「どういうこっちゃ!? バーレ、状況説明をよろしく!」
「おれっちが!? いや、もうこれ、どうすんの!?」
王都の外に出ると平原が広がっていた。その平原を埋め尽くすように兵士が整列していた。その数、少なく見積もっても10万。
「勇者様……あわわわ(ぶくぶく)」
エクレアは立ったまま口から泡を吹いている。
「こりゃどうにもならないですニャン。辱められる前に自害するですニャン」
くノ一のミサが白装束にいつの間にか着替えて、切腹する準備を整えている。
しかしミルキーだけは違った。いつも以上に目をガンギマリさせて、さらには鼻息を荒くしている。
彼女は皆の前に進み出る。おしとやかな胸を張らせている。さらには虚空から印籠を取り出し、それを眼前に広がる10万の大軍団に突き付けた。
「このお方をどなただとお思いかーーー! かの竜皇をぶっ倒して、さらにあなたたちが頼る城ロボをぶっ壊したおふざけ勇者(むっつりすけべ)のレオン様よーーー!」
「ミルキーさーーーん! 名乗りは嬉しいんですけど、相手は10万いまーーーす!」
「あーははっ! 数が少ないわ! 私たちを倒したいなら100万の兵を集めてきなさーーーい!」
「むりむり! やれるとしたら1万人までだから!」
「十分です。1万人、吹っ飛ばしてください」
「へ!?」
・女神からのコメント:へーーー。ミルキーちゃんってすごいわ。彼女に1軍を預けたくなっちゃう。彼女、軍才があるわよ!
(ちょっと!? 女神様もなんでそんなノリノリなんですか!? 10万ですよ!? 俺でも1万しかぶっ飛ばせないって言ってるでしょおおお!?)
レオンは逡巡した。しかしミルキーが「はい、どうぞ」とばかりに前に進み出てきてほしそうにしている。
「むむむ……」と唸りながら皆の前に立つ。10万の大軍団の最前列に並ぶ兵士たちがひそひそと何かを呟きあっているのが見えた。
スッ……と左手をまっすぐその兵士たちに向ける。バチバチと左手が鳴る。異臭が左手から発せられた。いつでも発射OKとなった。
それでも兵士たちはのんびりと構えている。まるで自分たちが攻撃されるわけがないとでも言いたげである。
「ライトニング……メガ・ランチャーーー!」
レオンはミルキーの言う通り雷魔法を放つ。雷のビームが一直線に兵士たちをなぎ倒していく。
雷のビームが大軍団をまっすぐに縦に切り裂く。その途中でレオンは左手を下に振った。雷のビームの先端が地面に突き刺さった。
そこで大爆発が起きる。1万人ほどの兵士たちが宙を舞った。
「えっへん! さすがレオンさんです!」
「えっと……ミルキーさん。罪悪感が俺の心を蝕んでいるんですが?」
「あいつらは敵です! レオンさんは敵をなぎ倒したんです!」
「う、うん!? そうだよな! あいつらは俺たちの敵だ!」
「レオン……」
「バーレ、そんな責めるような目で俺を見るんじゃない!」
「そうですよ、バーレさん、レオンさんに失礼ですよ!」
ミルキーだけは自分の味方であった。いくら敵と言えども同じニンゲンだ。そいつらを相手に自分は攻撃してしまった……。
越えてはならない一線を越えてしまった……。
(女神様……俺、ついにヤっちゃいましたー!)
・女神からのコメント:ん? 敵なんだし、殺してしまっていいんじゃないの?
(ん? 慈愛の女神様なのに?)
・女神からのコメント:そんな……こちらに武器を突き付けてくる相手に慈愛もへったくれもないじゃない♪
(聞いてもらう相手を間違えたー!)
レオンの気持ちを余所に、目の前の大軍団が一斉に混乱した。それに釣られてレオンも混乱した!
「レオンさん、ほら、行きますよ!」
「行くって……ラブホテル?」
「違います! レオンさんが開けてくれたあそこに飛び込むんですよ!」
「ミルキーのアソコに飛び込んでいいんですかー!?」
「……勇者様。混乱を解く物理魔法です(がっつんががっつん)」
「いてえ!」
エクレアが金の聖書の角で何度もこちらの後頭部を叩いてくれた。そのおかげで、なんとか正気を取り戻せた。
エクレアに心の中で感謝しておく。せっかく自分で開けた穴だ。今がチャンスと言えた。こくりと頷き合い、そちらへと一斉に走る。
自分たちを止める者などいなかった。大海が割れるように道がどんどん出来上がっていく。残り9万の兵がいるというのに、彼らのことを木偶の坊のように感じてしまう。
「すげえ、ミルキーに何か買ってあげたくなっちゃう!」
「えへへ……そんなに謙遜しなくていいですよ? これもレオンさんの力あってこそなんだもん」
「そっちこそ、謙遜しなくていいぜ? ほら、何が欲しいんだ?」
「うーんと。今、思いつかないんで、後で言いますね!」
「おう! 婚約指輪とかでもいいぞ!」
「……それはまだまだ全然早いです」
「……うん、調子こきすぎました」
エクレアなら間違いなく喜んでくれたであろう。だが、ミルキーはまだ攻略途中である。ミルキーとの最終フラグが立っていないことに気づかされるだけであった。
その時、頭の中で「デローン」という不気味な音が鳴った。
・今回、ミルキーとの信頼度が10減りました。
・現在のミルキーとの信頼は40です。
・女神からのコメント:んもう。これだからモテない男は……一足飛びに結婚に結び付けちゃダメ。ちゃんとひとつずつイベントを消化しなさい?
