アサゴ基地で魔装武器を扱う適正者の訓練は、座学による指導もあるが、その大半が実践訓練になる。また、教官は実践訓練を行う現場の調整を行うこともある。
***
目の前に現れた物体を眺めたモーリスは、内心首を傾げた。
これは何だろうか。直径20㎝ほどの黒ずんだ円形の物体は厚みが3cmほど。ケーキと言うには薄っぺらいし、クッキーと言うには大きすぎる。持ち上げてみると重量感もあるが、せんべいと言うには厚みがある。そもそも焦げと一緒に漂ってくるのは甘い匂いで、醤油や米の匂いではない。
ちらりと横を見ると、唇を尖らせて拗ねているサリーがクッションを抱えて丸くなっている。
「
「失礼ね!」
「……いや、随分な重量感だと思って」
持ち上げた物体の表面は、ぼこぼことクレーターのように凸凹していて、ほんのりと温かい。
ほろほろと墨のような焦げが落ちた。
「……スコーン」
「は?」
「……だから……スコーンを焼いたの!」
「お前、料理は苦手だろうが。また何で急に」
「清良ちゃんに、簡単だからって教えてもらったの! 一緒に作ったときは、上手くいったんだから!」
「……スコーンね」
どう見たって得体の知れない円盤だ。匂いが辛うじて甘いので、お菓子を作ろうとしたことくらいは察していたモーリスだが、脳裏に本来の姿を思い浮かべると、無意識に顔を引きつらせた。
耳まで真っ赤なサリーは抱えていたクッションをモーリスの顔面向けて投げつけた。
「どうせ下手よ!……スコーン、美味しかったから、あんたにも食べさせたかったんじゃない」
「へぇ、俺の為に焼いたんだ」
「悪い!?」
つんっとそっぽを向いたサリーは、その直後、ガリっと響いた音に勢いよく振り向いた。
ぼろぼろと黒い炭が皿の上に落ちる。
「お、意外と真ん中は美味いんじゃねぇの?」
「……そんな炭、食べないでよ」
「食ってほしかったんだろ?」
「そうだけど……まさか、本気で食べるなんて」
「無事なとこもあるって」
焦げを削ぎ落し、食べられそうな箇所をちぎったモーリスは、それをサリーの口に押し付けた。
ぱくんと欠片を口にしたサリーはじわじわと涙を浮かべると「ごめんなさい」と呟いた。
「なんで、急に作ろうと思ったんだ?」
「それは……ほら、せっかく年末の休暇が一緒でしょ。だから、降誕祭を祝おうと思って……」
「
こくこくと頷いたサリーは唇を尖らせた。
「次は、一緒に作るぞ」
「……え?」
「お前、昔から大雑把すぎんだよ。どうせ分量とか火力とか、間違えたんだろ?」
「そ、そんなこと……」
何か思い当たる節があるのか、サリーはそんなことないと言い切れず、視線を逸らした。
「モーリス、料理、得意だった?」
「よほど複雑じゃなけりゃ、レシピ通りには作れる」
「……どうせ、レシピ通りにも作れないわよ」
黒い焦げを皿に残して無残なスコーンを完食したモーリスは、インスタント珈琲で口の中のものを流し込んだ。
「慣れりゃ出来るようになるだろ」
「本当に、そう思うの?」
「なるって。その為にも、少しずつ練習な」
「……また、食べてくれる?」
「任せとけ」
横で俯くサリーを引き寄せると、甘やかすようにその頬に口付けた。
額に、瞼に、再び頬に。いくつもキスの雨を降らせば、くすぐったかったのだろうか、サリーの赤い唇が緩んだ。
向き直り、見つめ合うとふわりと笑う姿があまりにも可愛くて、堪らず、モーリスは唇を重ねた。
柔らかな唇がゆるみ、熱い舌先が触れ合う。ねっとりと絡み水音を立てながら、時折、舌先を
サリーの口の周りが唾液で濡れそぼり、甘い吐息が零れたのを合図に、唇が離された。
赤い唇がぬらぬらと光り、少し不満そうに突き出される。
「今日は、エッチなことするつもりないんだけど?」
「したくない?」
「……意地悪ね」
「したくないなら、何もしないよ」
「あんなキスしといて、よく言うよね」
サリーは両手を広げると「床は嫌」と言い、それににやりと笑ったモーリスは軽々とその体を持ち上げ、ベッドに下ろした。
タオルで拭っても、まだバニラと焦げの匂いが残るモーリスの指が、赤い唇をなぞる。柔らかさを確かめるようにふにふにと触っていると、サリーはその指先を口に含んだ。物欲しそうにその先を吸い、さらに深く加えて指一本一本を丁寧に舐めていく。
