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第24話

 ゼノの言葉が気になってはいたが、ユリウスにどんな顔をして会えば分からず、ズルズルと時間だけが過ぎて行った。


 そんなある日─…


「姉さん!!大変!!」


 随分と慌てた様子のグイードが飛び込んできた。


「どうしたの?」

「帰って来た!!」

「何が?落とした財布でも戻って来たの?」

「違うよ!!」


 のんびりと読書をしていたティナは、興味なさそうに返事を返した。グイードはティナの持っていた本を奪うと、無理やり視線を向けるように仕向けた。


「もう、ちゃんと聞いて」


 頬を膨らませて子供のように怒る様子に、仕方ないとティナは溜息を吐きながらグイードと向き合た。


「それで?」と改めて聞き返した。


「帰って来たんだよ!!ギルベルト兄さんが!!」

「え?」

「ほら、早く行こう!!」


 呆けているティナの手を素早く取り、顔を輝かせて嬉しそうなグイードに連れられて下へ降りて行くと、確かにいた。手に荷物を持ったままのギルベルトが…


 つい先日会ったばかりなのに、随分と懐かしい感じがする。


「ティナ」


 ティナに気が付いたギルベルトが声をかけてきた。


「ギル、おかえりなさい」

「ああ、今戻った」


 仲睦まじく見つめ合う二人。傍から見れば仲の良い兄妹のようだが、穏やかな表情を浮かべながら見つめる二人を見れば、互いに慕い合っているカップルのようにも見える。


 グイードはそんな二人に、ニヤニヤが止まらない。


「いつまでこっちに?」

「長期休暇をもらっているからな。暫くはこちらにいられる」


 グイードを敢えて視線から外し、ギルベルトに気付かれない様に平静を装った。


「おじ様とおば様には挨拶してきた?」

「これからだ。…先にお前に挨拶しておきたくてな」


 照れるように頬を緩めた。


 不意打ちに見せたその表情の威力は相当なもので、見ていた使用人数人が見事撃ち抜かれ、その場に倒れてしまった。


(強面の軍人様がその表情は狡い…!!)


 見慣れているティナですら、ドキッと胸が高鳴る。しかも、この男。計算ではなく、無自覚でやっているからタチが悪い。天然タラシも度が過ぎると犯罪級。


「再会の挨拶はそこら辺にして、ギルベルト兄さん。折り入って話があるんだよ」


 真剣な眼差しを受けたギルベルトは何かを察したように、険しい顔になった。本来なら自分の屋敷に戻ってゆっくり体を休めたいだろうに、嫌な顔一つせずに話を聞いてくれることになった。


 応接室に案内すると、お茶も運ばれていない先からグイードが待ちきれないとばかりに興奮しながら話を始じめた。一度熱くなると冷めるまで落ち着かないので、二人は黙って耳を傾る。


 語り終える頃にはグイードは息を切らしていたが、その顔は晴れ晴れと達成感に包まれていた。


「……そうか。では、ティナはその婚約を納得していないんだな?」

「そうなんだよ。どうにかならない?」


 汗を拭いながら訊ねるグイードだが「……遅かったか……」ギルベルトは項垂れるようにボソッと呟いた。


 まさか既に婚約を結んでいるとは思っていなかった。


(正直、戦で負けるよりもくるな…)


 悔しさと後悔が一気に込み上げてくるが、今更どうしようもない。それに、負けを認めるにはまだ早い。いくら王家公認だとは言え、ティナが認めていない以上勝算はあるはず。


「ギルベルト兄さんならを黙らせることが出来ると思うんだよ」

「まあ、相手にもよるが……相手は誰なんだ?」


 自分の身分を笠に着せるのは性に合わないが、牽制するには丁度いい。問題は、相手の正体だ。


「ああ、それは──」


 グイードがユリウスの名を口にしようとした時、扉がノックする音が聞こえた。


 この空気を読まない絶妙なタイミング……嫌な予感しかしない。グイードも一瞬で顔を強張らせた。


「お嬢様。お客様です」

「……どなた?」

「ユリウス様です」


 ティナとグイードは名を聞いた瞬間、崩れるように頭を抱えた。ギルベルトは異様な光景にギョッと目を見開いている。


「申し訳ないけど、来客中だと伝えて頂戴」


 態勢を戻しながら伝えるが「ちょっと待って」とグイードが止めてきた。


「丁度いいから紹介しておいた方がいいんじゃない?」


 そういうグイードは剣呑な眼差しで笑みを浮かべていた。



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