場所は1000年前のグレイブヤード。全ての命が辿り着く果ての地……、その最下層で妖しい光に照らされた3人の魔族が立っていた。
「ロキ、マグジール達が来たぞ。」
フレスは静かに目の前の玉座に腰を下ろした黒い翼を生やした男、戯神ロキにそう告げる。
「………そうか。あの国には呆れる事ばかりだよ。今の国王になってから一方的に外交を断ったばかりか……あろう事かボクを殺しに来るなんてね?」
いつか俺が見た懐かしい、穏やかな笑みを浮かべてロキは言った。
「……私が行く。あの程度、束になったところで私の相手にならないからな。」
フレスは手に持った剣を音を立てて握りしめてロキに背中を向けた。
俺が知る限り表情には出してないが、あの落ち着いた男がここまで怒るのは本当に珍しい。
だが、ロキは何ともないとでも言うようにそれをやんわりと宥めた。
「駄目だよ、フレス。それでは余計に拗れてしまう。思うところはあるにはあるけど、別にボクは世界を滅ぼしたい訳じゃないしね?」
「ロキ、アンタ………戦うつもり無いでしょ?」
ニーザもその幼い顔に、怒りの表情を浮かべていた。
どうして戦わない、何故好きにさせるのだ、と言うように。
その問いにロキは「そうだねぇ……」と、何かを考えるように目を閉じた。
「強いて言うなら、
そう言って、彼は本当に疲れたような顔でマグジールが来るであろう暗闇に包まれた道を見た。
「このグレイブヤードが作られた直後に、ボクは
「だったら、尚更!!」
「だからこそ、コレはボクの最低最悪のワガママ。人間に向ける究極の嫌がらせの様な物だ。その上で、コレがその先に生きる者達にしっかり継がれていく事を願う。だから………ボクが死んだすぐ後の事を頼むよ。ニーズヘッグ、フレスベルグ、それと……フェンリル。」
淡く微笑んで、ロキはフェンリルを見た。
その後に起きるであろう厄災に備えろとでも言うように。
「……相変わらず勝手じゃな、お主は。」
「これでも、色々と思うところは本当にあるんだよ?だからこそ、こんなワガママに付き合わせた上で頼むんだ。人間達を頼むよ、と。神の為でなく、遠い未来にも生きているであろう人間達の為に、さ。ああ、それと……」
思い出したように、ロキは遠くを見てつぶやく。
淡い微笑みから、申し訳無さそうな笑みに変えて。
「何じゃ?」
「……アルシアにすまない、と伝えてくれるかな。たぶんもう会えないし、後が間違いなく大変だからさ。」
「……覚えておったらな。」
「そうか、じゃあボクからはこれで終わりだ。行ってくれ、皆。あとは……ありがとう、さようなら。永い時を歩いた友人達よ。君達といられて、ボクは楽しかったよ。」
本当に楽しそうに笑って、ロキは言った。
その言葉にそれぞれ返して、フェンリル達はその場を去る。
フレスベルグは深く礼をして。
ニーズヘッグは悲しみと怒りを堪えるように背を向けて。
フェンリルは叶わないと知りながらも「また会おう。」とでも言うように片手を軽く上げて。
最後にロキが「嫌だったら投げ出して、他の世界にでも逃げてもいいからねー。」などと、気の抜けるような事を言って、それで映像は終わった。
右手に痛みを感じて手を開くと、知らず知らずの内に爪を立てて握り込んでいたらしい。血が溢れ出ていた。
「……何が『たぶん、もう会えないし』だ。あんな奴らと国丸ごと敵に回してでも、お前の事を助けるに決まってるだろうが……。」
もうそこにいない旧友めがけて、泣くのを堪えながら、俺はやり場のない怒りの言葉を口にした。