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第5話 アリシア、VIPのお客様をおもてなしする

「マーチャン様、本日は龍神の館にお越しいただき、誠にありがとうございます」


「うむ。約束通りきてやったぞよ」


 あ、プレオープンセレモニーの時の小さなお客様だ! 約束してたっけ⁉ 今日も鮮やかな緑色のマントをすっぽりかぶっちゃって……ちょっと怪しい人よね。


「これはこれはマーチャン様~♡ いつもご贔屓にしていただきありがとうございます♡」


 ソフィーさんが大歓迎、といった具合に膝をついて両手を広げる。幼児を出迎えるパパ? 貴族じゃないけれど常連さんなのよね、きっと。

 あれ? でもお連れの方は……?


「うむ。今日も楽しませてもらうぞよ」


「本日からリニューアルオープンですから、今までよりも一層ご満足いただけると思いますわ。本日は3階の特別な個室をご用意しておりますの。オホホホホ」


「うむ。プレオープンのパーティーは大変満足じゃった。今宵も期待しておるぞよ」


 上機嫌なのは良いけれど、子どもなのにまるで仙人みたいなしゃべり方ね。店に入ってもマントをぜんぜん脱がないし。


「さあさ、3階までお運びいたしますね。失礼して~」


 ソフィーさんがマーチャン様を片手で持ち上げると、なんとそのまま自分の肩に乗せる。マーチャン様の体がいくら小さいからって、それは失礼には当たらないの? マントの色的に、まるでオークの肩に止まるオウムみたい。


「ほう? おぬしもローラーシューズとやらが使えるのか。めいっぱいスピードを出すがよいぞ!」


「言いましたね? 後悔しても知りませんからね。飛ばしますわよ~!」


 オークとオウムが笑い合いながら階段を登っていく。なんかすっごい仲良さげ……。ていうか、これは何を見せられてるの? ディスカバリーチャンネル?


「あ、置いてかれた……。ほら、あなたたちもぼーっとしてないで、準備にとりかかるー! VIPのお客様をお待たせしないよー!」


 わたしの隣で階段を眺め続ける天使ちゃんたちにはっぱをかけて、わたしも後を追うことにした。



* * *


 なんとか3階のVIPルームの入り口で2人に追いつく。


「本日のコース料理ですが……3名様でご予約をいただいておりまして……お連れ様をお待ちしてからスタートなさいますか?」


 普通にお1人のまま部屋まで来ちゃってるけど、待ち合わせはお店の中なのかな?


「アリシア、マーチャン様はこのままで大丈夫よ。すぐに始めちゃってちょうだい」


 このままで大丈夫、とは?

 まあ、始めろと言われるなら始めますけど?


 若干腑に落ちないけれど、予定通りコースを始めさせていただきます。


「それではお席にご案内いたします」


 BGMをON! 間接照明ON!

 自慢のミノタウロス本革のソファに案内する。


 天使ちゃん、食前酒、かもーん!


「マーチャン様はお気に入りの天使ちゃんと一緒にお食事されるのよ。事前に伝え忘れていたわ。ごめんなさい」


 ソフィーさんに隅に連れていかれて事情を説明された。

 なんと! お気に入りの天使ちゃんとお食事するんだ? ラブソファにぎゅうぎゅうに座って「あーん♡」的なサービスを⁉


「ほぇー。マジのホストクラブなんですね、ここ。あるんだー、ホントに!」


「ホストクラブ?」


「従業員がお客様と一緒にお食事をするお店があるらしいという知識の話ですー。気にしないでください!」


 マーチャン様ってば、そういう感じなのねー。エッチぃ。

 もちろんそれも楽しみ方の一つだからぜんぜん否定はしないよー。でも節度は守ってくださいねー。


「ちなみにこのお店、いかがわしいサービスはなしですよね?」


「まっ! 何言ってるの! 天使ちゃんたちにそんなことさせるわけないでしょ!」


 ソフィーさんが若干顔を赤らめながら否定した。

 ふぅ、ちょっと安心した……。これからも健全な大人の遊びを提供していきましょうねー。

 あ、もしかして、健全なサービスならわたしでも予約できるのかな?


 おお、食前酒の準備OK? よし!


「こちら発泡日乃本酒でございます。食前にお召し上がりいただくことで食欲増進効果がございます」


「ほう、にごり酒か。これはプレオープンの時も提供されていた酒と香りが近い……発泡……シュワシュワするのぉ」


 マーチャン様が一口試飲されて、驚きの声を上げた。


「プレオープンセレモニーの際にも、数種類の日乃本酒を提供させていただきましたが、お召し上がりいただけましたでしょうか。あの時と原料は同じですが、製造方法が異なっております。清んだ切れ味ではなく、とろりとした口あたりと、弾ける泡のさわやかなのどごしをお楽しみいただける一品となっております」


 わたし、前世でちょろっとしか飲んだことないけど!

 酒造りの職人は下戸の人も多いっていうし、別に問題ないよね⁉


「あの時の日乃本酒も後で所望するぞよ」


「先日の日乃本酒ももちろんご用意がございます。ほかにもおすすめの品を多数ご用意してございますので、飲み方も合わせてご提案させていただきますね。それでは本日はお楽しみいただけますよう、精一杯ご奉仕させていただきます」


 ふわふわのスカートをつまんで挨拶をし、一旦退席する。

 ねえ、このドレスどう? わたしのお手製なのよー。黒いドレスに赤と金のちっちゃなリボンをたくさんつけて、龍神の館のイメージなの♪ わたしの制服、みたいな?


「ちょっと待つのじゃ。アリシアだったな」


 退室しようとしたところ、後ろから声をかけられて振り向く。


「はい、アリシアにございます。何かございますでしょうか」


「そのドレス、とてもかわいいの~。金のリボンがとくに良いの~」


「あ、ありがとうございます!」


 えー、なになに? めっちゃうれしいんですけど♡ こんな細かい装飾に気づくなんて! マーチャン様って良い人なのね!


「ドレスがとっても似合うアリシアよ。贔屓にしてほしいというお主の望みは叶えたぞ。次の望みは何じゃ? 何でも言うてみ?」


 望み? 叶えた?

 ああ、わたしが「ご贔屓にしてください」ってプレオープンセレモニーの時に言ったから⁉ わざわざそれで来ていただけたってこと? なんて律儀な方なの!


「望みですか……。そうですね、マーチャン様が本日めいっぱいお楽しみいただいて、笑顔でご帰宅されることがわたしの望みでございます」


 深々お辞儀ー。

 そしてあわよくばたくさんの人にお店の良かったところを宣伝してほしいなー。

 受け答えがちょっと優等生過ぎた?


「わかった。お主の望みを叶えようぞ」


 マーチャン様が鮮やかな緑色のマントを脱ぎ、にっこりと笑った。


 お、おお⁉ 金髪ロリ娘! しかも見たこともないくらいのむちゃんこ美少女だー! 切れ長の目、そして瞳がエメラルドグリーンでとってもキレイね……。

 あれ? でも普通にお酒を飲んでるってことは見た目通りの子どもではないのよね? こ、これは……合法ロリというやつでは⁉ 


「あ、ありがとうございます! それではごゆっくりとお楽しみくださいませ」


 ますます謎。不思議な方ね……。

 合法ロリ……お持ち帰り……。


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