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小さな革命編 5


「さて皆さん。皆さんは神を信じますか?」


 薄暗く重苦しい空気が広がる地下室に、俺の声が妖しく響き渡った。

 俺の目の前に並ぶ人間たちは全部で7人。

 アルメさんから以前仕入れた情報によると常時5人の人間が地下にいるとの話だった。

 それより2人多いけど、俺が生まれたことでストックの数が増えたんだろう。


 俺から見て左側から、顔のよく似た男女の子供が1人ずつ。

 先日の儀式の時に親父とお袋が双子云々って言っていたから、それがこの子たちだと思われる。

 女の子の方がさっき俺の入室に1番早く気付いた子で、見た感じは10歳前後といったところか。


 そして列の真ん中あたりに大人の女が2人。向かって右側には大人の男が3人。

 大人の男のうち、1人は白髪の老人だ。

 彼らの性別や年代に一貫性は無く、彼らが今着ている衣服にも統一性は無い。


 こいつらに共通することといえば……そうだな、俺の問いに対する反応だけかな。


「はい」

「もちろん」

「えぇ、当然です」

「信じます」


 こんな感じで声に出したり、または無言で頷いたり。

 だけどその瞳は真剣そのもの。全員が全員、神を信じるという想いに嘘は無さそうだ。

 まぁ、それも当然なんだろうけどさ。

 こりゃあ胡散臭い宗教の勧誘の台詞とか持ちだしてふざけてる場合じゃないっぽい。


 つーか、さっきヘルちゃんとガルト君が暴れまわったせいで、俺が事前に用意していた説得シナリオがどっかに消えちゃって、ベタな台詞しか言えなかっただけなんだけどな。

 そんな俺のバカさ加減は誰にも気づかれていないっぽいから、このまま話を続けよう。


 ……と思ったけど……。


「えぇ。私も信じますわ」

「当然ですよ。タカーシ様は一体何を言い出しておいでで?」


 俺の隣に座るヘルちゃんと、その向こう側に座っているガルト君も真剣な表情で答えてきやがった。

 うん。お前らには聞いてねぇから。

 まぁ、この2人はこの際無視しておくとして、話を進めよう。


 ……


 いや、すっげぇ気になるわ!

 なになにっ!? 魔法のステッキ振り回す肉弾系女子と殺し屋まがいが神を信じるだと?

 どの口がそれを言ってる!?

 あと、じゃあ――お前らが信じている神っていうのはどこのどいつだ?

 大陸の中央に住むっていう“神の一族”とやらか? それとも妖精族に特有の宗教でもあるのか?


