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第55話 ボクがきらいな男

ボクはセンパイの攻略に悩んでいた。

 センパイに弟か妹みたいな扱いをされている気がする。


「センパイって、いっつも家では何をしているの?」


「アタシか? そうだな……マンガ読んだり、アニメ見たりかな?」


「え! センパイ、アニメ見るの!?」


「いいだろ、別に」


 ちょっと照れた顔が、また可愛いな。


「どんなマンガ読むの?」


「最近はクローバーズかな」


「知らない」


「なんだ、ましろ。知らないのか? あれは名作だぞ!」


「ボク、マンガやアニメ見たことない」


「親が厳しいのか?」


「うん……お母さんがボクを女の子として認識しているせいか、少年マンガとか、戦う系のアニメ見せてもらえなくて」


「安心しろ、クローバーズはバンド系だけど、少女マンガだ」


「え? センパイ、少女マンガ読むの?」


「当たり前だろ、アタシは女だ!」


 また可愛いセンパイの一面が見れちゃった。


「今度、貸してやるから読んでみろ」


「ありがとう」


 ボクは、初めて人からマンガを借りた。

 クローバーズは、センパイの言ったとおり、バンドでメジャーデビューを目指す4人組の話。そこに恋愛要素が入ったラブコメ青春系マンガって呼ばれているらしい。ネットの情報では、そう書かれている。


 ボクは、マンガをパラパラ捲りながら、センパイに似ているキャラを見つけた。ミズキ。女の子だけどボーイッシュなドラマー。


「このキャラ、センパイに似ている」


 ボクは、それからクローバーズをちゃんと読み始めた。


***


 クローバーズのおかげで、前よりセンパイとたくさん話を出来るようになった。センパイの影響で初めて、おこづかいでクローバーズの単行本を買った。


 休み時間にセンパイとクローバーズの話をするのがボクの楽しみになった。こうやって好きなものを共有していたら、センパイをボクを意識してもらえるかもしれない。そんな明るい未来を妄想していた。


 ボクが体育館裏に行くと、センパイと知らない人がいた。

 誰? しかもセンパイがその人と仲良く話している。

 タバコを吸っている! センパイが不良に絡まれている!


「センパイ! こんなところにいた!」


「ましろ……?」


 どうしよう。ボク、ケンカが強いわけじゃない。

 ここは……。


「もう、ホットケーキ食べに行こうって約束したでしょ!」


 デートのお迎えに来たという設定で、センパイを連れ出すしかない!


「おい!」


「クロナ! また明日な!」


「うん、またな!」


 ボクがセンパイを不良から救出に成功するも、センパイは何故か名残惜しそうな顔をしている。


「センパイ。あの人、誰?」


「同じクラスのハイトだよ」


「ふーん……ボク、お邪魔だった?」


「べ、別に……」


「だよね……センパイって、ウソつくの下手」


 本当にウソが下手なんだから。あの人と、まだいたかったって顔に描いてあるよ。


「うん? 何か言ったか?」


「なんでもないよ! ほら、ホットケーキ食べに行こ!」


 だけど、ダメ。センパイはボクのものなんだから。


***


「ハイトさん、めっちゃアニメ好きなんだね!」


「うん、そうなんだ!」


 なんで、こんなことになっているんだろ?

 ボクは最近思っている。

 センパイと2人きりになりたいのに、いつもハイトさんがいる。

 ボクがセンパイの腕をぎゅっと掴んだり、ラブラブアピールをしているのに「仲の良い先輩・後輩だな」って目で見てくる。


 センパイだって、こんな不良と一緒にいたくないよね?

 そう思っていたのに、センパイはこの人がいることを満更嫌ではないという顔を見せている。


 もしかして、センパイ。ハイトさんを異性として意識しているの?

 やばい。センパイって恋愛に疎いから、ゆっくり距離を縮めようと思っていたのに。


 ボクの恋愛センサーが働いてから、センパイとハイトさんが2人きりにならないように徹底的に邪魔をした。

 興味のないマンガやアニメの話をハイトさんとして、2人だけにさせなかった。センパイはボクらの会話に混ざることなく、ニコニコ笑いながら聞いている。その笑顔はボクの前でも見せてくれないよね。


 それだけ、この人に心を許しているってことなの?

 ふざけるな。後からやって来て、ボクからセンパイを盗るつもりなの。

 いつの間にか”3人の時間”が当たり前になっていて、センパイはその輪の端でただ見ているだけだった。


 ぶちこわしてやる。


「ねぇ、ハイトさんってどんな子がタイプ?」


 ボクは話題を恋愛系にすり替えた。

 さぁ、どうする。センパイじゃないタイプを言え。

 そうして自爆しろ!


「そうだな……カッコいい系、かな」


 え? カッコいい系の女の子ってセンパイじゃん。

 いや、それだけじゃ確定じゃない。

 少し揺さぶってみよう。


「へぇ、センパイみたいな?」


 ボクは大きな賭けに出る質問をハイトさんに投げた。

 ここで、センパイって答えたら気まずい空気が流れる。


「うん、クロナもいいよな!」


「え?」


「だって、オレの好きなタクミにめっちゃ似ているから!」


 マンガのキャラかよ! 

 焦るな。まぁ、こんなリアクションなら、ハイトさんはセンパイを恋愛対象に見ていないかな。


 あれ? センパイ、どうしたの?




 ちょっと、残念だなみたいな顔をして。

 もしかして、センパイ……。


 ハイトさんのこと……。


 いや、このリアクションだけで確定じゃない。

 もっと直接探ってみるか。


「じゃあ、リアルな子は?」


 ボクがストレートな質問を投げてみると、ハイトさんは少し考えながら、口を開く。


「う~ん、見た目とギャップがある子かな!」


「へぇ~、ボクはどう?」


 ここで、ギャグっぽく誘ってみよう。

 今まで、ボクがこうやって誘って口説けなかった男はいない。


「ましろか~。確かに可愛いけど、オレのタイプと違うかな」


「えぇ、残念~」


 ち、落ちなかったか。

 まぁ、アンタみたいな男に興味ないからいいだけど。


 え? センパイ、何ちょっと安心したみたいな顔をしているの?

 センパイ、本当にハイトさんのことが……。


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