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第34話 ハタチの誕生日

 おれは小心者で。

 シュンは口ではいろいろ言ってるけど、すごく真面目。

 なのでひーさんが頑固おやじと化してから、清廉潔白なお付き合いです。

 って言っても、ひーさんは最初から頑固おやじなので、付き合い始めからずっとキスまでのお付き合いなんだけどね。

 シュンは無事に大学生になった。

 シュンが大学に通うようになったから、おれの部屋に来るのは解禁になった。

 って言ったって、時間のすれ違いは相変わらずだから、できたところで濃厚ちゅうどまり。

 時々触れてしまう固くなったシュンのシュンとか、慌ててトイレに駆け込む姿とか、かわいそうだと思いながらかわいくて。

 そして、すっごく、申し訳なく思うのに、踏み切れない。

 だっておれは小心者なんだよ。

 おれの行動で、関係が壊れてしまうのは、とても怖いんだ。


 そして、どんどん身動きが取れなくなっていく。

 シュンはかわいい。

 おれを求めてくれるのは嬉しい。

 でも。

 いつまで求めてくれるんだろう。

 お預けのままで飽きちゃわないかな。

 もっと簡単で分かりやすくて優しい子に目移りしちゃうんじゃないだろうか、なんてことを考えてしまったりする。

 そんなぐるぐるしたままで、季節は巡る。

 シュンはちゃんと大人になっていっていて、自分の考えで動けなくなるおれと、自分の欲求と、大人の言いつけの間の抜け道を上手に見つけ出す。


「オレがいっくんかわいがる分には問題ないだろ!」


 シュンがそう言いだしたのは夏のことで、勢いのまま全身をくまなく愛された。

 詳細を思い出したら大変なことになっちゃうから勘弁してくださいって感じなんだけど、シュンが納得するように外側だけだけど、全身を。

 やられっぱなしは性に合わないし、おれだってかわいいシュンが見たいからって、次の時には当然、お礼するだろ。

 順番に、お互いをかわいがる。

 ってだんだん行為が進んでいって「だから、合体しなきゃいいんだよ!」って、シュンがぶっちぎれたのは秋口。

 そうなると経験がモノを言うからね。

 シュンを押し倒して口でかわいがった。

 し返されたし、ここから先に進むのに準備は必要だろって、下の口もかわいがられるようになったけど。


 それでも時々、ひーさんの顔を思い出してしまうわけだ。

 頑固おやじめ。

 自活できるようになったらって、おれはもう自活してるのに。

 そうは思うけど、そこにあるのはちゃんとシュンに対する愛情だってわかるから、これ以上の強行突破はできない。

 たとえどれだけ不安があっても。


 最近シュンの周りに女の子の影が見え隠れしているんだ。

 おれのなかで『おれじゃないんだよ』って思うおれが、もぞもぞし始める。


 シュンが同居を口にするようになったのは、年が明けてからだった。

 それをかわしながらおれの誕生日。

 テルさんは約束したようにケーキとプレゼントを用意してくれて、なんだかどうしようもなく嬉しくて、涙が出た。

 関家の二人は、おれの涙スイッチ持っているに違いない。

 それにムラついたとかで、二人になったとたんに押し倒されて、セックスまで持ち込まれそうになる。


「ちょ、まって!」

「待たない! よく考えたら、なんでひーちゃんの言いつけ守らなきゃなんないのか、わかんない! オレはもう、ちゃんと生活できるしいっくんはちゃんとした大人じゃん!」

「それでも! 待て! エッチはハタチになってから!」

「だから……なんでハタチなんだよ」

「おれにとってはそこが成人だから」


 ううう、いっくんが冷たくてかわいくてどうしよう。

 シュンはそう言っておれを抱きしめる。

 だって考えるだろ、年齢差とかさあ。

 せめてお互い成人になってからって、思っちゃうのはしょうがないじゃないか。

 自活は多分、ひーさんのこじつけで、反対してるんじゃないんだ。

 確かめられてるんだと思う。

 おれの気持ちも、シュンの気持ちも。




 シュンがハタチの誕生日に、欲しがったのはおれだった。




「いっくんが、オレのこと考えてくれてるのはちゃんと知ってる。ちゃんとわかってるんだ。でも、お願い。今夜だけ。おまけして。次、またちゃんと我慢するから」

「シュン……?」


 おれがシュンの向こうに見え隠れする誰かに怯えていたように、シュンも、おれの向こうに誰かの影を見ているって、その時に知った。

 そうだよね。

 どれだけしっかりしていたって、シュンはおれよりずっと若いんだ。


「今までの経験を言ってもしょうがないことはわかってるけど、でも、こんなに経験してるいっくんが、オレを待ってくれるかなんて、保証ない」


 おれを抱きしめて、シュンが震えた。




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