テーブルに並べられたカード。
同じマークかつ、10からAで
「二回目も睦月の勝ちか……。ゲームはあと一回残ってるが、これ以上やる必要はなさそうだな」
続けて勝利したことで、ヴェルダージは既に勝敗が決したことを悟ったらしい。
こちらを向くと、にんまりした笑みで話しかけてくる。
「いや〜、俺っちも初めて見たぜ。ロイヤルストレートフラッシュを連続で、それも運だけで出すなんてな」
「……まけた」
驚くヴェルダージの隣では、リブラがテーブルに突っ伏している。
今にも砂に変わりそうなリブラの頭を、ヴェルダージが優しく叩くのが見えた。
「そんじゃとりあえず、報酬について話すぜ。睦月が勝った場合は、リブラが叶える条件だったな。どんな願いにするか決めたか?」
顔を上げたリブラが、緊張した様子で見つめてくる。
「保留……とかは駄目かな?」
「保留?」
「うん。お願いしたいことができた時に、頼めたらいいなって」
聞き返してきたリブラに、今は願いがないことを伝える。
難しいかと首を傾げリブラの方を見ていると、だんだんと
「大歓迎です。いつでも何でも頼んでください」
「おいリブラ」
ヴェルダージの目はシルクハットにより見えていないが、もし見えていたら半目にでもなっていることだろう。
「知らねぇぞ。そんな約束して、後で泣くことになってもよ。ま、もう遅いがな」
呆れた様子のヴェルダージだったが、ふと真面目な空気を
「これは勝者への一方的な誓約だ。リブラは睦月に、願いを一つ叶える権利を与えること。期限は定めず、願いの大きさは叶えられる限り。誓約は制約としても作用し、
突然、リブラとカードの間に魔法陣が出現した。
魔法陣から飛び出た何かは、リブラの元へ一直線に向かうと、そのまま手首に噛み付いている。
鋭い歯が突き刺さった部分から、リブラの血液が吸い出されていく。
体内に血液を溜め込むと、それは再び魔法陣の中へと戻っていった。
「ゲームの敗者は、ヴェルダージから問答無用で血を抜かれるのよ。いきなりで驚いたわよね」
「いえ、似たような経験があるので」
「そうなのね……」
詳しいことは聞かれなかったが、何かを察した律の視線は
「あいよ睦月。受け取ってくれ」
ヴェルダージの方から飛んできたカードをキャッチする。
真っ黒だったカードには赤い魔法陣が浮き上がっており、中心にはリブラの名前が描かれていた。
「リブラに願うことが決まったら、そのカードを使って俺っちを呼んでくれ。もし従わない場合には、強制権を行使することができる」
「賭けの報酬が支払われるまでは、こうしてカードを渡すことが決まりなんです。睦月さんのお願いなら、カードがなくても喜んで聞くんですけどね」
ポッと頬を染めたリブラから隠すように、霜月が私の前へ移動してくる。
睨み合う二人の間でため息をついたヴェルダージだったが、私と視線が合ったことでにんまりとした笑みを浮かべた。
「どうせなら有効に使ってくれ。俺っちの強制権はなかなかのもんだぜ。それこそ、盤上をひっくり返すほどにな」
ヴェルダージは来た時と同じ丁寧なお辞儀をすると、現れた魔法陣の中へ
手に持ったカードを扉の空間に送り、静かに席を立つ。
「私たちは部屋に戻りますね。色々と話したいこともあるので」
霜月の方を見ると頷かれた。
相変わらず察しが良くて優秀だ。
「それと、ありがとうございました」
律が何かを言う前に、今回のことについてお礼を伝える。
驚きで目を瞬かせた律は、どうやら予想外の言葉に戸惑っているようだった。
「護衛の件はすみません。私が気を抜いたせいで、二人を危険にさらしてしまいました」
「睦月ちゃんのせいじゃないよ! おれがちゃんと守れなかったから……!」
「それを言うなら、俺が油断したせいだろうが」
反論してくる燕と時雨に、小さく笑みが溢れる。
本当に、優しすぎる死神たちだ。
「何より、あっという間でしたから」
霜月の手を取り握ると、ぎゅっと握り返された。
時間にすればたった数日。
けれど、私にとっては随分と長い時間になるはずだった。
そんな
こちらの様子を見ていた律の目が、優しく細められた。
「睦月ちゃんは、もうしばらく
律の言葉に大きく頷いていたリブラは、霜月の名前が出た途端、複雑そうな顔に変わっている。
それを
「またお邪魔します」
「やーね睦月ちゃん。そこは、ただいまって言えばいいのよ」
ぱちりとウインクをしてみせた律が、幼い頃に見た父親のそれとよく似ていて。
何だか無性に、懐かしく感じた。
◆ ◇ ◆ ◇
仏の顔は三度まで
ならば神の赦しは何度まで?
第三傷 Third Guilty 真なる神へ告ぐ