「ぐ……」


 いや、待て。ここはしっかり踏みとどまれ。

 この部屋に入って以降、この2人にはすっげぇ足引っ張られてるんだ。

 昼飯前に軽く話し合おうとしていた俺の計画がただでさえ遅れてるのに、これ以上こいつらの邪魔に構っている暇はない。


「ん? タカーシ? 苦い魔物を食べたような顔して一体どうしましたの? 何か疑問でも?」

「いや、別にないよ」


 さて、話を進めよう。


「では、ヴァンパイアがどういう存在か。それもご存じですね?」


 俺の次の質問に、今度は人間一同が深く頭を下げた。

 さらには再び両手を合わせて俺を拝み始める者まで出始めた。

 それを見たヘルちゃんがまた小さく笑い始めたけど――もちろん無視しておく。


「あなたたちの信仰心の深さはよくわかりました。とりあえず頭を上げてください」


 俺の言葉を受け、人間たちがゆっくりと頭を上げる。

 それぞれが視線を俺に向け、俺の次の言葉を静かに待った。


 ふーう。


 さて、なんでか知らんけど、俺すっげぇ緊張してきたんだけど。

 この人たちから見た俺の立ち位置は神様なのか、または神の教えを授ける宗教指導者なのかはよくわからん。

 だけどこういうふうに真剣な表情で見つめられると、結構緊張するもんなんだな。

 俺が前いた世界でも様々な宗教が存在してたけど、その宗教に仕える聖職者とかも集会で発言する時に緊張してたりすんのかな。


「あの……」


 その時、無言で人間たちを観察する俺に違和感を感じたらしく、双子の男の子の方が小さく声を出す。

 でも次の瞬間には他の大人たちが、何かを聞こうとするその子を制した。


「しッ!」

「静かにしなさい!」

「ヴァンパイア様が預言をくださろうとしているのだぞ!」


 いやいやいやいや。“預言”って……。

 申し訳ないけど、俺にそんな機能は無いってば。


 でも今の人間たちのやり取りでわかったこともある。

 ヴァンパイアに対する信仰心。この俺を神のごとくあがめようとするその心は年長者に強く、まだ幼い子供たちはその意識が若干弱いようだ。

 沈黙する俺に対し、何かを聞こうとしてきた男の子。

 思い返してみれば女の子の方も入室時の俺に気安く話しかけてきたし、大人とは違い、子供にとっての俺はいくらか話しかけやすい存在なのだろう。


 まぁ、俺も見た目は子供だし、相手からすれば話しかけやすいっちゃ話しかけやすいしな。


 まだ幼い双子の子供。

 この2人の過去に何があったかは知らんが、おそらく彼らの信仰心は親や周りの大人から仕込まれただけもの。

 でもヴァンパイアの神格性を理解しきるほど精神が成熟しているわけではない。

 ――みたいな。そういう可能性だって十分にあり得るんだ。


 まぁ、神を盲目的に信じ、早急に死ぬことを望んでいる大人たちの方が精神的に未熟だとも考えられるけど、今発見したこの世代間格差はなかなか重要だ。


 それならば――


「ん? 何? 何か聞きたいことでもあるの? いいよ。言ってごらん?」


 いい突破口が見つかった!

 子供から落とすことにしようッ!


 と俺が心の中でにやついていると、その男の子が恐る恐るといった様子で口を開いた。


「……いいえ。ヴァンパイア様が黙っているから、“どうしたのかな?”って思っただけです。預言の邪魔をしてごめんなさい」


 あぁ、ちょっと違ったわ。

 俺が悪いんだ。黙り込んでてごめんなさい。


「お前ェ! ヴァンパイア様に対して、何ということを!?」

「そうよ! たとえ黙っておられても、それは全知全能たるヴァンパイア様のご勝手。それに意見するなど、なんと畏れ多い!」


 んでその男の子に対して、大人たちから非難轟々の雨あられ。

 挙句は俺が全知全能だとさ。

 ここまで敬われると、逆に俺がバカにされてんのかと思っちゃうな。


「いえ。いいんです! 僕が悪かったんです! 黙っててごめんなさい! そこの君? 気にかけてくれてありがとうね!」

「え? え? そ、そんなぁ……ヴァンパイア様からそんな有り難いお言葉をいただくなんてぇ……えぐっ……ひぐっ……なんとお優しい……うわーぁーん!」


 そして男の子をかばった俺の言動に、その男の子が泣き出す始末。

 あとどうでもいいんだけど、俺と初めて会った時に似たような反応を示したガルト君がうんうん頷きながら涙目になっていやがる。


 あぁ、そろそろしんどい……。


 でも、頑張っていこう! ガンバレ! 俺ッ!


「泣かないで! お願いだから泣かないで! ほら、元気出して!」


 俺はあわてて立ち上がり、男の子に接近する。

 優しく頭を撫でながら慰めることおよそ5分。彼の泣き声が小さくなるのを確認して、俺は元いた椅子に戻った。


「さてさて。実のところ、今日は皆さんにお願いがあってきたのです」


 俺の言葉に白髪の老人が反応し、他の人間もわずかに身を乗り出した。


「お願いとはなんでございましょう?」


 俺も前のめりになりながら、言葉を続ける。


「その前に皆さんに質問があります。ヴァンパイアに血を吸われながら息絶えると天国へ行ける。それはいいとして、あなたたちにとってその時期がなるべく早くないといけない理由はなんですか?」

「え? え?」

「まさか……そんな……?」

「ヴァンパイア様? それはどういうことですか?」

「なんでそのような事を? 私たちを殺す気はないとおっしゃるのですか?」


 もちろん人間たちは揃いも揃って悲嘆にくれた表情で俺の質問に質問を被せてきた。

 そりゃそうだ。

 今の俺の発言、捉えようによっちゃ“すぐに殺しはしねぇよ”と受け取られかねん言い方だったからな。

 言い方をちょっと間違ったかも。

 でも俺が聞きたいから聞いてみただけだし、求める答えはそこじゃない。


「なぜ死にたいのですか?」


 死を望む人間というならば、それにふさわしい事情もあるだろう。

 その事情は決して生易しいものではないだろうし、今さっき出会ったばかりの人間にそういうのを聞くのも失礼な気もする。

 だけどそれを聞かんことには、話を進めることができないんだ。

 だから――


「じゃあ、1番右の方から順番に説明してください。出来るだけ簡潔に。ついでにお名前と年齢。あと、出身地なども教えてください。もちろんここで言いたくないことは言わなくても結構です」


 入社試験の集団面接みたいになっちゃったけど、かくして人間たちの身の上話が始まった。


「じゃあ、まずはわしから……」


 まずは俺から向かって1番右に座っていた老人。

 彼は東の国の森で一族仲良く暮らしていたが、ある日自分以外の家族が全員魔物に殺されてしまい、人生に絶望したとのこと。

 他にも夫を寝とられ怒りのあまり夫と浮気相手を殺し、自身も生きる気力も無くした女性。または借金苦だったり、人間関係が苦手で村から追い出されたなど、それぞれ重い過去を打ち明けてくれた。

