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第20話 アリシア、勘でごまかす

「ソフィーさん……実はわたし……ちょっと困ってることがあって……」


 昼営業の休憩時間、ソフィーさんに相談を持ち掛けることにした。


「あら、めずらしい。アリシアが困ることなんてあるのね。いつもみたいにガツンと腕力で解決したらいいじゃない」


 ガツンとって……。ソフィーさんのその筋肉ムキムキの腕を見せられて、わたしに腕力でどうしろと?


「わたしは頭脳派なので、力で解決するのはちょっと……」


「頭脳派ね~。『闘魂注入!』は頭脳のなせる業なのね。とっても深いわ~」


 ソフィーさんがニヤニヤしながらあごを撫でる。


 くっ。

 あれは……闘魂だから! 魂的な概念の話だから、暴力とは違うんですよ!


「それはそれ! 一旦脇に置いておいてー、わたし、とっても悩んでるんですよ!」


 だから話を聞いてってば。


「暴君に殴られ……闘魂注入されないうちにおとなしく聞きましょ。それで、どんな悩みなのかしら?」


 いちいち茶化してくるなあ。アキレス腱蹴り散らかすぞ! 左肘はさすがにやめておいてあげるけど……。


「えっとですね。ローラーシューズショーの時の音楽について悩んでるんですよ」


「音楽? ああ、あれってスピーカー……というものだったかしら? あれから音楽が流れてくるのよね。楽器にしても不思議だわ~」


「スピーカーは楽器ではなくて、音を増幅する反響板みたいなものですねー。それではなくてー、わたしが今悩んでいるのは、流れている音楽そのものですよー」


「なんだかステキなリズムよね……。思わず体が踊りだしたくなるような」


「ええ、ステキですか? でもなんとなく雰囲気で作ったので、正直納得いってないんですよねー」


 わたし、ちゃんとした音楽の知識があるってわけじゃないから、うっすら知識としてある古典音楽っぽいものを、なんとなく鼻歌から楽器音っぽく合成しているだけなので、たぶん外れてる音もあるなー、とか。そもそも違う楽器の音っぽいほうがいいんじゃない、とか。


「でも何が正解かわからないんですよー」


「とにかく困っているのはわかったのだけれど、私にはアリシアがどうしたいのかがわからないわ……」


 ソフィーさんがお手上げ、といった様子で眉根を寄せた。ソフィーさんならわかってくれると思ったのに。だって、音楽の専門家でしょ?


「えーと、具体的に言うとですね、まずは主旋律をはっきり確定させたいというか……いや、そもそもこの一曲の話だけでもなくて……全体的な話ですね。ほかの曲もいろいろほしいので、本質的に音の良し悪しがわかる人がほしいんですよね」


「音の良し悪し?」


 あら? ここまで説明したのにソフィーさんピンと来てないみたい……。音楽のプロのソフィーさんならわかるはずですよね⁉


「いやいや、ソフィーさん? わたしの言っている意味わかるでしょ? だって、ソフィーさんって『絶対音感』スキル持ってるじゃないですか」


「えっ? どうしてそれを……?」


 とたん、ソフィーさんの目つきが鋭くなる。

 あれ、これってまずかった?


「あー、もしかして、秘密でした? それならごめんなさい……」


 素直に頭を下げて謝ってみる。


「別にいいのよ。秘密というほどのことではないわ。洗礼式の際にギフトされたスキルなんだけど、普段使うスキルではないから眠ったままだったというだけのことなの。それをどうしてアリシアが知っているのかって気になっただけよ」


 普段使っていなかったかー。Lv1だし、まあそう考えればたしかにそうかー。

 わたしが何で知っているか……。そりゃあ気になりますよね……。


「んー……勘、ですかね。わたし、その人に触れると、なんとなくその人の持っているスキルがわかる、みたいな?……な?」


 勘です!……じゃ、ダメ?

