視聴覚室に集った一同からの視線を一身に集めながらも、ちょっと残念な結果に終わったランウェイのモデル・ウォーキングを見届けたあと、わたしは、みんなの前で、『深津寿太郎・
第4フェーズ:ボイトレおよび宣伝活動期間 について
三週間ほど前、映文研メンバーと友人のふたりに披露した資料の九ページ目を表示させ、計画の締めとなる最終フェーズの解説を始める。
「さっきのお披露目会では、最後にちょっと残念な
わたしが、最後になる予定のプレゼンテーションを開始すると、向かって右手側に座っている映文研のメンバーから質問が飛んできた。
「いまのままでも、寿太郎のアップデートは、十分に成功しつつあると思うんだが……ボイトレまでして、
そう問いかけてきたのは、映文研の副部長だった。
当然、こういう質問が出てくるのは予測できていたので、すぐに回答を提示する。
「たしかに、深津くんの
わたしの問いかけに、予想どおり、室内の女子メンバー四人の手が一斉にあがる。
「みんなは、どんな声が好き?」
ふたたび、彼女たちに問いかけると、
「ウチは、斎◯工と中◯倫也かな?」
「私は、高◯一生さんかな? アニメの『耳をすませば』の声もイイよね?」
「私は、麒◯の川◯さん! やっぱ、お笑いも声が重要だと思うし、ネタの幅が広がるもん!」
「皆さんに通じるか、わかりませんが……VTuberの剣◯刀也さんの声が好きです」
ナミはともかく、あまり自己主張をすることのないリコや、大人しそうな伊藤さんまで、かなりの熱量を持って語ってくれたのは意外だったけど、映文研の男子メンバーには、十分にわたしの意図が伝わったようだ。
そして、
「なるほど……」
と、うなずく男性陣のようすを確認しながら、次の話題に移ろうとしたんだけど――――――。
彼らは、プレゼンターであるわたしの意志を無視し、勝手に自身の趣味を語り始めた。
「やっぱ、声は大事ですよ! 僕も、一度は佐◯綾音の声で、『セ〜ンパイ』って呼ばれたいですもん!」
「いや、年下キャラなら、篠◯侑さんの『お兄ちゃん』一択だろ!?」
「
「みなさん、冷静になりましょう……小◯唯さんをママと慕えば、すべての問題は解決するのです」
そういった方面に関心が薄いのか、三年生のふたりは黙して語らず、映文研の下級生メンバーは、勝手気ままに持論を苦笑しながら眺めている。
(いや、あなたたちの意見は聞いてないんだけど……)
(でも……寿太郎は、どんな声が好きなんだろう……? やっぱり、リコみたいに繊細でお淑やかな声がすきなんだろうな……)
などと考えつつ、プレゼンの進行を再開する。
「こうして、色々な意見が出るくらいだし……これで、
こちらの想定以上に持論が補強されたことに安心しながら、微笑を浮かべて映文研の同級生に語りかけると、やや渋い表情だった高須副部長は、「わかったよ……」と、つぶやくように同意したあと、
「しかし、この企画……寿太郎のイメチェン
そう前置きをしてから、
「声や話し方の指導まで入って来るとなると、いよいよ、『マイ・フェア・レディ』そのものの展開になってきたな! 寿太郎、念願の
と、冗談めかした口調で、友人の肩を叩く。
「なんで、オレが歌わなきゃいけね〜んだよ……あと、あの映画、歌声の部分は、ヘップバーンの声じゃなくて、吹き替えだぞ?」
先日、わたしにも話していた映画オタクらしい豆知識(?)で反論した寿太郎は、続いて、こちらに向かって質問を投げかけてきた。
「最後に言ってた、『学院アワード』の投票に向けてのオンラインや対面での宣伝活動ってのは、ナニをすれば良いんだ?」
「ネット上での宣伝活動は、わたしやナミに任せて! 今回の企画を情報解禁したことだし、《ミンスタ》や《トゥイッター》で、寿太郎を推しまくるから! それと、対面での宣伝活動には、映文研のみんなや柚寿ちゃんにも協力してほしいんだ……」
わたしの返答に、今度は、下級生たちが、反応する。
「なんですか、ボクたちに協力してほしいことって?」
「それはね……」
彼らの質問に答えると、映文研のメンバーや中等部の子たちは、一斉に顔を見合わせるのだった。