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第54話 センパイは天然王子様!?

    センパイの彼氏になる。そう心に決めたボクは、休み時間の度にセンパイの教室へ遊びに行くようになった。


「センパイ!」


「どうした、ましろ?」


「あのね、今日も男子に声かけられちゃった」


「お前のモテエピソードかよ……」


「あ、焼きもち?」


「ちげぇよ」


 そんな会話を毎日繰り返す。

 ボクなりの揺さぶりだけど、センパイは全然動じない。

 まるで、ボクを恋愛対象に見ていないみたいに。


 いや、たぶん実際そうなんだろうな。

 女の子みたいな顔に、女の子みたいな声。

 恋愛対象として見れないのも、無理はない。


 でも、ボクは諦めないよ。


「ただな、ましろ。あんまり男をおもちゃにするなよ」


「え? なんで?」


「そんことをずっと続けたら、お前が悪者扱いされるだろ」


「センパイ、心配してくれるの?」


「ちげえよ。お前の被害者を減らすためだよ」


「もう、照れなくていいのに」


 センパイの素っ気ない言い方の中にも、優しさはちゃんと滲み出ている。ボクにはわかっている。


 でも、困るのはその優しさが”みんなに平等”ってこと。

 そのせいで、自分はセンパイに好意を寄せられていると、勘違いしちゃう被害者が後を絶たない。


 その被害者の代表である学院内の女子たちの視線を痛いほどに感じる。

 センパイのクラスの女の子たちは休み時間たびにやってくるボクのことを「ウザい」と言いたい目で見てくる。

 もちろん、同級生の女の子も昼休みになると、センパイ目当てに教室にやってくる。その度、センパイの隣にいるボクを見て「ましろ、ウザい」と目で訴えてくる。


 センパイは本当にモテる。クールで誰にでも優しい王子様。これは1人歩きしているイメージ。

 本当はピュアで、少し天然で、それがどこか放っておけない空気を持っている。ボクは、みんなが気づいていない可愛いセンパイが好き。


 だから、センパイはボクの場所。誰にも渡さない。


「ねぇ、クロナくんとましろって、いつも一緒だよね」


「付き合ってるの?」


「え、マジ! ウソでしょ!」


 ボクとセンパイがラブラブというウワサが流れている。

 いいぞ!


***


 昼休みになると、ボクたちは体育館裏でお弁当を食べるようになった。

    あのとき、初めて出会った思い出の場所。


「ねぇ、センパイ」


「なんだ、ましろ」


「唐揚げ、ちょうだい」


「お前の弁当にも入っているだろ」


「センパイの唐揚げがいいの」


「……しょうがねぇな、ほら」


 わがままを言えば、ちゃんと応えてくれる。

 その優しさと唐揚げの美味しさが胸に染みる。


「なぁ、ましろ」


「なに、センパイ?」


「お前、毎日アタシと弁当食べているけど。もしかして、お前……」


 センパイ! やっとボクの気持ちに気づいてくれたんだね。

 なんだ、センパイって意外と勘がいいじゃん。


「友達いないのか?」


「え? なに、その質問。ボクが寂しい人みたいじゃん」


「いや、お前って女子を嫌われているだろ。男子はお前のこと女としてしか見ていない。まともに友達になってくる相手がいねぇんじゃないかって」


 センパイ、ボクのことを思って言ってるのかもしれないけど。

 それ、完全に悪口だよ。全然悪気がなく、ポロって言っちゃうから天然はこわいよ。


「友達なんていらない……センパイがいればいいよ」


 言っちゃった。

 こういえば、鈍感なセンパイでも気づくよね。


「それはダメだ! 友達がいない高校生活なんて寂しいだろ」


 センパイ、ボクの好き好きアピールはスルーですか?

 もう、その天然さは罪だよ。


「そうだ! アタシがお前の友達1号になってやるよ」


「え?」


「今日からアタシと、ましろは友達だ!」


 センパイは、ニコッと笑った。

 いや、ずるいよ。そんな可愛い笑顔を見せられたら、断れないじゃん。

「しょうがない。寂しいセンパイの友達になってあげるよ」


「ありがとう、ましろ」


***


 放課後、校門の前でボクは声をかけられた。


「ましろ!」


「○○くん?」


 前に数週間だけ付き合ってあげたイケメンくんだ。

 でも、センパイの彼氏になるって決めたから、さよならした。


「なんで、別れるんだよ? 俺、まだ……」


好きな人ができたって、言ったでしょ?」


「俺、本気でましろが好きなんだ……」


 あぁ、ウザい。その少女マンガから切り取った胸キュンセリフ。

 興味ない相手に言われても1ミリも心に響かないよ。

 気づいてないみたいだけど、キミはボクにフラれたの。

 もう、ボクにとって過去の人。

 キミと過ごす時間はボクにはないの。


 ボクが逃げようとすると、手首をつかまれた。

 あぁ、ウザいな。


「ねぇ、キミ。ましろに何か用?」


 この声は! ボクが振り返ると、センパイがいた。


「クロナ先輩……」


「ましろ、早くカフェ行くぞ! 早くしないと1番人気のホットケーキが売り切れちまうぞ」


 ボクの腕をそっと引いて、センパイは歩き出す。

 まるで、王子様みたい。


「ま、待って……!」


「まだ、何か用?」


「いえ……」


「じゃあ、行くぞ。ましろ」


 なに、この王子様対応! マジで心臓に悪いんですけど。

 センパイって本当に女の子!?


***


「わるい、余計なことしたか?」


「ううん、センパイ、ありがとう」


「やっぱり、アタシがお前の側にいないとダメみたいだな」


 え? センパイ、それってボクのことを……。


「ましろのせいで、あんな勘違いくんが量産されるのはヤバいよな」


「え?」


「例えば、アタシと付き合っているみたいなウワサが流れたら、こういうことはなくなるかもな」


 センパイは名案が浮かんだと、ドヤ顔を見せる。

 それ、本気で言っているの?


「センパイ?」


「なんだ、ましろ?」


「センパイって天然でしょ」


「ん?」


 天然って、なんのこと?って言いたそうに、センパイは首をかしげた。

 あぁ、もう。ボクがどれだけアピールしても、この人はたぶん気づかない。


 でも、それでいい。

 ボクは絶対にセンパイの彼氏になるんだから。


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