 小首傾げ♡


「勘、ね。アリシアは時々何か不思議な力を使っている節があるわよね……。だけどまあ、深くは追及しないわ。マーチャン様にもたいそう気に入られているみたいだし」


「そうですね。マーちゃんには女神の加護もいただいて。大変よくしてくださいますね」


 深くは追及しないって言ってくれてるから、とりあえずそれに甘えようかなー。

 まあ、『構造把握』までなら、ソフィーさんには話してもいいかなとは思ってる。必要な時が来たらちゃんと言おう。


「あ、そういえばマーちゃん、いつローラーシューズショーに出てくれるかなー?」


「えっ、マーチャン様がそんなことをおっしゃっていたの⁉」


 あれ、その場にソフィーさんもいたような。ああ、あれってミィちゃんも交じって脳内に直接声が届いていたから、ソフィーさんを入れてした会話じゃないんだ。女神通信ってややこしい……。


「そうなんですよー。わたしが『衣装を用意しておく』っていったら、『我も出るぞよ』って♡」


「その会話はお酒の席のことよね……。くれぐれも失礼のないようにお願いね……。あの方の機嫌を損ねたらお店が取り潰しになりかねないのよ」


 ソフィーさんが青い顔をしている。

 取り潰しって!


「女神様ってそんな権限もあるんですか? そんなふうに俗世に口を出すとは思ってなかったです……」


「いいえ、そうではなくて。マーチャン様の信徒が店を取り囲んで直接的に……」


 信徒が暴徒化⁉

 女神の信徒ってそういう感じに使われるの⁉

 あ、洗脳! こわ!


『少なくとも私はそんな命令はしたことありませんよ』


『我もそんなことはせぬぞ』


 ミィちゃん、マーちゃんこんにちはー。

 そ、そうだよね……。ソフィーさんは何を怖がっているんだろ。


『そんなことをしそうな女神もいる……かもしれませんね』


『ああ、あやつか……困ったやつよのぉ』


 そんな野蛮な女神様が⁉ まさか筋肉ゴリ?


『ではないです。スークルも基本的にはやさしい女神ですからね。彼女はただ単に力が強いだけです』


『あやつにはアリシアも今後関わることがあるかもしれんのでな……あまり先入観は持たせたくないのじゃ』


 わたしが知らない女神様、か。

 ミィちゃんでもマーちゃんでも、スークル様でもない、残りの4神のどなたか?

 まあ、考えても仕方ないか。少なくともマーちゃんを怒らせても『龍神の館』が暴徒に襲われることはないってわかったし♪


『我は女神だから怒ったりせぬぞ』


 あ、出た。女神は怒らないってぞーってやつだー! マーちゃんも言うんだ、それ。ミィちゃんだけかと思ってたよ。ま、ミィちゃんはしょっちゅう怒ってるけどね。


『ミィシェリアは頭が固いからの』


 おっぱいはやわらかいのにね。


『けしからんの』


 けしからんの♡


『2人とも……その会話は前にもしていますよ……』


『何度しても良いのじゃ。頭が固いの』


 の♡


「あ、ソフィーさん。マーちゃんは怒ったりしないし、信徒がお店を取り囲むこともないそうですよー」


「それはホント⁉ マーチャン様からご神託が?」


「ええ、そうですー。ちょうど今ご神託をいただきましたー」


 タイミングが良かったね。ラッキー!


「それは本当に……良かったわ……」


 ソフィーさんが心底安心した、といったふうに、眉根を下げて笑う。

 でもほら、ちょっと考えれば、マーちゃんがそんな女神様じゃないってことくらいわかりそうなものよね。


 って、違う違う、そうじゃない! 今はそんな話をしていたんじゃないよね!


「そうじゃないでしょ! ソフィーさんの『絶対音感』スキルを使って、良い曲を作りたいって話をしてたんだったわ! 脱線しまくってたわー」


 まったく。話をそらさないでよね! わたし困ってるんだからね!


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