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第11話 捨てられた経緯

 山内さんは、オレが予想しているよりも切羽詰まっているらしい。

 木曜の夜も来ていたようなのは、金曜の朝、郵便受けを見てわかった。

 ずっといたのか何度か来たのか知らないけど、複数、雑に入れられた伝言。

 ドアを蹴飛ばしたらしい、足形。

 かなりイラついてるらしい。

 始発が動いてすぐの冬の朝だからってだけじゃなくて、背中がぞわってした。

 そそくさと部屋に入って、玄関に散らばった紙を見てため息が出た。

 部屋にいないって、思わなかったのかな。

 居留守を使っていると思ったのか?

 どっちにしろ、返事のない状態でこれだけのメモを部屋に投げ込むなんて、ちょっと変だろ。

 これ、スマホに電源入れるのが怖い。

 外はまだ暗い時間だけど、部屋でゆっくりするのはやめておこう。

 カーテンはしっかり遮光したものだけど、外から明かりが見えたら怖いから、玄関先の照明だけ小さくつけて、オレは着替えをいくつかカバンに詰める。

 念のため、ノートパソコンも持って出よう。


 やっぱり、今夜は戻らない方がよさそうだ。


 金曜日、井上さんに「なんか調子悪いの?」と心配されながら業務を終えて、いつものように会社を出る。

 最寄り駅のコインロッカーに預けておいた荷物を持って、電車に乗る。

 家とは逆方向。

 適当なターミナル駅で降りるとして、どこに泊まろうか。

 連泊するのと場所を変わるの、どっちが安全なんだろうって考えた末に、とりあえず今回はビジネスホテル連泊にする。

 どこまで長引くかはわからないけど、まだ寒い時期だから、ネットカフェはちょっと辛い。

 コンビニで食料買い込んで、チェーン展開してるホテルに入った。


 そのまま、土曜日を閉じこもって過ごし、日曜日。

 そろそろどうなっただろうとスマホの電源を入れて、履歴の数にビビる。

 メッセージも電話も、メ―ルも、サブ画面の吹き出しに表示されてる着信数がすごい。


「なんで……?」


 ここまでくると、マジで泣きが入るんだけど。

 オレ、何にもしてないじゃん。

 オレを捨てた人を避けてるだけじゃん。

 なんでこんなに追い回されてんの?

 オレのこと、いらないって、言ったじゃん。

 中身なんて見る余裕はなかった。

 メールもメッセージも全部消去して、留守電の録音も消して、番号を着信拒否にして、また電源を落とす。

 もしやと思って、ノートパソコンの方を見てみたら、大野からサブアドレスにメールが来ていた。


『山内さんがお前のこと探し回ってるみたいだけど、大丈夫か? なんか助けられることあったら、連絡して』


 添えられた、固定電話の番号が嬉しいと思った。

 日付は昨日、土曜日。

 少し迷っていると、新しくメールが入った。


 大野から送られてきたのは、山内さんの現状。


 最終調整が必要なプログラムを、口八丁で一見安くに売り付け、まったくの別料金でプログラマーを派遣するなんて、詐欺まがいなやり方をしていて、人手が足りなくなったらしい。

 あちこちで同じように強引なやり方で、プログラマーに声をかけているそうだ。

 いくつかは出禁もくらっているらしい。


 そんな報告でオレはホントに悲しくなった。

 だって使われているそれは、きっとオレが組んだプログラム。


 オレが前の会社を辞める前、山内さんの個人受けの仕事を手伝わされて、簡単な事務システムのプログラムを組んだんだ。

 ただ、簡単だからこそ各会社にあわせての最終調整が必要な、ちょっと「ん?」って思うような物。

 いくつかは調整も引き受けた。

 もう少し汎用性を持たせた方がいいんじゃないかっていうオレの意見は、黙殺された。

 上手い文言で詐欺まがいの売り方をしていると知ったのは、山内さんが会社を辞めてからのことだった。

 どういうことかと追及するオレに、山内さんは嗤いながら言ったんだ。


「どうせお前はプログラム組むことしか能がないんだから、黙って、俺の言うとおりにしてたらいいんだよ」


 オレは、山内さんにいいように使われていただけだった。

 扱いやすかっただろうなと思う。

 オレは、ちょっと優しい言葉をかけられればその気になるような、ちょろい男だから。

 恋人だと思っていた。

 だけど、ただの性欲処理の相手で、ちょっと男に興味があったから、抱いてみただけだと言われた。

 そんなだったから、飽きもきていたんだろう。


 オレが捨てられたのは、そんな経緯。


 オレはできないことや知らないことがたくさんあって、だから、便利に使われたんだと思った。

 できることが増えたら、もっと、ちゃんとできると思った。

 なのに、やっぱり何にも変わらない。

 逃げられるようになったくらいだ。


 オレ、全然ダメじゃん。


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