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第32話 慌てないで重ねていこう

 好きかもしれないって自分の気持ちを自覚してから、おつきあいしましょうの間がすごく短くて動揺したけど、チュンに言わせればのろまなんだそうだ。

『知り合って何年で、好きって言われてから何年だよ?』って動揺して送ったメッセージに返事が来た。

 それでも考えてみてくれよ、と思う。

 ランドセル背負っているところを知っている相手なんだぞ? どれだけときめかされたって、優しさに涙が出そうになったって、迷うでしょ。

 迷ってた時間が長くても、仕方ないでしょ。

 そう思うおれがおかしいのか?


 ちなみにテルさんにはいつの間にかバレていた。

 っていうか、おれの知らない間にシュンの口から喜びの報告されていた。

 シュンの期末試験終わり、関家に呼び出されたら、いきなり宴会が準備されてた。


「信じらんない。なにこれ、恥ずかしすぎんじゃん。テルちゃんおかしいって」


 真っ赤な顔で怒るシュンと、特大の笑顔のテルさんを前に、おれは固まるしかできなかったんだ。

 だって、こんなことってある?

 予想外すぎる。

 いくら家族だって、世の中の冠婚葬祭にのっとったこと以外で、誰かのために宴会が開かれるなんて、作り物の世界のことだけだって思ってた。

 そして驚いたことに、ひーさんからは特大の釘が刺された。


「シュンの生方家宿泊厳禁」

「なんで?!」

「あくまで未成年のうちは、キスまでしか許さん!」


 って、物凄い圧で告げられた。


「信じらんない! ひーちゃん勝手すぎる!」

「付き合いに反対しないだけ、物わかりのいい保護者だと思うけどな!」

「どこが?!」


 もう自分でも照れてるのか怒っているのかわかってないんだろうなあって、ぎゃあぎゃあと騒ぐシュンを見て笑ってしまった。

 ひーさんの言い分、おれは、まあそうねって思っている。


「いっくんも、笑ってないでなんか言ってよ、この二人、おかしいって!」

「ははは、まあいいじゃん」


 キスまでしか許さないなんて言われて笑ってたら、まだ二十代なのに枯れていると言われるかもしんない。

 いや、そういう欲はね、ないわけじゃないんだ、おれだって。

 けど、肉欲よりは存在が大事なので。

 シュンと一緒にいることや、シュンを独占することを禁止されるよりはずっといい。

 どれだけ好きでもどれだけ長い時間知っていても、どれだけの付き合いをしていようとも、シュンはまだ高校生だからね。

 大事にしたいじゃないか。


 ずっと一緒にいたいんだ。

 それだけでいいんだよ。


 ってやせ我慢。

 我慢はしているものの、恋人としての時間を重ねていけば、社会人と高校生のお付き合いというものは、予想以上に時間が合わないものなのだなあって、実感させられる。

 ホントにね。

 おれが仕事をしているっていのはもちろんのことなんだけど、シュンがさ。

 定期テストで成績を落とせないとか、寮の門限が厳しいとか、学校行事が忙しいとか、理由はいろいろ。

 シュンは基本的にまじめな奴なので、そういうとこうまく手を抜けない。

 お母さんたちへの意地もあるんだと思う。

 お母さんは世間一般の枠にはまらないことを、物凄く嫌っていて、テルさんのことを認められなかった。


「自分がかあちゃんに『認められない』って言われるのはいいけど、いっくんが言われるのはすんげーやだ。我慢できない」


 ふとした時に、電話でシュンはそうこぼした。

 だから全部を頑張るんだってさ。

 おれはそう言うシュンがかわいくて、心配でたまらない。

 パンクしないといいなと思う。

 頑張りすぎて、おれを重たく思わないでくれたらいいなって、思う。


 ものすごく勝手なんだけど。


 母校で勝手知ったるなんとやらで、シュンに内緒で文化祭に顔を出した。

 体育祭は卒業生権限をチュンがどっかからもぎとってきて、学校関係者席に紛れ込んだ。

 年末年始は恒例の寺の手伝い。

 春休み、テルさんが家族旅行に行こうって言いだして、おれも連れて行ってくれた。

 シュンの高校一年はそうやって過ぎた。

 会わない間はこっちがびっくりするほどまめにメッセージを送ってくる。

 おれからの返事はできる時でいいと言ってくれる。

 ただ送りたいからだと言うけど、おれは隙を見ては返事を返す。

 まだ自分から送ることはできないけど、送られてくるメッセージは嬉しい。

 二年の間もそんな感じ。


 おれはやっぱり時々熱を出してシュンを心配させたりしながら、淡々と仕事メインの日を過ごしている。

 でも、それでいいと思うんだ。

 それがいい。




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