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第三章 アリシアと料理店~プロデュース編

第1話 アリシア、モンスターに遭遇する

「親方、ここ……ですか?」


「おう、ここのオーナーとはちと交流があるんだわ」


 親方に連れられていった先。そこには立派な料理店があった。……いや、ここってホントに料理店なの? 宮殿かなにかの間違いでは?

 紫禁城や首里城を思わせるような美しい門がわたしたちを出迎えていた。赤をベースにした立派な柱に、金や銀のドラゴンが絡みついている。


「高級店っぽい店構えですね……。何料理のお店なんですか?」


「さあ、俺は食ったことねぇしわかんね~。でも貴族様たちが集まる店だってことは聞いてるぜ」


 親方が良い顔で親指を立てる。

 まあ、そうか。平民が入れるような店じゃないよっていうのは見た目のまんまみたい。

 でもさあ、格式ばったお店だと、ローラーシューズで配膳させてもらえないかもねー。もうちょっと庶民寄りのお店のほうがありがたいけど、貴族が行く店と平民が行く店がきっぱり分かれているとこうなっちゃうかー。


「アポなしだから、ちょっと裏口から入って話せにゃならん。いくぞ」


「はい、お願いします!」


 わたしたちは正殿の門を迂回し、裏門の従業員通用口みたいなところに向かった。

 親方が門の前にいる従業員さん……警備員(?)に二言三言、話をすると、2人いたうちの1人の警備の人が奥に引っ込んでいく。


「おう、たぶんオーナーと話はできると思うぜ」


「ここのオーナーとはどういう関係なんですか?」


「それはこのあとすぐにわかる」


 親方が得意げに笑った。

 このあとすぐ、ね。CMみたいな引っ張り方……。


 警備の人がすぐに戻ってきて、わたしたちは中へと案内される。


「うわー天井高い! 立派な建物ですねー」


「そうだな。ここはもともと伯爵家の別邸だったものを改築したらしいんだわ」


「ガーランド伯爵様の! それでこんなに立派な造りなんですね」


 どことなく中華風を思わせる建物だ。天井は高く、平屋作り。太い真っ赤な柱によって支えられている。天井には龍の絵や装飾に交じって、七女神の姿を描いた壁画があった。ミィちゃんの顔、似てなさすぎてウケるー。



 しばらく歩いた先、小部屋に通された。応接室という雰囲気ではない。小さな木製の丸テーブルが3つ、それぞれに簡素な木製のイスが3脚ずつ。どちらかというと従業員控室、みたいな質素さを感じる。


「こちらへどうぞ。ソフィー様はすぐにお見えになるとのことです」


 警備の人が一礼し、部屋を出ていく。


「そんなに硬くならなくていいぜ。ソフィーとは提携パートナーみたいなもんだし、貴族ってわけじゃねぇからよ」


 そう言って親方はイスにどっかりと座り込むと、ローラーシューズを脱ぎ始めた。だいぶくつろぎますねー。



「リーン! ひさしぶりじゃな~い! あなたのほうから来てくれるなんてうれしいわ~♡」


「ソフィー! 元気してたか~? 今日も一段とキレイだな!」


 勢いよく扉を開けて入ってきたその人……モンスター(?)が親方に熱烈なハグをする。親方もうれしそうにそれに応えていた。

 うれしそうだし……襲われてるわけじゃないよね?


「もうそんなこと言って! 奥様に言いつけちゃおうかしら♡」


「ワッハッハ。そいつは困るぜ~。そろそろ産まれそうなんだ」


「順調で良かったわ! ぜんぜん連絡寄こさないから心配してたのよ~」


「そいつはすまんな。おかげさまでいろいろ忙しくてな」


「それならいいんだけど~。あら、そちらは……リーンちゃんの隠し子?」


 長髪を七色に染め上げたモンスターがわたしのほうを見てくる。くっ、食われる⁉


「何言ってんだー。これがほら、チラッと話したミィシェリア様からお預かりした――」


 モンスターがさらに顔を近づけて、わたしの顔を覗き込んでくる。ど派手なメイクの女……男⁉ これ、中性の人だー!


「かわいい子ね。とっても芯が強そう。気に入ったわ~」


 手の甲でわたしの頬をゆっくりと一撫でしてきた。


 ひっ、鳥肌が!


「リーンちゃんの頼みだもん。なんでも協力するわん♪ それで何の話だったかしら?」


「おいおい、せめて話を聞いてから返事してくれよ」


「大丈夫よ。リーンちゃんがおかしなお願いしてくるわけないもの」


 すごい信頼関係。

 親方とソフィーさんってどんな関係なんだろう。まさか……過去にそういう? 親方ってどっちもいけるタイプの人なのかな。どっちもっていうのは、人間もモンスターもって意味だよ?



「てなわけだ。この靴を貴族様たちに売り込みてぇんだわ」


 親方がマシンガントークでソフィーさんに概略を説明してくれる。わたしは黙って置物みたいに座っているだけしかすることがない。まだ名前すら名乗らせてもらってない……。


「おもしろいじゃないの! な~に、そのローラーシューズってやつ? 見てみたいわ!」


「おう、魔力を扱える者なら誰でも簡単に操作できる優れものさ。アリシア、見せてやんな」


 親方がわたしに話を振ってくる。ようやくわたしの出番ってわけね!

 はいはい、いきますよー!

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