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第41話

 ユリウスが無事に息を吹き返したと聞いて、ゼノやレイモンドらが駆けつけてきた。


「ユリウス!!!!」


 扉が壊れそうなほど大き音と共に流れ込み、ユリウスの安否を確認する。


「おや、随分と慌ただしいですね」


 全員が心配して駆けつけたと言うのに、当の本人は恥ずかしがるティナを膝に座らせてご満悦の表情を浮かべている。


「お、おまッ!!」


 レイモンドの表情が喜びから次第に怒りに変わっていくが、ユリウスの変わりない姿に怒りもすぐに呆れに変わった。


「おい、ユリウス」


 全員が安堵する中、一際低い声色で名を呼んだのはギルベルト。一見苛立っているように見えるが、ユリウスを最後まで信じていたので、変に喜ばずいつも通りに振舞っているだけ。本当に不器用な人…


「一体何があった」


 ティナをその腕から引き離すと、睨みつけながら説明を求めた。


「そうですね…敢えて言うのなら、嫉妬の呪念は本物の愛には勝てなかった。と言ったところでしょうか」


 微笑みながら訳の分からない事を言われ、その場にいる全員口を開けてポカンとなっている。

 その様子にユリウスはクスクスと笑うだけ。流石にレイモンドに叱られて、詳しく説明してくれた。


 アンティカの呪いは、嫉妬の念によって出来たもの。ユリウスが自分のものにならないのならいっその事、自分と共に滅びる為に仕掛けた呪術。自分の命までかけたアンティカだったが、唯一の誤算、それが……


「ティナからのキス」


 ユリウスの気持ちはティナにあるのは分かっていた。だが、その相手のティナはユリウスを毛嫌いしていた。まさかあの状況でキスをするなんて、アンティカは予想していなかっただろう。当のティナだって、自分の行動に驚きを隠せていないのだから当然だ。


「お互いの想いが通じ合った結果です。ね?ティナ?」


 同意を求めるようにティナに聞き返してくるが「知らない!!」とギルベルトの背後に隠れてしまった。


「あのさ水を差すようで悪いけど、俺が解けなかったんだ。そんな簡単に解けるような代物じゃないって事は分かる」


 ゼノが険しい顔をしてユリウスに詰め寄る。


「旦那、もしかして……」


 何か言いかけた時、ユリウスは「しっ」と口元に人差し指を立ててゼノの言葉を止めた。ゼノは呆れたように溜息を吐くと、それ以上は何も聞かないと言わんばかりに壁際に寄った。


 一体何を言おうとしたのか、ユリウスは何を隠しているのか……誰も分からずその場はユリウスの回復祝いモードで幕を閉じた。




 ***




「僕は絶っっっ対に認めない!!」


 屋敷中に響き渡る程の声量で叫んでいるのは、義姉がユリウスとの婚約を認めたと報告を受けたグイード。どうしても怒りの収まらないグイードは、ティナの私室を訪れていた。


「何で、どうして!?姉さんにはギルベルト兄さんがいるじゃないか!!」


 そこには、当事者であるユリウスとギルベルトも揃ってのんびりお茶を啜っていた。


「なに呑気にお茶なんて飲んでんの!?姉さんもだよ!!」


 急に矛先を向けられ「んぐっ」と口に含んでいた茶を喉を鳴らして飲み込んだ。


「まあ、落ち着け」

「これが落ちついてられると思う!?」


 ギルベルトが見かねて宥めようとするが、今回ばかりは熱が冷めない。こうなる事は分かっていたから、驚きはしないがどうやって宥めようか……


「お前の気持ちも分かる。俺だって出来る事なら今すぐにでもティナを攫って行きたいところだ」

「なら!!」

「だが、好きな女が決めた事だ。自分が納得できなくても、それで幸せになれるならいいんじゃないのか?」

「でも……」

「男なら潔く引くのも大事だ。引き際を間違えるとみっともないぞ?」

「……」


 諭されるように言われてようやく大人しくなった。流石、ギルベルト。こういう時は本当に頼りになる。


「しかしまあ、引き際は大事だが、想い続けるのは自由だからな」

「え?」


 ギシッと腰を上げると、ティナの傍に寄り熱い視線で見つめてくる。


「俺はいつまでもお前の事を想ってる。ユリウスが手に余ったら俺の元に来ればいい」


 曇りもなく真っ直ぐ向けられた好意にティナの鼓動は早くなる。


「ギルベルト!!」


 慌てたユリウスがティナを奪うように抱きしめた。


 自分で決めた事とはいえ、ユリウスを選んで本当に良かったのかとか、後悔しないだろうか…という葛藤や不安がある。正直、自分たちの事を良く知るギルベルトと一緒になった方がいいとも考えた。


「ティナは渡しません」


 力いっぱいに抱きしめるユリウスの背中を叩き苦しいと訴えれば、すぐに離してくれる。そして、泣きそうな顔で「大丈夫ですか?すみません」と気遣ってくる。絆されたと言われればそうかもしれない。


 けど──


「ティナは私だけを見てればいいんです。いけませんね。余所見ばかりしては…本当に貴女は私の気を引くのが上手いようだ」


ゴクリッと喉が鳴る。


「これからは余所見なんて出来ない程、愛しつくしてあげます。覚悟してくださいね?」


 この狂気じみた愛情を向ける男の手綱を引けるのは私だけだと思う…


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