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073話 決闘大会(02)

 闘技場の決闘場ではルーシファスとバルバトスが対峙していた。


「火炎魔法戦での優勝おめでとう、バルバトス。凄い戦いだったね。まさに圧勝じゃないか」


 ルーシファスは率直にバルバトスを褒めたが、バルバトスはその祝辞を素直に受け入れなかった。


「お前が出場しない火炎魔法戦になんの意味がある! ルーシファス! なぜ火炎魔法戦に出場しなかった!」


「それは君が出場するからさ。君ほどの火炎魔法の使い手と戦って勝利を捥ぎ取るよりも、人気の少ない支援魔法戦の方が楽に優勝できると思ったからさ」


 悪びれもなくルーシファスは言い訳をしたが、その事がより一層バルバトスの自尊心を傷つけた。


「これまでの授業や模擬戦で、俺は火炎魔法で一度もお前に勝てなかった。火炎魔法には代々定評のあるサタナキア家の名折れだ! その屈辱をすすぐべく出場したトーナメントだというのに……!」


「だからさ。サタナキア家のご名誉を傷つけない為に、君に優勝を譲ったんじゃないか。僕は来年、火炎魔法戦に出場するよ。一度優勝した君は、もう火炎魔法戦には出場できないからね」


 ルーシファスにそう云われてバルバトスは歯軋りをした。


「それが気に入らぬのだ! まるでお前に勝ちを譲られたかのようで火炎魔法戦での優勝がまるで喜べん!」


 ルーシファスは肩をすくめた。


「そんなことはないさ。僕が出場していても、きっと君が優勝していたよ。僕をそんなに過大評価せず、また自分をそんなに過小評価しない方がいいよ」


 ルーシファスは友好的な笑顔でそうアドバイスしたが、バルバトスは全く受け入れなかった。


「まあ、よい。俺が素直に火炎魔法戦での優勝を受け入れられる方法が一つある。

 ───それはこの総合魔法戦でお前を倒し、優勝することだ!」


 そう言ってバルバトスは身構えた。


「確かにそれはそうかもね。でも僕も簡単にはやられないよ。僕だって二冠を達成したいと強く思ってるんだ。


 ルーシファスも身構えると、それが試合開始の合図となった。


 まず仕掛けたのはバルバトスだった。


「『悪夢の暗闇で彷徨えナイトメアダークネス』!」


 バルバトスが唱えたのは相手を暗闇で包む魔法だった。


 ルーシファスはすぐに抵抗を試みたが、バルバトスの強力な暗黒魔法に抗いきれず、暗闇に包まれてしまった。


「『魔塔の鉄扉よ閉じよアイアンタワー』!」


 ルーシファスが唱えたのは支援魔法の中でも防御を固める魔法だった。

 暗闇の中でどこから攻撃されるかわからない中、ルーシファスは仕方なく全本位に対して防壁を張ったのだ。


 どす黒く、重い煙を思わせるぶ厚い漆黒の闇で、ルーシファスは神経を研ぎ澄まさせた。

 暗闇でどこから襲われるかわからない不安はとてつもない恐怖だった。


 その時、鋭い炎の矢がルーシファスを貫かんと襲い掛ったが、幸い、ルーシファスの施した防御魔法が効果を発揮し、炎の矢を弾いた。

 しかし炎の矢は一本だけではなく、数えきれないほどの炎の矢が、あらゆる方向からルーシファスに襲い掛かった。

 ルーシファスは防戦一方になった。


「『薬花の蜜の滴りハーブネクター』!」


 ルーシファスは傷を治す呪文を唱えた。

 防御魔法が炎の矢を弾いてくれていたが、いかんせん数が多く、致命傷ではないが、すり傷を負ってしまったのだ。


「これ程の炎の矢を休みなく降り注がせるなんて、さすがバルバトスだね」


 ルーシファスは眉間に皺を寄せ、歯を食いしばり、懸命に耐えた。


「でも───!」


 その時、ルーシファスの糸目がカッと開かれた。


「『突風スコールの閃きアトモスフィア』!」


 ある一点に向かってルーシファスは風圧で相手を弾き飛ばす呪文を放った。


「───ッ!! なにッ!?」


 その呪文は寸分の狂いなくバルバトスに命中し、バルバトスを決闘場の端まで弾き飛ばした。


「『棘の拘束ソーンバインド』!」


 次にルーシファスが唱えた呪文は、棘の縄で相手を縛り上げ、拘束する呪文だった。

 呪文をまともに受けたバルバトスは完全に拘束され、身動き一つとれなくなってしまった。

 すかさずルーシファスはバルバトスに詰め寄り、自らの魔法の杖を突きつけた。


 勝負あり───試合終了だった。


 この瞬間、ルーシファスの優勝が決まり、バルバトスは敗れてしまった。


「くそっ!」


 バルバトスは地面を叩いて悔しがった。


「そんなに悔しがる必要はないさ。最初の暗闇の呪文が成功した時点で、君の勝ちは確定していたんだ。

 さすがサタナキア家の暗黒魔法は強力だね。何せサタナキア家と言えば火炎魔法なんかより暗黒魔法こそ魔界で一番定評のある公爵家だもんね。

 敗因は火炎魔法に固執した事さ。せっかく暗闇で僕を支配したのに、炎の矢の明かりで効果が薄れてしまった。だからわずかだけど君の姿を捉えることができたんだよ。

 火炎魔法ではなく、別の方法で攻撃していたら、間違いなく君の勝ちだったよ」


 そう指摘され、バルバトスは悔やんだが、それでも火炎魔法部門での優勝を我がものとする為に、この勝負は是が非でも火炎魔法で勝たねば意味がないと思ったのだ。

 それ故の選択だったが、しかし、その固執が裏目に出てしまった。


 ルーシファスは項垂うなだれるバルバトスに手を差し伸べた。


「幸い総合魔法戦は優勝しても何度でも出場することができる。僕は来年も出場するよ。バルバトスも来年も出場するよね?」


 バルバトスはルーシファスを見上げ、差し出された手とルーシファスの顔を交互に見た。


「今回、勝ったぐらいでいい気になるなよ。お前と俺の勝負はこれで! 新入生初登校一番乗りの勝負は俺が勝ったことを忘れるなよ!」


 そう言ってバルバトスはルーシファスの手を掴んだ。


「あれ? 新入生初登校一番乗りのことを「子供の意地の張り合いだ」とか言ってなかったっけ?」


 バルバトスを引き揚げつつ、ルーシファスは顎に人差し指を当てて以前のバルバトスの台詞を思い返した。


「うるさい! 来年こそは俺がお前に勝って優勝してやる! 絶対だからな、ルーシファス!」


 そう言ってバルバトスはルーシファスに握られた手を握り返し、ルーシファスの手を掲げて優勝者を称えた。


 わかったよ、とルーシファスもバルバトスの背中を叩いて好敵手ライバルの健闘を称えた。

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