ています。

 多くの方がこうおっしゃっていました。


『私達は長く居座りすぎた、戦争の傷が消えるまでと、いいながら』


 百年前の戦争の傷はもう、残っていないから、と笑っておっしゃいました。

 ですが私にはまだそう思えないところもあります。

 レラの件が本当に全て片付いたのか、そして実は生き残っていた黒炎の一族は平穏に暮らせているかなどです。


 レラの件は皆様がもう大丈夫だろうと、おっしゃっていましたが……

 忘れた頃に現れるので私は安心できないと、レイオス様におっしゃると──


『確かに気にはなるだろう、でももうそれは私達が解決することじゃない、子ども達に任せる事だ』


 と、おっしゃっていました。


 実際そうでした、フィレス殿下が王太子になった時やったのは国中の調査でした。

 そこでレラのしたことが何件も見つかり対処することになったときは、レイオス様はとても嫌そうな顔をしていらっしゃいました。


 レイオス様はかり出され、げんなりした顔で戻って来ました。


『これでレラは終わりにしたいな、だが、もし見つかったら息子達に任せよう』


 と、おっしゃいました。



 多くの人々に祝福された我が子の結婚式の後日、伯父様アルフォンス伯爵様からブルーダイヤの原石が送られ、それを研磨して王太子妃になったリリィに送ってやってほしいと。

 確かにブルーダイヤも取れると聞いていましたが、ここまで見事な原石は初めてでした。

「伯父様、何かタイミングが良すぎるのですが……」

「そうだな、ある鉱夫が見つけて是非、レイオス公爵様の御息女であり、王太子妃であるリリィ様に、と」

「はぁ」

「……まぁいい、娘とフィレス殿下に丁度良い土産だ」

「はい、そうですね」

 私は頷いた。





「……これでいのか?」

「ああ、礼を言う……」

 鉱山の近くの山小屋で、伯爵夫妻は、とある・・・奴隷鉱夫と会話をしていた。

「あれがあれば、ただの鉱夫にする位できるんだぞ?」

「いいんだ、私は娘と妻を裏切り続け、領地も領民も裏切り続けていた、ここで奴隷鉱夫としてひっそり死ぬのがお似合いだ……」

「──65歳」

「え?」

「奴隷としても鉱夫としても働かせられる最高齢だ、それが終わったら首輪を外し、我が敷地内の老人用の施設で暮らせ、良いな」

「……すまない、すまない……」

 奴隷鉱夫は──ルズは泣いて嗚咽を漏らし、感謝した。

 許されるとは思っていない、だが、幸福を望むのを許して貰えたことがうれしかったのだ──





「リリィ王太子妃様」

「お母様! リリィでよいのよ?」

「そう、リリィ。贈り物は気に入ってくれた?」

「ええ、ええ、フィレス殿下とおそろいのブローチ、ありがとうお母様」

「それは良かった」

「お父様もありがとう」

 子ども達は親の手を離れる、そして一人大きくなるのだ。





 そして、時間は流れ──

「アイリス」

「レイオス様」

 私達も隠居をし、穏やかに暮らしている。

 時折マリオン様とスノウさん夫妻がやって来て一日中のんびりすることもあるが、今日は来ないようだ。

 ゆっくり朝食をとり、穏やかに日々を過ごす。

 社交界からも遠ざかったが、レイオス様が苦手だったものから遠ざかったのでよしとするし、私もあまり好きでは無い。


「レイオス様」

「なんだい、アイリス?」

「私、レイオス様と出会えて幸せでした」


 微笑みながら言うと、レイオス様に抱きしめられました。


「れ、レイオス様?」

「私を置いて逝くのかい?」

「いいえ、貴方と共に逝きたいのです」

「それならば良かった」


 レイオス様は微笑みます。

「私も君と出会えて幸せだよ」

 そう言って口づけをします。


 レイオス様、死が二人を分かつとも、私は貴方の側にいます。

 ずっと、ずっと。

 愛しています──





 アイリス、私は私の命が尽きるまで、友にいよう。

 死が二人を分かつことはない、死してなお、君と共にいよう。

 愛している、永遠に──











END

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