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interlude

interlude (一)

 駅から徒歩五分。


 大通り沿いにあるカフェは、昼時を過ぎていくぶんいてきていた。


 明るすぎない照明とテーブル席の間隔に余裕がある店内。


 周りを気にする必要がないから、打ち合わせで何度か使わせてもらっている。


「それで、どうです? スーパーガールのほうは?」


 N出版社、オカルト雑誌編集部のKは、わたしが雑誌内で書かせてもらっている『よく見れば怖い写真』の通常打ち合わせもそこそこに話題を切り替えた。


「僕のほうでもネットで情報は探したりしてるんですけど」


 Kがそう言うときは、たいていなにもしていない。


 それにネットでの情報集めはすでにわたしのほうでしてあった。


「僕の知り合いに刑事事件担当の記者がいるんで、今度そっちにも当たってみますよ。警察関連はこっちで当たれるだけ当たるんでまかせてください」


 Kが自分の胸をドンッと叩いて見せるが、結局今のところなにもしていないわけだ。


 Kは自分の仕事は終わったというようなそぶりで、テーブル上のアイスコーヒーを飲みだした。


 Kからの情報は期待できないことに軽く吐息をついて、わたしは自分のノートパソコンの画面に視線を向けた。


 トップ画面のファイル――“スーパーガール”と名前をつけたそれを開く。


「あれから、スーパーガールに襲われたっていう被害者に会うことができたよ」


「おお、ホントですか? さすが桜さん、仕事が早い」


 スーパーガールとは、Kと、開店休業中の小説家で今はオカルト雑誌のワンコーナーを担当しているわたしが、現在追っているネタだ。


 そのコーナーに送られてきた読者投稿の写真に、ビルの谷間を横切る人影が写っていた。


 それがネットの一部界隈かいわいで、都市伝説のように語られている謎の存在――スーパーガール。


 マントをなびかせた女性が、夜な夜な出没し、通り魔的に市民を襲っているという。


 今のところ被害者は軽傷で済んでいるが、この手の事件はしだいにエスカレートしていくのが常だ。


 スーパーガールだってやがて深刻な凶行に及ばないとも限らない。


 スーパーガールが噂通り暴行を繰り返しているなら、早いうちに止めるべきだろう。


 もちろんわたしの調査がスーパーガール逮捕と決定的に結びつくなんて思っていないが、少しでも世間が騒ぎだせば、犯人の自重につながるくらいはあるかもしれない。


『よく見れば怖い写真』で嘘の心霊写真をせっせと作り続けるよりは、やりがいはありそうだった。


「で、被害者って誰です? どんな被害だったんですか?」


 長い前髪の下の目を見開き、身を乗り出してくるK。


 その拍子に髪の隙間から額の古傷が垣間見えた。


 幼い頃に転んだ際の怪我だったと言うが、本人はまだ気にしているのか、自然なしぐさで前髪を整え、額を隠した。


 わたしはノートパソコンに表示されたファイルに目を移し、四日前に会ったスーパーガール事件被害者から聞いたことを話しだした。



「ここです、ここ」


 小さな市民公園前で、渋谷しぶたにさんはそう言って、包帯が巻かれた左手をもう片方の手でさすった。


 渋谷則之のりゆきさんは四十六歳、警備会社の課長職を任されている。


 家族は妻と高校生の娘さんがいて、マンション暮らしだ。


 襲われたのは、そんな妻と娘が待つマンションへの帰路の途中だったという。


「夜中、十時近くだったかなあ。会社の決算前で忙しくて、その日も残業だったんですよ」


 自宅の最寄り駅に着いたときには、夜も更け、駅から自宅までの徒歩十分ほどの道のりは、人通りが少なかった。


「この公園の前に来たら、突然人影が現れて……ほら、そこの家の塀の陰から」


 公園隣の住宅の陰から現れ、渋谷さんの行く手を阻むように立ちはだかった人影。


 その背中でマントがたなびいていたというが、街灯の逆光を受けて、顔は見えなかった。


「なんかイヤだなって思って、そいつを大きく避けるように進もうとしたときですよ」


 マントの人影は急に近づいてきて、殴りかかってきた。


 渋谷さんはとっさに両手で顔をかばうと、マントの人影の拳は渋谷さんの左手に当たり、彼はその痛みに思わずうずくまった。


 マントの人影はそんな渋谷さんを数秒、見つめるように佇み、その後すぐに振り返って、また住宅の陰と夜の闇に消えていったという。


「さいわい左手の打撲で済んだんですが、いやあ、怖かったなあ。まだ夜道は歩けないですよ」


 軽傷ではあったが、渋谷さんはすぐに近くの交番に出向き、被害届を出したと言う。


「捜査はしてくれてるんでしょうけど、進展はないそうです」


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