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ep.43 奪還に向けて


 真っ暗な空間に閉じ込められている。

 外の音は聞こえないが、腕に抱いたプーパと、ビベレと呼ばれた蛇との会話は聞こえている状態だ。


 会話から推測するに、おそらく今は空を飛んでいるらしい。

 呑み込まれた場所は体内というより、亜空間と言った方が近いように感じる。


 自分自身と腕に抱いたプーパは視えているものの、それ以外は真っ暗な空間しか確認できないのだ。


「目的はなに?」


「もっ、もくてきなんてありませんよ! すべてぐうぜんです! ぷーぱをひろったついでに、ちかくまでとどけてもらおうとしてただけです! そうですよね? びべれ」


「そそそ、その通りですプーパ様! 偶然! そう、偶然ですとも! プーパ様がいなくなったので、ちょうど探していたところだったのです。後ろに死神らしき姿を確認したので、焦って一緒に呑み込んでしまったわけでして……」


 いや、さっきプランBって思いっきり叫んでましたけど。

 やたらとを主張したがることからも、プーパたちの正体には既に予想がついていた。


 悪魔も誓約が絡む場合には、嘘をつくようだ。

 ただ、これを嘘と言うには、あまりにもお粗末すぎる出来なのだが。


「あれがつかえるばしょまで、あとどのくらいです?」


「ここら辺は人が多い分、死神の出没も激しいですからね。到着までは五分ほどかかるかと」


「わかりました。ついたらすぐおしえるように!」


「はい、プーパ様」


 会話から察するに、猶予ゆうよはあと五分程度らしい。

 そこから何が起こるのかは分からないが、良くないことなのは確かだろう。


 万が一に備えた切り札はある。

 けれど、それを使うべきかは一度相談した方が良さそうだ。

 何故か腕から降りる気配のないプーパを見ながら、私はそのまままぶたを閉じた。




 ◆ ◆ ◇ ◇




「くそっ!」


 目の前で睦月を連れて行かれた現状に、時雨が苛立った声を上げた。


「あいつら悪魔だろ? よくあんな真似ができたもんだな」


 嘲笑の響きを含む声だが、それ以上に自嘲じちょうが多く混じっている。

 悔しそうに噛み締められた歯からは、ぎりぎりと音が聞こえてきそうなほどだ。


「時雨、ミントと連絡がついたよ。座標を送ってくれるって」


「……燕は悔しくないのかよ。目の前でさらわれたんだぞ。あともう少し早く見つけてたら……!」


「時雨」


「……いや、違うな。ほんとは分かってんだよ。俺が、傍から離れなければ良かったんだ。俺があの時……っ!」


 時雨の頭から鈍い音が鳴った。


「いってぇ!」


「ちょっと落ち着こうよ時雨」


 頭を押さえる時雨を見ながら、燕は静かに声をかけている。

 普段の明るい様子はりをひそめ、冷静に時雨を諌める燕の姿に、時雨も落ち着きを取り戻したらしい。


「……わりぃ」


「おれの方こそ、殴ってごめんね」


 いつもの雰囲気に戻ったことで、互いに視線が重なる。


「くそ痛かったけどな」


「この前りっちゃんに習ったんだ」


「うえ。そりゃ痛えわけだわ」


 顔をひそめる時雨に向けて、燕が拳を差し出す。

 それを横目で見ながら、時雨も自分の拳を差し出した。

 こつりと合わさった拳は、二人の決意を表すものだ。


 拳が離れた時──そこにはもう、二柱の死神しか存在していなかった。




 ◆ ◆ ◆ ◇




「ナツメグー。あたしちょいとこもるからね」


「……手伝う」


「あれ? あんた別の任務入ってなかったっけ」


 ミントの言葉に、ナツメグは首を横に振った。


「……上司が」


「え、マジ? こりゃ、気合い入れてやらないとだわ」


 ナツメグが現在の任務よりも、他の任務を優先して動くのは珍しい。

 それが上司からの指示だと分かり、ミントはにやりと口の端を持ち上げた。


「ま、あたし一人でも充分やってみせるんだけどさ。ナツメグを送ってきたってことは、少し時間がシビアってところかな」


 指を鳴らしながら、「気合い入んじゃん!」と笑うミントに、ナツメグは何かのコードを手渡している。


「おっけー。ならナツメグは記憶の読み取りね。あたしは片っ端からハッキングかけとくから、目ぼしいものがあれば共有しといて」


 こくりと頷くナツメグを見て、ミントは首にかけていたゴーグルを着けた。

 壁中を埋め尽くすほどのモニターが現れる。


 モニターが映すのは、現世のを通して見える光景だ。


「そんじゃ、我らがお姫さまの奪還作戦といきますか!」




 ◆ ◇ ◆ ◇




 ハッカー  はっか  ミント



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