真っ暗な空間に閉じ込められている。
外の音は聞こえないが、腕に抱いたプーパと、ビベレと呼ばれた蛇との会話は聞こえている状態だ。
会話から推測するに、おそらく今は空を飛んでいるらしい。
呑み込まれた場所は体内というより、亜空間と言った方が近いように感じる。
自分自身と腕に抱いたプーパは視えているものの、それ以外は真っ暗な空間しか確認できないのだ。
「目的はなに?」
「もっ、もくてきなんてありませんよ! すべてぐうぜんです! ぷーぱをひろったついでに、ちかくまでとどけてもらおうとしてただけです! そうですよね? びべれ」
「そそそ、その通りですプーパ様! 偶然! そう、偶然ですとも! プーパ様がいなくなったので、ちょうど探していたところだったのです。後ろに死神らしき姿を確認したので、焦って一緒に呑み込んでしまったわけでして……」
いや、さっきプランBって思いっきり叫んでましたけど。
やたらと
悪魔も誓約が絡む場合には、嘘をつくようだ。
ただ、これを嘘と言うには、あまりにもお粗末すぎる出来なのだが。
「あれがつかえるばしょまで、あとどのくらいです?」
「ここら辺は人が多い分、死神の出没も激しいですからね。到着までは五分ほどかかるかと」
「わかりました。ついたらすぐおしえるように!」
「はい、プーパ様」
会話から察するに、
そこから何が起こるのかは分からないが、良くないことなのは確かだろう。
万が一に備えた切り札はある。
けれど、それを使うべきかは一度相談した方が良さそうだ。
何故か腕から降りる気配のないプーパを見ながら、私はそのまま
◆ ◆ ◇ ◇
「くそっ!」
目の前で睦月を連れて行かれた現状に、時雨が苛立った声を上げた。
「あいつら悪魔だろ? よくあんな真似ができたもんだな」
嘲笑の響きを含む声だが、それ以上に
悔しそうに噛み締められた歯からは、ぎりぎりと音が聞こえてきそうなほどだ。
「時雨、ミントと連絡がついたよ。座標を送ってくれるって」
「……燕は悔しくないのかよ。目の前で
「時雨」
「……いや、違うな。ほんとは分かってんだよ。俺が、傍から離れなければ良かったんだ。俺があの時……っ!」
時雨の頭から鈍い音が鳴った。
「いってぇ!」
「ちょっと落ち着こうよ時雨」
頭を押さえる時雨を見ながら、燕は静かに声をかけている。
普段の明るい様子は
「……わりぃ」
「おれの方こそ、殴ってごめんね」
いつもの雰囲気に戻ったことで、互いに視線が重なる。
「くそ痛かったけどな」
「この前
「うえ。そりゃ痛えわけだわ」
顔を
それを横目で見ながら、時雨も自分の拳を差し出した。
こつりと合わさった拳は、二人の決意を表すものだ。
拳が離れた時──そこにはもう、二柱の死神しか存在していなかった。
◆ ◆ ◆ ◇
「ナツメグー。あたしちょいと
「……手伝う」
「あれ? あんた別の任務入ってなかったっけ」
ミントの言葉に、ナツメグは首を横に振った。
「……上司が」
「え、マジ? こりゃ、気合い入れてやらないとだわ」
ナツメグが現在の任務よりも、他の任務を優先して動くのは珍しい。
それが上司からの指示だと分かり、ミントはにやりと口の端を持ち上げた。
「ま、あたし一人でも充分やってみせるんだけどさ。ナツメグを送ってきたってことは、少し時間がシビアってところかな」
指を鳴らしながら、「気合い入んじゃん!」と笑うミントに、ナツメグは何かのコードを手渡している。
「おっけー。ならナツメグは記憶の読み取りね。あたしは片っ端からハッキングかけとくから、目ぼしいものがあれば共有しといて」
こくりと頷くナツメグを見て、ミントは首にかけていたゴーグルを着けた。
壁中を埋め尽くすほどのモニターが現れる。
モニターが映すのは、現世の
「そんじゃ、我らがお姫さまの奪還作戦といきますか!」
◆ ◇ ◆ ◇
ハッカー はっか ミント