(すみません。なんかいけそうな気がしたんですぅ! 気の迷いでしたー!)
女神にしっかり謝っておく。その間も走り続けた。兵を指揮しているであろう将軍が慌てふためきながら、なにやらわめき散らしている。
「どきなさーーーい! アイス・ハンマー!」
ミルキーが走りながら詠唱を行い、さらには氷で出来た巨大なハンマーを作り出した。それをブンっと勢いよく薙ぐように左から右へと振り回す。
もちろん被害者はミルキーの横を走っていたバーレだった。このアイス・ハンマーのすごいところは殴った相手がアイス・ハンマーの表面に吸着することだった。
バーレの身体がミルキーの細腕で振り回された。ハンマーの質量とサイズ感が一気に増した。
「うわあああ!」
バーレの身体が氷のハンマーごと敵将へと叩きこまれた。その衝撃のおかげか、バーレの身体がハンマーから剥がれた。
「とぉぉぉ! レオン、これは何点だ!?」
バーレが宙を舞いながら見事に着地する。しっかりと笑顔をこちらに向けてきた。これはなかなかに高得点である。
「うーん。10点中9点だ!」
「サンキュッ!」
バーレがこちらに握手を求めてきた。もちろん男同士の友情を確かめるためにもバーレの手を握り返しておく。
そうしている間にも徐々に混乱から正常へと敵軍団は戻りつつあったようだ。せっかく開けた穴が縮まっていく。
「ミルキー、やっておしまいなさい!」
「はい、レオンさん! 新技いきます! アイス・キャノン!」
ミルキーが指揮棒サイズの魔法の杖をゆっくりと回す。それに呼応するように彼女の正面側に巨大な氷塊が出現した。
ごくりと息を飲むしかない。こっち側にその氷塊が飛んでくることは予想済みであった。
「バーレ・バリア!」
「おまえ! うぎゃあ!」
バーレが氷塊にくっついて、どこかへと飛んでいく……。しかしミルキーは魔法の腕を上げていた。ブーメランのように氷塊とバーレが戻ってきた。
「華麗に帰還!」
「バーレ、今のは10点中10点満点だ!」
「いえーい!」
「……おぬしら、本当にマイペースじゃな」
ヨーコからついにツッコミをもらってしまった。「えへへ!」と可愛らしくごまかしてみせた。ヨーコがため息をついている。
ミルキーはこちらに構わず巨大な氷塊を次々と生み出し、それを発射した。巻き込まれた敵兵たちが月見団子のように重なっていく。
(うん。誤射さえ目を瞑れば、ミルキーは十分にすごいぜ!)
・女神からのコメント:ミルキーちゃんがパワーアップしてるのは竜皇のおかげね。彼女と竜皇は氷属性同士で相性が良いみたい。
女神からの天啓を受けたことで、ミルキーにじっくり注目することになった。雀の姿になった竜皇が彼女の肩にちょこんと乗っている。
ミルキーと竜皇(雀)のおかげで塞がりかけた穴が再び開く。バーレがミルキーを肩に担いで運んだ。その行為にこちらは目を丸くしてしまう。
「バーレ、お前……天才か!?」
「ふっ。知力30のおれっちを甘く見るなよ? ミルキーを運びつつ、ミルキーからの誤射を防げるっ」
「くぉぉぉ! その役目、代わってくれ!」
「ほらよっ」
「ぐへっ、重い!」
「レオンさん、失礼すぎです!」
バーレが軽々とミルキーを抱きかかえていた。だから、自分も力を入れればミルキーをそう出来ると思い込んでいた。
だが、ミルキーはこちらの想像していたよりも重かった。彼女のおしとやかなおっぱいの大きさから考えるに、この重さは異常であった。
「ミルキー……なんでそんなに重いんだ?」
「へっ? どういうことです?」
「アホやってないで、さっさと走り抜けるのじゃ!」
またしてもヨーコにツッコミを喰らった。バーレがひょいと軽々ミルキーを肩へと担ぎ上げて走り出した。
頭の中にクエスチョンマークがいくつも並ぶ。
(……俺の腕力が落ちただけ?)
しかしながら、今はそのことを深く考える時間はなかった。走りに走って、どうにか大軍団の端から端まで駆け抜ける。
ついに10万の大軍団を突破することに成功した。あちらの損害は大きい。そして、こちらの損害もミルキーによって大きい。
こちら側の男たちはミルキーの誤射によって満身創痍と言える状況だった。これ以上の戦闘継続は難しくなっている。
「さてと……軍師ミルキーさん! ここからどうやって逃げるんだ!?」
「考えてません!」
「考えておいて!?」
「気持ちよくぶっ飛ばしながら大軍団を突っ切るところまでしか……えへへっ!」
「可愛いなもう! お兄さん、良いところ見せたくなっちゃう! ライトニング・メガランチャー!」
敵軍団が反転しようとしていた。機先を制するために彼らの足元を横薙ぎで雷のビームをぶち込む。
敵軍団の最後列が宙に舞った。それによって敵軍団の足を完全に止めることに成功した。
すると、待ってましたとばかりに大軍団の横を大回りして荷馬車がやってきた。なんとも良いタイミングだった。