あまりに予想外すぎて、みくにの身体は一瞬停止した。
自分に迫ってくる大鎌のぎらつく切っ先と、無表情の拓真の顔を見つめるばかり。
ああ、やっぱ拓真くん、かっこいい!
こんなときでも恋心あふれるみくに。
驚いてはいたが、そこに恐怖心なんて
拓真を信じる気持ちが揺らぐことはないからだ。
大鎌の刃はみくにの頭上すれすれを通過して、高く細い金属音のようなものを響かせた。
「詰めが甘いんだよ、おまえは」
クールな声で言われ、みくにはきょとんとしながら背後を向いた。
そこには足元から立ち昇る黒い
視線を下ろすと、その神気は散らばっていた破片――先程まで洋一の手に握られていた
不気味な神気はみくにに襲いかかろうとしていたのか、大きく両腕を広げていたが、その動きは止まっていて、つぎの瞬間、首元に細い線が入った。
それはどうやら拓真が大鎌で裂いた
ひとの形を成していた神気は、それを保てず、見る見るうちに消えていく。
“ひとの身に……神の力は不相応……”
どこからともなく低い
“くくりひめもむごい……授けし力はその娘を……いずれ、ひとの世にとどめ置けなくするであろうに”
その不穏な予言に、みくには胸騒ぎを覚えた。
冷たいものが背筋を伝うように、肌が
”これで終わりではない……神あらず、ひとあらずは、ただの怪物よ”
その言葉にみくには声を振り絞る。
「あ、あたしは怪物なんかじゃないもん……」
たまのやのみことと思われる声がざらつくように笑う。
“その怪物の力……神は捨て置かぬ”
黒い神気の最後のひとかけらが消失する寸前、消え入りそうなたまのやのみことの声が聞こえてきた。
“あがけ……のけものたちよ”
たまのやのみことの神気も声も消滅すると、青野森高校を覆っていた悪の波動も消えていた。
みくにが周囲を見渡すと、気を失った洋一と、意識を保ちながらも立ち上がることのできない
その姉妹に倒され、洋一同様気絶した様子の生徒たちの姿があった。
いずれも軽傷で、深刻な状態には見えず、彼らを捉えていた悪の波動もきれいさっぱり消えている。
みくには大きく息を吐いた。
「今度こそ、終わった……よね?」
拓真を窺うと、先程まで手にしていた大鎌は見当たらず、両手をスラックスのポケットに入れたまま、人型の神気が消え去った場所に目を向けていた。
「……のけもの、たちか」
たまのやのみことの最後の言葉だ。
のけもの――外れたもの、排除されるもの、と言う意味だろうか。
みくににはよくわからない。
不安気なみくにの視線に気づいたのか、拓真は肩をすくめた。
「考えても無駄だぞ。とくにおまえの残念な頭じゃ、何十年経っても答えにたどり着けるわけがない」
その言いぐさにみくには唇を尖らせた。
「せっかく頑張って悪い神様倒したんだよ、少しは褒めてくれてもいいのに」
「ホントに、“悪い神様”だったのか……たまのやのみことは」
「え?」
訊き返したが、拓真は「なんでもない」と、頭を振った。
「神は死なない。今回は
「あ、そうだった」
あのとき、たまのやのみことを拓真が斬ってくれなかったら、みくにはどうなっていたかわからない。
助けてくれた拓真への感謝とともに、うれしさで胸がキュンっとした。
思わず頬を緩ませにやけたら、全身の力も緩んだようにふらついた。
「あ、あれ?」
そのまま倒れかけたところを、拓真がすんでのところで受け止めてくれた。
彼の胸の中にすっぽりと収まってしまう。
「ご、ごめん、拓真くん、なんか体に力が入らないの」
ひとりでは立っていられそうにないくらい、足腰からも力が抜けてしまっていた。
スーパーガールの力を使ったあとは、ある程度の疲労や虚脱感はあるが、今回のはその比ではない。
スーパーガールの力を酷使しすぎたのだろう。
だがそのおかげでこうやって拓真に抱かれているのだから、結果オーライすぎて幸福感に包まれる。
「拓真くん、あたしあなたが好き。付き合おう」
「無理だ」
「じゃあ、チューしよう」
「放り投げるぞ」
「ごめんなさい、調子乗りました」
本当に放り投げそうな口ぶりだったので、みくには慌てて黙った。
拓真の胸の中にいられるだけで、今は最高にハッピーなのだから、それでいいやと思った。
「……このままでいい」
口の中で呟いた言葉は、拓真に聞こえただろうか。
拓真もまた唇の端から小さな呟きを洩らした。
「神が欲しがるおまえの力って……」
拓真はそれ以上は口を閉ざした。
拓真はみくにのスーパーガールの力のことは訊いてこない。
だからみくにも拓真の力のことは訊かない。
たまのやのみことを斬ったあの大鎌がなんなのか、それを一瞬で出現させたり消したりできる拓真はいったい何者なのか。
みくには訊かない。
それは怖れに背を向けた、逃げなのかもしれない。
互いの秘めた力を知ることで、今までの関係が変わってしまうことを互いに怖れているのかもしれない。
きっとそこにいつか目を向けなければならないときがくる。
ふたりともたぶんそう思っているのだけれど。
でも今はいいんだ。
みくには拓真の胸に額をこすりつけた。
拓真の胸の中が温かいから、今はその幸せに身を委ねていたい。
やはり力を使い果たしたのだろう。
身体だけではなく、意識を保つことも難しくなってきた。
眠くてしかたがない。
「よく頑張ったな、みくに」
幸せな気持ちに包まれて、みくには意識を手離した。