「睦月ちゃんすごい! また当たった!」
「おいマジかよ……」
燕のはしゃぐ声を聞きながら、私は目の前のゲーム機を見ていた。
モニターにはカードが並べられており、その中から当たりを引ければ、景品が
「10回連続とかありえるのか? 壊れてんじゃねぇのこの機械」
「おれも時雨も、ついさっき外れたばっかだよ?」
「……」
燕の言葉に、時雨はそれ以上言えることがなかったのか、そっぽを向いて黙り込んでいる。
「はいこれ。二人にあげる」
「いいの? ありがとう睦月ちゃん!」
景品の引換券を差し出すと、目を輝かせた燕が嬉しそうに受け取っていく。
時雨は複雑そうな顔をしていたが、「いらないならおれがもらうね!」と燕に言われたことで、慌てて手を伸ばしていた。
「別にいらないとは言ってねぇだろ」
「もー。素直じゃないんだから」
まるで兄弟のような二人の姿に、微笑ましさを感じる。
じゃれ合う様子を静かに眺めていると、燕がいきなり目を丸くさせた。
「睦月ちゃん、今笑った?」
こちらに向かって駆けてきた燕は、そのまま顔を覗き込んでくる。
「そう?」
「うん! たしかに笑ってたよ!」
満面の笑みで喜ぶ燕は、私が笑ったことがそんなに嬉しいのだろうか。
頬が赤く染まっている。
気がつくと、喜びで色付いた燕の頬に手を当てていた。
「わっ! なになに?」
「……何となく?」
「そっかぁ!」
にこにこと笑う燕の後ろでは、何となくってなんだよと言いたげな目をした時雨が立っている。
「そういえば、他にも回りたいところがあるんだよね? そろそろ次に行こっか」
「そうだった! じゃあこれ、交換してくるね!」
燕ははっとした顔に変わると、急いで受付の方に駆けていく。
途中、時雨から「おんなじの」と言われ差し出された券を、燕は
「疲れてないんすか」
「うん。今のところは平気かな」
燕を見送ったあと、時雨から気遣うような言葉をかけられた。
何だか珍しくて見ていると、時雨は不機嫌そうな声で「じろじろ見んな」と返してくる。
まあ、そんな態度に対して、時雨の耳は真っ赤に染まっていたわけだが……。
今回は特別に、気づかなかったふりをしてあげた。
◆ ◇ ◇ ◇
広場に着くと、色々な出店の文字が見えた。
ここまで香ってくる匂いに、燕は目を輝かせている。
「あれ美味しそう! あ、あっちのもいいかも!」
「数は
「はーい」
楽しそうに出店を見回す燕の頬は、興奮からかまた赤みを増してきている。
不思議なものだ。
死神に体温はないのに、こうして肌は色付くのだから。
色に触れてみたところで、
けれど、こうして実体化を取った死神は、ここにいる人間たちと何一つ変わらないように見える。
「おれ、あれ買ってくるね!」
「あ、おい! 燕!」
そう言って駆け出した燕を、時雨が後ろから呼び止めていた。
しかし、燕は既に出店の方まで行ってしまったようだ。
「速すぎだろ……!」
「何か気になるものでもあった?」
肩を落とす時雨へ声をかけると、「べつに……」なんて
「行っておいで。私はここにいるし、この場所は人も多いから少しくらい平気だよ」
「いや、でも……」
「不用意に人間と関わっちゃいけないのは、悪魔も同じはずでしょ?」
こうして三人で回っている間、どちらかがその場を離れる時は、必ずどちらかが残ってくれていた。
傍を離れないよう、気遣ってくれていたのだろう。
ただ、さすがにこんな人の多い場所で、悪魔が姿を現せるとも思えない。
「せっかくだから行っておいで」
すぐそこの出店だ。
振り向けば見える距離だし、何より燕ももうすぐ戻ってくるだろう。
時雨は悩んでいたが、「すぐに戻る」と言いながら、急いで出店の方へと駆けていった。
時雨を見送り、約束通りそこで待っていると、突然足に何かがぶつかる感触がした。
勢いよくというより、よろけてぶつかった程度の力だ。
しかも、大人というより、幼い子供がぶつかったような──。
視線を下に向けると、まだ五歳くらいの女の子が近くに立っていた。
転んでしまったのだろう。
ワンピースの
声をかけようとしたが、女の子はどこかを見ると、そちらに向かって一目散に走っていってしまった。
人影に消えた女の子から視線を
落とし物かと思い拾ってみたが、何やらふわふわとした感触をしている。
「これ、羊のぬいぐるみ……?」
◆ ◇ ◆ ◇
【 おまけの裏会話 】
(燕が引き換えに行っている最中の)
睦月と時雨
「燕って、周りをよく見てるんだね」
「ああ見えて、死神歴は俺より長いんで」
「そうなんだ」
「逆にあんたは……あんま新人っぽく見えねぇよな」
「そう?」
「驚いたり焦ったりしねぇし、いつもそんな感じで冷静だろ」
「表に出にくいだけで、けっこう驚いたりしてるよ」
「ふーん。それって昔から?」
「生まれた時から、かな。小学生の頃は、あだ名を付けてくる男子とかもいたし」
「どんな?」
「表情筋死滅」
「……そいつ、ほんとに小学生か?」