「あら無職レベル1の方、初めまして。
ここにいては風ですらあなたの命を刈り取ってしまうわ。
どう、私に『護られない』かしら。
その弱さ、一生、『護って』あげるわ」
「遠慮するよ、護られる不自由は好きじゃない」
クロバナさんの魔法やアオさんの斬撃を防ぐということは、魔法や物理にも耐性があるのだろう。
「正直に話をします。騎士団長さん。
俺はユウギデンジ、しがない中年です。
さきほどそちらの副団長さんが集めていた資料を拝見し、この研究施設がこの子たちにとって悪意あるものだと知りました。
どうか剣を収めて、俺たちを見逃してくれませんか」
騎士団長の座に就くほどの人だ、人を護る意志も強そうだし、冷静に話せば何とかなるかもしれない、そう思って俺は要約して彼女に事情を伝えてみた。
「三度目。私にとってその事情は知らないことなの。
本当かどうか現状では信用できないものね。
ならばお仕事を優先するのは仕方ないと思わない?
王の命令を『護』らなくちゃ、それがこの国の民を『護る』ことに繋がるもの」
「ユウギ様、あの人に話は通じません。
これまでもそうだったのですから!」
アオさんは子供たちを背にしたまま、俺へと叫ぶ。
「ならクロバナさん、アオさん、先に脱出してくれ!」
俺はライトブレードを構え、クロバナさんへ目配せする。
「死の特攻はいけません、ユウギ様!」
アオさんが声を上げるが、クロバナさんはアオさんの手を引いて他の子供たちも誘導する。
「逃がすと『護』れないでしょ!」
聖剣によって生まれたドーム状の壁が張られて、地下水路への階段を遮る。
だが俺は、太腿からライトナイフを引き抜き、地下水路の階段に向けて投擲すると、窓を割ったようにシールドが音を立てて破壊される。
「また後でクロバナさん! アオさん! あとこれも!」
俺は再びシールドが展開する前に、トランシーバーをクロバナさんに投げつける。きっと裏ギルドのメンバーが手助けしてくれるはずだ。
「えええ、『護れなかった』じゃない、えええええ、護れないじゃないいいいいいいいいいいいい!」
まるで人が変わったようにアテナは兜を地面に叩きつける。
兜の中には赤い髪をした癖毛の整った顔の女性が、泣き顔のまま顔を出した。
「あんまりだわ、あんまりよ、なんて仕打ち、あたしはただ、全てを『護り』たかっただけなのにいいいいいいいいいいいいいいい!」
ヴァイスといい、アテナといい、なんでみんな性格に難があるんだこの騎士団は!
「いいわ、いいわ、うぃいわ、それなら、それでも、全てを護ってあげる。
怒りに任せて『護らなく』なるなんて、本当に『護る』人の考えじゃないものね」
にっこりと笑顔を作ると、アテナは俺へシールドをブーメランのように投げつける。
「うわっ、それってそうやって使うか!」
「防御は最大の攻撃なり、よおおおおおおおお!」
俺が跳躍して避けた方に透明なシールドを張って逃げ道を塞ぐ、更に跳躍しようとするも、上下左右後を塞がれ、前方からは聖剣のシールドが俺の首を狙って鋭利なギロチンとなり、向かってくる。
「さあぁ、任務は『護る』わ、必ず。
レベル1なんていなくても誰も分からない。
無職なんて気にも留めやしない」
「サイバネティックシステム――起動」
投擲された抱擁の聖剣がスローモーションになり、この世界の空気が重く体にのしかかる。スピードを殺さないままアテナに向けて縮地で距離を詰め、ライトブレードを鎧へと叩きつける。
が、肉体強化のスピードにもついてきているのか、いつの間にかアテナの手元に戻っている抱擁の聖剣にライトブレードが弾かれてしまう。
次々と剣を振り下ろすが、彼女の動きはまるで自動的に防御しているようだった。
そうか、彼女のスキルはきっと『オート防御』。だから俺のスピードにも無意識についてこれている。
だが「ナイトブレードライダー4099」を現実世界のようにやりこんできた俺は、咄嗟の出来事にも動じない。
むしろオート防御する敵キャラクターとは何度も相対してきたのだ。
そんな時、全方位攻撃も、超火力も全ては結果的に無意味に終わった。
最終的に頼れるのは――。
「己の力によるゴリ押しだああああ!」
ステータスオープン、メニュー画面、パークタブ、ライトブレード1、2,3,4,5,6,7,8,9,10(MAX)――取得。
『フォースの使い手?』
※実績解除
ライトブレードの先端をアテナに向け、左脚に最大級の踏ん張りをこめる。
最速で最強の突きは、光を超えて、オート防御が発動する抱擁の聖剣に対して、七色の火花を散らし――。
盾ごと鎧を貫いた。
『抱擁の聖剣を貫きし者』
※実績解除
突進の影響で後方にすさまじい土ぼこりを上げながら、俺は壁に激突する前に何とか踏みとどまる。
「サイバネティックシステム――解除」
全身を覆う魔力が霧散し、黄金に輝く瞳が茶色を取り戻していくのが体感的に理解できる。
「……な、何が起きたの――?」
彼女は何が起きたか理解しないまま、地面に倒れ伏した。
全ては自動的に起きた防御と高速の時間軸で発生した戦闘だ。
覚えているのは俺だけだろう。
その後、騎士団は解散され、新たな聖剣使いを軸に再編成されたのを知るのはまだ先の事になる。
リークした魔剣製造の情報も街中に広まることもなく、数日も経てば噂話として掻き消えていった。
つまり王都セブンスが魔剣と半魔族を作り出していることを知るものは――俺たちだけらしい。
…━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━…
🌸次回:第18話 クロノ・クロス増員↓
…━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━…