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第44話 アリシア、グレンダンを去る

 次の日。

 もう早くも『グレンダン』を出発しなければいけない日になってしまった……。


「お姉様! こちらがグッズの製造用の設備一式です。使い方は大丈夫ですか? マニュアルはここに用意してあります。基本的には材料を補充して魔力を込めれば量産できるようにはしてありますから、グッズの在庫が足りなくなったら、ギルドで魔法使いを雇ったりして作ってくださいね」


 くぅ、1週間じゃ新しいグッズの考案もできなかったなー。

 もっともっといろいろなグッズ展開をしたかったのに!

 街の名産やお店などとのコラボも!

 いろいろやりたいのにー!


「ヤンス! くれぐれもお姉様の安全だけは確保してよね。きっとこれからもっともっと人気が出てくるから、そうなると変な輩が現れるのは避けられないことなの! その時には躊躇なくこのポーションをぶつけて」


 そう言ってからヤンスにカラーポーションを握らせる。


 特製のカラーポーションだ。

 一度目で見てロックオンしたら、その相手を追尾して必ず当たるポーション。

 相手に当たったら最後、一生取ることができない特殊な顔料が体につくことになる。

 つまり「アイツが性犯罪者です」という証を背負うことにあるわけ。とにかくぶつけておけば、あとで落ち着いてギルドにでも依頼して捕まえてもらえば良い! これならヤンスにも簡単に使いこなせるね!


「間違って違う人に投げてしまったらどうするでやんすか……。取り返しがつかないでやんす……」


 カラーポーションを手に、震えるヤンス。


「大丈夫だって。それ、ただのインクが入ったボールに見えて、実はこれ、ボールサイズのエヴァちゃんなんだ。だから絶対に無関係の人にインクが付着したりしないの。万が一間違って投げたとしても、該当者がいなければ、自動キャンセルされて戻ってくるから安心して」


「ボールサイズのエヴァさんでやんすか……? 自動キャンセルとは……?」


 言葉の意味が理解できなくても大丈夫だって。

 まあ、とにかくがんばって!



 さて、お城の前でグレンダン夫妻とはお別れです。


「1週間があっという間で……ありがとうございました! 名残惜しいですけど、わたしたち、行きますね……」


 ホントにあっという間だった……。

 もっといろいろやりたいことはあったけれど……。


「レインさん! お世話になりました!」


「お嬢様、末永くお幸せにお過ごしください」


「お嬢様。後のことはお任せください」


 それぞれが思い思いの別れの挨拶をする。


「みなさん、とても楽しかったわ♡ 私、『グレンダン』のアイドルとしてがんばっていきますね♡」


「アリシアもいろいろとがんばるでやんすよ~」


 2人に見送られながら、お城を後にする。

 出迎えの時とは違って、ラッパ隊もいないし簡素なお別れになったけれど、わたしたちにはこっちのほうが合っているね。



「あーあ。もっとこの街で過ごしたかったなー」


 ローラーシューズで移動するのではなく、あえて徒歩で『グレンダン』の地を踏みしめる。たぶん当分ここには来れない。だからこの街の雰囲気を、感触を忘れないように。


「アリシア様がここ『グレンダン』の街を気に入ってくださり、とてもうれしく思います」


 そうだった。

 ここはラッシュさんの故郷だもんね。

 とっても良い街でしたよ。

 グレンダン公爵夫婦も良い人たちだし、レインお姉様のファンの方たちもとてもマナーが良くて最高でしたね。

 それに街の人たちも落ち着いていて良い。


「あ、お肉! じゃなくて、ナルディアさんたちにもご挨拶していかなきゃ!」


 ついでに熟成肉を食べたい!

 みんな異議なしね⁉


 よーし、そうと決まったら、ちょっと早いランチは熟成肉の食べ放題で決まりだー!

 たくさん食べて、一気に『ダーマス』に向かっちゃうぞー!


 いよいよ、調印式は目の前だ!



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第九章 アリシアとスレッドリーとナタヌとエヴァ 編 ~完~



第十章 アリシアと謎の国 編 へ続く


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