んー、なんだか外が騒がしい……。
朝っぱらからもう……静かにしてよね……。
ひさしぶりに自分の部屋で寝られる喜びを、もう少しだけ堪能させてよね。
ミィちゃんの抱き枕と一緒に♡
なんかずっとうるさいなー。
誰? 酔っ払い?
騒ぐのやめてほしい……。
防音シャッターを閉めよう。
無音の心地よい空間。
おやすみなさい。
* * *
ふわぁぁぁぁ、二度寝しちゃった。
変な時間に起こされたもんだから……。
朝の10時か。
昼営業の開始くらいの時間に合わせてもう一度『龍神の館』に行ってみようかな……。
昼営業の時間なら、表のテイクアウト広場に行っても変じゃないよね。誰かわたしの知っている天使ちゃんが表に立っていてくれたらいいんだけどな。
5年半も経つと、けっこうお店のメンバーが入れ替わっちゃってるのかな……。
そういえば、ソフィーさんのストライクゾーンって何歳まで何だろ。ちゃんと聞いたことなかったけど……でも20歳超えている天使ちゃんたちもそこそこいたよね。何歳で卒業なんだろ……。
うーん、昨日お店の裏口で話した天使ちゃんは、ちゃんとソフィーさんに伝言をしてくれているかな……。ちゃんと伝えてくれていたらなー。あ、もしかして、今日行ったらサプライズパーティーの準備とかされちゃってたりして⁉
アリシアちゃんおかえりなさいパーティー!
うん、ありそう!
えーどうしよう。困っちゃう♡
淑女っぽく「あら、みなさんおそろいでどうしたのかしら?」みたいな感じがいいのかな。それとも「お招きいただきありがとうございますわ」みたいな感じ? いや、招かれてはいないか。サプライズパーティーだし。
パーティーにお呼ばれするならオシャレしていかないとね。
カクテルドレス? 昼間からは変かな。どうしよう。こういう時のお作法がわからない……。スーズさんに聞いてみようかな。
顔を洗って身だしなみを整えて……うん、15歳のわたし、ちゃんとかわいい!
髪の毛長くなって持て余し気味……。どうしようかなー。とりあえず括っとこうかな。前みたいに肩くらいで切ろうか悩む……。
お化粧は……出かける前で良いかな。
よし、まだお昼までには時間あるし、ちょっとはお店を手伝ってから出かけようっと。
わたしは自室を出て、リビングに向かう。
でも、ちょっと何か食べてからにしようかなー。
もう遅いし、お茶だけでもいいかな。
「スーズさーん。キッチン借りますねー」
雑貨屋のほうに顔を出しつつ、スーズさんに一声かける。
さて、お湯を沸かしてーと。
「アリシア」
お茶受けに何かあったかな。
試作品のポッキーが残っていたからそれでいいかー。
「アリシア、いつまで私のことを無視するつもりなのかしら?」
あー、ポッキーない! そういえばナタヌが全部食べさせちゃったんだっけ。
ううーん、じゃあ海の街『バルオッティ』で試作した、えびせんにしよう!
ん? 今誰かわたしのこと呼んだ……?
「アリシア」
「ろろろろろロイス⁉」
はっ、幻覚⁉ 会いた過ぎてイマジナリーロイス(15歳ver)を創っちゃった⁉
冷静に考えて、親方の家のリビングにロイスがいるわけないしー。
ハハハ。
わたしの『創作』スキルもそこまで進化しましたかー。いつの間にか『創作Lv2』になっていたっけな?
「はぁ……」
「もしかして……本物のロイスさんですか……?」
「あなたこそ本物のアリシアなの? しばらく見ない間にきれいになったわね」
照れ臭そうに微笑む少女。
まぎれもなくわたしの大好きなロイス……が成長した姿だって確信できた。
「ロイス……本物だー! ロイスロイスロイスー!」
ジャンピングハグ!
