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第2話 アリシア、脳筋扱いされる

「やっほ~! きたよ、アリシア~!」


 3人の練習風景をぼんやりと眺めていると、後ろから底抜けに明るい声。

 この声は!


「ロイスだー♡ ひさしぶりー♡」


 振り返れば、笑顔のロイス!

 急にソフィーさんたちを助けに行くことになってお店を空けちゃったから、ホントひさしぶりに会えた気がするー!


 今日のロイスは緑のロングドレスをそれはもう、見事に着こなしてる! ちょっと古めかしいデザインだけど、元の素材が良いとなんでもかわいく見えるよねー。うーん、でもさ、もうちょっとだけ肩のパットを減らして、スカート部分にボリュームを出したら――。


「ちょっと、急にドレスに触ったりしてどうしたの⁉」


「ああ、ごめん、つい。ちょっとドレスを仕立て直したい欲が出ちゃって」


 ロイスにはいつでも最高の美しさを見せてほしいもん♪


「そ、そうなのね……。アリシアは時々無言になって自分の世界に入り込むから、いつも何かと思っちゃうわよ」


「あー、それは……」


 考え事の時もあるけど、ミィちゃんとかマーちゃんとお話していることもある、かも?


『あーしともお話するぉ♪』


 おお! リンちゃんこんにちはー!


『ハロハロやっほ~だぉ!』


 ハロハロやっほー!


『アリちゃん、ずいぶんかわいい子を連れてるんだぉ?』


 でしょでしょー! ロイスはわたしの許嫁なのー♡


『アリシア、ウソはいけませんよ』


 ミィちゃんだ! ミィちゃんもこんにちはー!


『はい、こんにちは。その子の名前はロイス。アリシアと同じ時期の転生人です』


『そういえば思い出したぉ。脳筋が引き取ったかわいそうな子だぉ』


 脳筋……。

 まだお会いしたことがないけれど、女神様たちの中でのスークル様の扱いっていったい……。


『スークルは頭の中が筋肉でできているような言動が多いと言うだけで、ムキムキのマッチョというわけではなく――』


 まあ、それを人は脳筋と呼ぶわけで。細身でかわいらしい見た目、なんでしたっけね?


『ええ、そうです。スークルの神殿に出向かないと会う機会はないかもしれませんが』


 ミィちゃんと同じ引きこもり女神様だからかー。今度会いに行っちゃおうかなー。ロイスのことも相談したいし。


『おすすめはしません』


 えー。もしかしてわたしがほかの女神様と仲良くするのが嫌? 独占欲なの?


『違います』


 ふーん♡ 


『ですから違います。スークルとアリシアは気が合うかもしれません。合い過ぎるかもしれません……それが心配なのです』


 気が合うなら問題なさそうだけど?

 ミィちゃんは何をそんなに心配してるの?


『それは……』


『あーしが代わりに教えてあげるぉ。くくっ……。2人とも脳筋だから、意気投合して暴れたりしたら、国、もしかしたら世界の一大事になるからだぉ。アッハッハ』


 誰が脳筋じゃー! わたしは頭脳派じゃー!


『アリシアがもっと大人になって、分別がつくようになってからのほうが良いと考えています』


 ちぇっ。2人してわたしを子ども扱いの脳筋扱いしてさー。わたしだってちゃーんと考えてから行動してるのにー。国を崩壊させたりなんてしないよー。いや、そもそもわたしなんかにそんなことできないでしょ。


『レールガン』


 うっ……でも、それはまだ作ってないもん。構想だけだもん。


『魔力・波乗り式ジェットスキー改☆馬車客車一体型ver』


 えっと……。


『アリシアカッター、ライトサーベル、呪詛トラップ、防護フィールド、魔力無効化の檻』


 ごめんなさい。

 でも、決して国を滅ぼそうとかそういうのではなく!


『わかっています。ですが、これらの武器や防具は世界に広めてはならないものです』


 そう、ですね。わたしが趣味でこっそり使うだけに……。


『その範囲であれば、そして人助けのためということでギリギリ目をつぶっていますが……』


『スークルとアリシアが組んだら、あっという間に世界進出になるぉ♪』


 やたらと楽しそうなリンちゃん。

 世界進出ねー。ぜんぜん想像つかないけど。


『世界平和。世界統一統治。それがスークルの思い描く理想郷なのです』


 戦いの女神様なのに、戦いがお嫌いなのね。

 ミィちゃんやリンちゃんはパストルラン王国の女神様なのよね? わたし、ほかの国がよくわかっていないんだけど、世界にはほかにも国があって、それぞれに女神様がいらっしゃるの?


『国によって信仰する対象が異なります。同じように女神信仰の国もあれば、男神、自然物、偶像など様々です』


 へぇー。いろいろあるんだねー。

 女神様たち的には、ほかの国とは敵対関係にあるの?


『積極的に他国に干渉しようという神がいるとはあまり聞いたことがありません。そもそも神は信仰の対象であって、国の方針に口を出したりはしないものです』


 そっかー。じゃあ戦争には手を貸さないってこと? 


『その国を見守り、民を正しき方向に導くために存在しているので、避けられない戦いの場合、直接手を貸すこともあるでしょう』


 避けられない戦いね……。相手の国が攻めてくる、とかな。


『それもあるでしょう。ほかにも悪しき行いをしていて見過ごせない国を諫める目的もあるかもしれません。ちなみにスークルはそういった方面に積極的です』


『そっちはあーしも積極的だぉ』


 おお、戦いの女神と正義の女神!

 戦いにも必要な戦いとそうじゃない戦いがあるって考え方なんですねー。


『なぜ戦うか。他者には見えない次元でそのことを見ているのがスークルなのだと考えています。少なくとも私には口が出せない領域の話です』


『あいつの考えることは難しすぎてわかんないけど、でも~、結局戦うほうに舵を切るから、やっぱり脳筋なんだぉ』


 なぜ戦うか、か。

 平和な日本の記憶と、とくに戦闘経験もない現世の記憶しか持たないわたしにはピンとこない話。それなのにスークル様とは気が合うのかなー。逆にどんな方なのか興味が湧いてくるね。


『どうしても会いたいというなら止めはしませんが、私はまだ時期尚早だと思いますよ』


 わかりました。

 ミィちゃんの言うことは絶対!

 ロイスのことを直接頼むのはやめるので、ミィちゃんからスークル様にうまく繋いでくださいね。


『心得ています。できるだけのことはしましょう』


 ありがと♡


『あーしのほうからも言っておいてやるぉ』


 リンちゃんもありがとー!


『ロイスにも直接会ってみたいぉ。ロイスは今日ステージに立つのかぉ?』


 そうだね。今日と明日は出演してくれる予定かな。


『じゃあいくぉ。どうせマーナヒリンが席を予約してるんだぉ?』


 うん、予約してくれてるー。


『そこに割り込むぉ』


 勝手にいいのかなー。


『我はかまわぬぞよ』


 マーちゃん、こんにちはー。マーちゃんはやさしいね。


『我はいつもやさしいぞよ』


 うんうん、いつもやさしい♡

 それじゃあマーちゃんもリンちゃんもご来店お待ちしてまーす♡



「そんなわけで今夜リンちゃんが、ロイスに会いに来るって♡」


「どんなわけ? というか誰? また急に黙ったと思ったら何を言い出して……って聞いてる? おーい、アリシア⁉」


 リンちゃん初来店だねー。

 どんなおもてなしをしようかな♪


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