目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

14 乗り換えは海賊船

「!」

カンナの脅かしが響いたら、場面は瞬間に静寂になった。

「……」

海賊なら、そのくらいはできると、皆も危険を実感した。

彼たちにとって、石は貴重な「お宝」、人の命にほうが石ころのようなものだ。

「や、やめてください!」

「だから姫様、あなた次第ですよ」

姫様はカンナと対峙している間、乗客のほうもざわついた。


おかしい……

私たちに手を出したら、人々の反抗心を強く刺激するのに。

どうせ無残に死ぬのなら、一か八か反抗するのが人間の本能だ。

反抗する人がいれば、面倒なことになるし、やっと決心がついた姫様も気が変わって、彼たちの要求を拒絶する可能性がある。

海賊は確かに残虐非道だけど、やはりウィルフリードの言ったように、一定の合理性に従って行動すると思う。

「宝物」は第一目的だったら、もっといい方法があるはず……

なのに、なぜ……

まさか……

「あなたたちが欲しいのは、青石だけじゃないでしょ」


口を開いたら、カンナをはじめ、全員の目線を引き寄せた。

「あら、あたしたちの欲しいものを知ってるとでも言いたいの?」

挑発な笑顔でカンナは聞き返した。

「……」

!!

答えようとする途端に、針に刺されたような痛みが襲ってきた。

よりによってこんな時に……

痛みが全身を走って、感覚が痺れていく。

力を失った両足が甲板に倒れた。

「おい、どうした!」

私を掴んでいる海賊は驚いて力を緩めた。

「彼女に何をした!?」

「違う!俺は何も……こいつが勝手にッ」

海賊は弁解しようと両手を放した。

この件に関して、海賊は確かに無実だったが、彼のために説明する力も意欲もない。

それに、海賊を咎めた言葉は、とある物好きな男の口からでたものだ。わざと責任を海賊に押し付けたのは、何か企みがあるかもしれない。

……まだ痛みを感じられる。感覚は完全に失っていない。

今のやるべきことは、できるだけ意識を集中して、気付いたものを伝えることだ。


「やめてください!彼女たちと関係がありません!」

姫様は声をあげて、もう一度交渉を試みた。

「もし、もし全員を解放してくれるなら、青石を……」

「渡してはいけない!」

全身の力を絞って声を出した。

両手で腕を抱えて、なんとか痛みを耐えきったけど、感覚はだんだん失っていく。

「青石だけではない、海賊たちは、姫様から別の何かが欲しい……」

視線をあげてカンナの顔を見たら、その緋色の目に一点の異様な光が走った。

やはり……

「どういう、こと……?」

私の言葉に戸惑って、姫様は答えを求めるように後ろの藍に振り向いた。

藍はただうなずいて、話の続きを聞こうと合図をした。

おかげで、私はぼんやりになった注意力を海賊に集中できる。

「人を脅かすなら、『言う事を聞かないと、こいつらを殺す』なんかより、『言う事を聞かないと、お前を殺してやる』のほうが自然でしょ……あなたたちはどうして、姫様の安全で脅かさなかったの?この船の人たちは、姫様にとって赤の他人よ。それどころか、半分以上はスパンニア帝国の敵国、ローランド共和国の人。脅かしにならない可能性もあるじゃないか」

たとえ噂で姫様の人柄がわかっていても、人の心はそんな単純なものではない。危険な時に、無関係の他人の命より、自分の命を選ぶ人はほとんど。

「お前を殺す」で脅かすのは一番有効な手段。

「……それに、姫様は青石を持っていると確信できるなら、強奪か姫様の荷物を調べたほうが早い。手間をかけて、人質を取る必要はどこにある?まるで、姫様を傷つけるのが怖がっているみたい」

カンナの目線は針のように私を刺さってくる。

でも、そのくらいで痛みも感じない。

さっきから、すでに何千本の針に刺されたような痛みを耐えていた。

「青石だけではないなら、彼たちは一体なにが欲しがっていますか?」

姫様は私に近づけようとしたが、二人の筋肉海賊に止められた。

残っている感覚はわずか、必死に頭を回そうとしても、集中できない。目に映る姫様の姿も、ぼんやりした輪郭しか見えなくなる……

「わからない、でも、姫様は鍵です。奴らは姫様の命を害しない……だから……本当の目的を……けて、ください……そうすれば、私たちも……」

視野は真っ黒になった。

すべての力が失って、頭も体も沈んでいく。

海に沈んだような冷たい静寂が降りかかった。


あの占い師の女は言った。

私は人生の分かれ道で闇の道を選択したせいで、神の捨て子になった。

このまま海に沈んだら、あの時の「選択」に後悔するのか……?


記憶の中にある様々な雑音が浮かんできた。

……かわいそうに、十八歳も生きていけないだろう……

……その「病気」がある限り、いくら素質が良くても「基準」に合わないわ……

……病んだ体は歪んだ心を生み出す。彼女を隔離しないと、ほかの子供にもよくない影響が出る……

……ここで祈りましょう。神様はきっとあなたの声を聞こえます……


あの修道院の人たちは何を崇拝しているのか、子供たちに何になってほしいのかよくわからない。

ただ、どこかで違和感を強く覚えていた。

私の声は何にも届かない。

神にも、悪魔にも。

選ばれた子供たちはみんな幸せそうに新しい「家」に向かった。

でも、そんな「家」も、あの修道院も、私のいるべき場所ではないとわかる。

欲しいものは、自分の手でしか掴められない。

いるべき場所は、自分の足でしかたどり着けない。

だから、あの時、「あの人」から伸ばされた手を取らなかった。

その「選択」に、決して……


暗闇の中で、別の方向にある何かを掴もうと手を伸ばした。

突然に、指先に一点の光が現れた。

柔らかく、金色の光……


「お目覚めになりましたか?」

朧な光が目に入って、優しい声が耳元で響いた。

痛みが消えたようだが、全身の感覚はまだ戻っていない。

意識を集中すると、頭が何か柔らかいものに乗っていると気づいた。

目を大きく開けたら、目の前に映ったのは――藍の顔だ。

「!」

この位置と体勢は……

藍の膝枕?!

驚きで彼から離れろうしたが、鈍くなった神経がうまく反応できなくて、危うく床に転がった。

「大丈夫です。ゆっくり休んでください」

藍は優しい微笑みを見せて、両手で丁寧に私の頭を彼の膝に戻した。

「……ここは?」

体がまだ思うままに動けないので、目で見れる範囲の環境を確認した。

じめじめ冷たい床に座っている人はほかにも何人がいる。

皆の服が上質で華やかなものだが、顔色がこの部屋の雰囲気と同じ憂鬱なものだ。

薄汚い壁に、小さな丸い窓が嵌められている。そこから夜の漆黒色が見える。

波の音は砂時計の代わりに、時間の流れを数えている。

わずかな貴重な光は、正面にある檻の外から入ってきたもの。

言うまでもなく、私たちは海賊の捕虜になった。

「ここは、海賊船です」

藍の言葉は私の判断を証明した。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?