死神には元となる魂がある。
死後の魂は
上からの許可が下りれば、候補生やスカウト枠として、そのまま死界で過ごすことになるのだろうが──。
「こんなこと言われてもびっくりするわよね。でも、
私自身、初めて会う死神が好意的に接してくるのを、疑問に思わなかったわけではない。
ただ、答えを探したところで、今の私には知り得ないことだと分かっていただけだ。
「燕の言動が気に触ることもあるかもしれないわ。だけど、どうか大目に見てやってほしいの」
大切なのだろう。
律が燕を思う気持ちには、親や姉のような感情が混じっている。
「燕は、私と家族のようになりたいんでしょうか」
「はっきりとは言えないけど、あたしはそうじゃないかと思ってる」
私から見た律たちの関係は、家族だと言っても差し支えないほどだ。
それはきっと、燕自身も感じているはず。
──燕が私に求めているのは、本当に「家族のように接すること」なのだろうか。
「睦月ちゃん。燕のことをよろしく頼むわね」
そう言って微笑んだ律は、まるで母親のように優しい表情をしていた。
◆ ◆ ◇ ◇
「ここ全部、睦月ちゃん家の
燕の驚く声が響く。
「でかい家のお嬢様が、自分でこんなことしなきゃいけねぇの?」
「管理の仕事をしてた人が首になったからね。一時的な穴埋めとしてやってる感じかな」
「ふーん」
臨時の作業員として、
他の場所に関してはそれぞれ別の担当者がいるため、そこまで時間はかからないはずだ。
これが終われば、約束通り燕たちと出かける予定になっている。
「なんで首になっちゃったの?」
「おい、燕」
「口が軽い上に、頭も軽かったからかな」
「なるほど!」
燕の質問を時雨が止めようとしていたが、聞かれて困ることでもなかったため、そのまま理由を話しておいた。
納得した様子で頷く燕は、とても純粋なのだろう。
死神として仕事をしているところが、あまり想像できないくらいだ。
「人なんて、口も軽けりゃ嘘もつく。そんなもんだろ」
ぽつりと呟いた時雨の表情は、反対を向いていて分からない。
けれど、その声にはどこか……深海のような暗さが
◆ ◆ ◆ ◇
「プーパさま!」
「いきなりなんですかびべれ。そうぞうしいですよ」
急に大声を上げたビベレに、プーパは面倒そうな返事をしている。
「あの娘が外に出ています! しかも、例の死神は近くに居ないようです!」
「それはほんとうですか!」
一気に目の輝きを取り戻したプーパは、喜びから踊り出しそうな勢いだ。
ついに、待ち望んだ機会がやってきた。
「すぐにじゅんびしますよびべれ!」
「はい、プーパ様!」
誰も居なくなった部屋には、柔軟剤の匂いがほのかに香っているだけだった。