ねっとりと絡められる舌先は熱く、まるで性器を愛撫するように這いまわった。
「そんなことしないでも、どこ触って欲しいか言えば良いんだけど?」
指を放したサリーは、それ恥ずかしいんだと言わんばかりに、頬を染めて視線を晒した。
「指をしゃぶるのって、手慣れてる感じがして……妬けるな」
「別に、手慣れてなんか……んんっ」
熱を持ったサリーの耳たぶに口を寄せ、モーリスはその柔らかな部分に歯を立てた。
チリチリとした痛みと熱が広がる箇所に、熱い舌先がまとわりつき、淫らな水音を立てる。
「ちょっ、わざと、舐めてるでしょ」
「ここが好きなのは、確認済みだしな」
「んんっ……やだ、奥、舐めたらっ……」
声を詰まらせたサリーは口元を手で覆うと声を堪えるそぶりを見せた。当然だが、それを良しとしないモーリスは、彼の手首を掴むと引き離しにかかる。
「声、聴きたいんだけど?」
「だから、
「隣のジンはトレーニングに行ってるって。あいつ、休日はいつもそうだ」
「で、も、誰か廊下を通ったら……ひあっ!」
もごもごと口籠っていると、突然、シャツの上から胸の頂を擦られ、サリーは声を上げた。
「聞かせりゃ良いって。他の奴らだって、ヤッてるんだし」
「なによ、それぇ……んんっ」
「アサゴは隊員同士の色恋にも、同性愛にも、うるさくないからな」
「そういうことじゃなくて、ちょっ、やだぁ」
胸の先端をくにくにと摘まみながら、モーリスは白い首筋を舐めた。それに震えるサリーの様子に気を良くし、どくどくと脈打つそこをきつく吸い上げると同時に、硬くなった胸の頂を抓
耐えられない
「もう……あんたらに、デリカシーは、ないの?」
「あんたら?」
ぴたりとモーリスの指が止まり、サリーはほっと小さく安堵の吐息をついた。
「他の誰かと、ここで寝たのか?」
「そういう事じゃないわよ」
「じゃぁ、どういうことだよ」
「それは……この前、廊下で……向かいの部屋から凄い声が聞こえたの。だから……」
自分の声も誰かに聞かれるかと思うと、羞恥心でどうにかなりそうなんだと、サリーはもごもごと弁解した。
一瞬、顔の分からない過去の男を想像し、嫉妬心にかられそうになったモーリスは、納得したようにああと頷くと、自分に呆れながらも口角を上げた。
「お互い様だろ? 聞かせとけばいい」
「あんたには、羞恥心がない訳!?」
「俺のもんだって見せびらかしてやりたいくらいだからな。まぁ……他の奴らが、お前で抜くのは許さねぇけど」
オカズにするのは俺だけで十分だからな。とぶつぶつ言ったモーリスに、呆れて顔を引きつらせたサリーは盛大にため息をつく。
「あんたって本当に……バカよね」
「バカなくらいが、人生丁度良いって」
「……あたし、他の男のオカズになる気はないわよ」
「けど、啼いてる可愛い声も聞きたいしな、堪えるのも疲れるだろ?」
「そりゃぁ……まぁ……」
さらに顔を赤くしたサリーは、モーリスの指が再びシャツの上を
シャツの下に差し込まれた太く硬い指が、遠慮なく、引き締まったわき腹を撫でて上がっていく。
「今度、外でやるか」
「は?」
「……なんだよ、そのドン引きした顔。
「あぁ、そういう事。てっきり青か……」
ほっと安堵したサリーは、ハッとして口を噤んだ。
わずかに語尾を聞き取ったモーリスは、悪戯心に火をつけられたようで、にやにやと笑っている。
「てっきり、なんだって?」
「な、なんでもない!」
「いくら見せつけたいって言っても、青姦の趣味はないぞ? それとも……本当は見られたいのか?」
「バカ! そんな訳ないでしょ!」
枕を掴み、モーリスの顔面に叩きつけようとしたサリーだったが、それはあっさり没収された。
「分かってるって。でも、ちょっとくらい、聞かせようぜ」
「んんっ……あっ……まって」
「ここ、こんなに硬くして、待っても何もないよな?」
硬いグミのような胸の頂を揉み解していたモーリスは、上下するその胸に唇を寄せると、シャツの上からたっぷりの唾液をまぶすように口に含んだ。
熱い舌先が押し付けられるたびに、サリーは辛そうに息を飲む。
白い指がシートを手繰り寄せ、その引き締まった足が毛布を蹴った。
唾液で濡らし、ぷっくりとした乳輪ごと口に含んだモーリスは、サリーの息遣いが荒くなるのを心地よく感じながら、その頂を丹念に責め続けた。