ロイスぅううぁわぁああああ! あぁクンカクンカ! クンカクンカ! スーハースーハー! スーハースーハー! いい匂いだなぁ……。
「この匂いロイスだー!」
「ええい、うっとうしい! ぜんぜん変わってなくて安心したけれど……いい加減うっとうしいから離れなさいよ!」
「やだー! もう一生離さないー!」
「まったく……。こんなに長い間、どこいってたのよ。ホントに心配したんだからね……」
やさしく後頭部を撫でてくれる。何度も何度も。
知ってる。
毎日ミィちゃんのところに、無事を祈りに行ってくれていたんでしょ。
ありがとうね。涙が出るほどうれしかったの。
「昨日お店のほうに来たって聞いて、こうして飛んできたのよ……」
わざわざありがとう。
会いにきてくれてホントにうれしいよ。
「間に合って良かったわ。わたし、この後街を立つ予定だったから」
「なんで? 旅行?」
「違うわよ。結婚式よ」
結婚式?
伯爵令嬢ともなると、そういう式典にも顔を出さないといけないんだ。大変なのね。
「それはそれは。出かける前で良かったー。がんばってきてね。お土産よろしくー」
「何言ってるの? あなたは出席してくれないのかしら?」
「なんでわたしが? 貴族じゃないから、そういうのはちょっと……」
「お店のみんなも招待しているのよ。もちろんあなたの席も用意してあるわ」
ん?
ロイスは何を言っているのかな?
「……えっと? 誰の結婚式ですか?」
一度ロイスから体を離して、顔をじっくりと見つめてしまう。
ロイスのほうも不思議な顔でわたしのことを見つめてくる。
「何言ってるのかしら。もちろん私の結婚式に決まってるでしょ」
え……えええええええええええええ⁉
「ロイスが結婚⁉ どどどどどどういうこと⁉ NTR⁉」
「誰がネトラレよ! あなたと寝た覚えはないわよ!」
ちょっと待って……。頭の整理が追いつかない。
え、5年半の間にロイスに恋人ができて……ああああああああ!
「誰よ! 誰なのよ! わたしのロイスを奪おうとしている馬の骨は⁉」
「馬の骨って……。ビーリング伯爵のご子息よ。まだ2度ほどしかお目にかかったことはないのだけれど」
「ビーリングぅぅぅぅ! あいつかー! 殺してでも奪い取る!」
顔は覚えてるぞー!
プレオープンセレモニーの時に1回挨拶したから!
「やめなさいって。ホントあなたが言うと冗談に聞こえないのよね……」
「だってぇ」
「だってじゃないのよ。急にかわい子ぶるんじゃないの。まったく……。私はね、こう見えても伯爵令嬢なのよ。この世界の貴族は政略結婚が当たり前なの。抵抗がないわけではないけれど、父にここまで育てていただいた恩義を返さないといけないわ」
政略結婚……。
比較的近くに領地を持つ伯爵家同士の結婚。
そりゃお互いに安定するか……。
でも納得いかないっ!
「両家とも、長きにわたって良好な間柄だから、私にとっても悪い話じゃないのよ。それにビーリング伯爵はローラーシューズショーの大ファンでいらっしゃるし」
そっか。
そういう関係もあって親交を……実質わたしが仲人みたいなもの⁉ 納得いかないっ!
「ところでビーリング伯爵のご子息は……」
「ゼルミス様よ」
「そのゼルミス様は……イケメンなの?」
「え……そこは気にするポイントなのかしら?」
「重要でしょ! ロイスがダメなら、ロイスの子がわたしのお婿さんよ!」
「それはホント引くわ……」
「ジョークでしょ! 何で笑わないの⁉」
「アリシアが言うと本気っぽくて……」
そうですよ! 半分くらい本気でした!
肉体年齢なんて何とでもなることを、この身を持って学んでしまいましたからね!
「セルミス様のこと……好きなの?」
これはホントに重要。
「わからないわよ。ほとんどどんな人か知らないもの」
ロイスが小さく笑いながら首を振る。
「えー、それで結婚に不安はないの?」
「もちろん不安だらけよ。でもね、ビーリング伯爵はとても良い方だし、そのご子息ですからね。きっと大丈夫だと思っているわ」
「なんかすごい……ロイスってば考え方が大人だ……」
「何言ってるの。もう私たち立派な成人よ。大人なのよ」
わたしたちは大人。
そうだった……。
人族の15歳は、この世界での成人年齢なんだ。
ロイスはこの5年半という時をまっすぐ生き、身も心も成長してきたんだ。
だから当たり前に成人であることを受け入れている。
わたしは……。