アタシの学院生活は、ましろの登場で大きく変わった。
毎日、アタシの隣にやってくる。
「センパイ、一緒にお昼食べよう」
「おぅ、屋上に行くぞ」
「うん!」
ましろは今日も変わらず、嬉しそうな顔でついてくる。
ましろと意気投合してから、毎日一緒にお昼を食べている。
流石にアタシの教室で食べるのは気まずいので、学院の屋上で食べるようにしている。
ここなら、普段学院の生徒は、ほとんど来ない。誰の目を気にしないで弁当を食べられる。それを聞いたましろは「センパイのクラスメイトにボクらの仲良しぶり見せてあげよっか?」と火に油を注ぐようなことを言っていた。
お前は怖いもの知らずか。アタシに好意を持っているクラスの女の子たち、完全にお前のことを目の敵にしているぞ。
それにお前に好意を持っている男子だってアタシのクラスにたくさんいる。そんな奴らの目の前で一緒にお弁当を食べている姿を見られたら、アタシが教室に居づらくなる。
「センパイ、どうしていつも屋上でお弁当食べるの?」
「なんでって、外で食べる方が美味いからだろ」
お前と一緒に弁当食べているところを誰も見られたくないって言う訳にいかないだろ。
「まぁ、ボクは二人っきりの方がいいんだけど……」
「うん? なんか言ったか?」
「なんでもない! センパイ、唐揚げちょうだい!」
ましろは唐揚げに目がないのか、アタシの弁当の唐揚げを毎回狙っている。
いや、お前の弁当に唐揚げが入っているだろ!
自分の唐揚げ食えよ。
「ダメだ! これはアタシの唐揚げだ!」
「え~だめ?」
お前はエサをねだる子猫か! そんなうるうるした目で、こっちを見るな。アタシが悪者みたいじゃねぇか!
「ほら、1個だけだぞ」
「やったー! センパイ、ありがとう!」
ましろはアタシの弁当箱から唐揚げを奪うと、口の中へと頬張った。
リスのようにほっぺを膨らませて美味そうな顔で食っている。
「やっぱり、センパイのお弁当の唐揚げ美味しいね」
「あぁ、母さん直伝の唐揚げだからな!」
「センパイが作ってるの?」
「当たり前だろ」
「へぇ、センパイは良いお嫁さんになれるね」
「ば、バカ! 何を言ってるんだよ!」
「じゃあ、ボクはセンパイの味見係になるね」
そう言いながら、ましろはもう1個唐揚げを奪う。
「おい! 1個だって言っただろ!」
「味見だよ!」
つまみ食いする子どもみたいな言い訳をして、ましろは2個目の唐揚げを頬張る。最近、ましろのペースに乗せられているな。
「ねぇ、センパイ! ボク、体育がんばったんだよ! でも、100m走で最下位だった……」
「そっか。でも、頑張ったな」
やば! アタシは、無意識にましろの頭を撫でていた。
ましろだって、一応思春期の男だ。いきなり、子ども扱いするように頭を撫でたら、腹を立てるかもしれない。
「わ、わるい、ましろ……」
「センパイ……もっと撫でて!」
怒るどころか、なでなでのおかわりを要求された。
本当に変な奴だな。
でも、こういう時のましろって、なんでだろう?
ちょっとだけ反則的に可愛い。
アタシは甘えん坊な後輩のリクエストに応えるように頭を撫でてあげた。
「なぁ、ましろ」
「なに?」
「お前、アタシと一緒にいて楽しいか?」
「どうして?」
「だって、アタシってたくさんしゃべるわけじゃないし、基本、お前の話を聞いてるだけだろ? お前が疲れないのかな?って」
「ぜんぜん! ボクはおしゃべり大好きだし、センパイと一緒にいたいの」
そう言いながら、ましろはアタシの腕に抱きついてくる。
しょうがないな。本当に甘えん坊な後輩だ。
まぁ、ましろがそう言うなら変な気遣いは、いらないみたいだな。
「それにボクがいないとセンパイも寂しいでしょ」
「別に」
「照れなくていいの」
「照れてねぇよ」
正直、ましろが一緒にいてくれるのはありがたい。
学院では勝手に王子様キャラにされて、本当のアタシを出し切れてない。なぜか、ましろの前ではいつものアタシでいられる。
この先輩・後輩関係も悪くないな。
***
ましろという自分らしくいられる場所が出来て楽しい学院生活を送れていた。そんなアタシの学院生活に別の変化を与える存在が、もう1人増えた。
「転校生のハイトです。よろしくお願いします!」
その瞬間、教室の空気が一瞬止まった。
アタシのクラスに転校生のハイトがやって来た。二学期が始まったばかりの変なタイミングでやって来た。
黒髪の短髪で、ちょっと筋肉質で爽やかな顔立ちをしている。凄いイケメンってわけじゃないけど、ちょっとカッコいいかなって感じだ。クラスの女の子たちは転校生のハイトの登場に黄色い声援を送っていた。
「ハイトくんってイケメンだよね!」
「うんうん! このクラスに久しぶりのイケメン登場だよね!」
「クロナくんとはタイプ違うけど、いいよね!」
「でも、やっぱりクロナくんが1番だよね!」
いや、アタシに好きですアピールする必要はないから。
でも、好きって言われて悪い気はしない。
「ありがとう」と愛想笑いを浮かべると、その子は頬を赤くして喜んでいた。
あれ? アタシ、何か変なこと言ったかな?
「いいな、クロナくんにお礼言われて!」
そんなに羨ましいことなのか?
ただ、”ありがとう”って言っただけなのに?
同じ女なのにクラスの女の子のリアクションの意味が良くわからない。 やっぱり、アタシって変なのかな?
そんな心配を浮かべながら、クラスの女の子ウワサの中心であるハイトに目を向けた。アタシと違って、人懐っこくて明るい。もうすっかりクラスに溶け込んでいる。
「ハイト! 絵、めっちゃ上手いな!」
「ありがとう!」
「マンガ家になれるんじゃねぇ!?」
「あぁ、俺は将来マンガ家になりたいんだ!」
へぇ、マンガ家になりたいんだ。
マンガ家を目指しているなら、マンガやアニメに詳しいかな?
最近、マンガやアニメを同年代と語ってないな。
昔からこの見た目のせいで大好きな魔法少女アニメや女の子向けのアニメの話を誰とも出来ずにネットで知り合った人としか語り合ったことがない。
「これってクローバーズって人気のバンドマンガだよな!?」
「そうだよ! 俺、このマンガを読んでからマンガ家になりたいって思って! このマンガの絵をマネして書いているんだ」
クローバーズ! アタシも好き! アイツは凄い。ちゃんと自分の好きを堂々と言えている。それに比べてアタシは自分の好きなアニメも言えない。ましてや、将来の夢なんて誰にも言っていない。
声優になりたい。
アタシもアイツみたいに自分の夢を堂々と言いたい。
それから、アタシは転校生のハイトに興味を持つようになった。