 でも全員に共通することは、平たく言うと“生きることに疲れた”って感じだ。


 少し例外なのがやっぱり双子の子供たちで、親が強盗の類に殺され、そして本人たちもその強盗に捕まり、奴隷として売られた過去があるらしい。

 でも親の遺言で“私たちに何かあったらヴァンパイア様に助けを求めなさい。天国で待っているわ”という旨を聞かされており、それに従って奴隷売買所に来たヴァンパイアに声をかけたのだそうだ。

 んでそのヴァンパイアから血の儀式の話を聞かされ、ついでにそのヴァンパイアが親父の友人だったため、格安で我が家に売られてきたとのこと。


 まぁ、この双子がたどった道のりは大して重要ではないけれど、やはりこの子たちがここにいるのは、大人たちからの刷り込みが理由の大半を占めているような気がする。

 本人たちの意志はあまり関係なさそうだ。


「わかりました。皆さん、それぞれ辛い思いをしてここに来たのですね」


 俺が優しい言葉をかけてみると、今度は大人たちまでしくしくと泣き始めた。

 だけどさ。

 しんみりとしたところに悪いが、そろそろ本題に入ってやろう。

 こっからは俺のターンだ。


「でも、それは死ぬ理由にはならない!」


 あっはっは! みんなしてビックリしてやがる!

 涙を流しながら“裏切られた!”みたいな顔してこっち見てやがる!

 俺の言葉に対する反応がいちいち予想通りで面白ェ!


 ――じゃなくて。ここが重要だ。

 心ん中で高笑いしてる場合じゃない。


「実は皆さんに手伝ってもらいたい仕事があるのです。手伝ってもらいたい仕事というか、その仕事をこれからの皆さんの本業にしてもらいたいというか。

 その仕事を生きがいとし、それで得た収入でお酒やおもちゃなどの嗜好品を買い、そして人生を有意義に過ごしながら生きてもらいたいのです」


「え? え? それじゃあ、僕たちは天国には行けないのですか?」


 ここで男の子が俺の言葉を遮る。

 でも俺が突拍子もないことを言い始めたせいで、今回は誰も男の子の言動を諌めようとはしない。

 むしろ他の大人たちは男の子の発言に同意したように、無言でこちらを見つめている。

 もちろん彼ら全員が不安そうな表情だ。


「いえ。皆さんが亡くなる時――それは病気によるものか事故によるものか。または老衰かもしれませんが、その時は僕が責任を持ってあなたたちの血を吸わせてもらいます。皆さんが天国に行けるように。

 たとえ僕がこの世界のどこにいようとも、全力で皆さんの元に戻り“血の儀式”で殺して差し上げます。僕が無理だったら、僕の両親が代わりに“血の儀式”をしてくれるよう、お願いもしておきます」


 それでさ。今さらだけど、1個だけ懸念事項があるんだ。


「でも、僕も生まれたばかりなので、天国に行けるというその仕組みについては詳しくありません。

 1つお聞きしたいのですが、例えばの話、天国に行くための死亡理由はあくまで僕たち“ヴァンパイアによる血の儀式”じゃないといけないのでしょうか?」


 ヴァンパイアに血を吸われながら死ぬ。そうじゃないと天国へは行けない。

 その条件が絶対だとなると、問題は少し難しくなる。


 この国において人間はかなり弱い立場だ。

 前にも言った通り、農作業中に通りすがりの魔族から襲われる可能性だってあるし、細心の注意を払っても何かの事故に巻き込まれかねない。

 医療技術が発達していないからちょっとした怪我でも死につながりやすいし、俺や親父、そしてお袋がこの屋敷を留守にしている時に人間が即死してしまうような事件や事故が起きる可能性は決して低くはない。

 そう考えるとこの部屋で静かに暮らし、出来るだけ早く俺たちヴァンパイアから血を吸われた方が、人間たちの想いが成就されやすい。


 でもこの人たちの宗教における血の儀式についての条件が緩く、“血を吸われるのは死後でも可”程度のものだったら話は簡単だ。

 それに俺が気になったから一応確認しただけで、この問題も退ける自身が俺にはある。

 さっき知ったんだけど、俺には“預言能力”があるらしいからな!


「どうですか? 生きながら血を吸われないと、天国には行けない。その点について、厳格な決まりとかありますか?」


「……」

「……」

「……」


 俺の問いに人間たちは黙ったまま。

 みんな黙って下を向くだけだ。


 ふっふっふ! そりゃそうだろう。

 この宗教は――人間を手軽に集め、血を差し出させるというこの宗教は、俺たちヴァンパイアのためにどっかの誰かが創ったものだ。

 どうせ細かい条件指定なんて無いに決まっている。

 条件を細かくすると、人間たちがこの宗教に入信する時のハードルを上げてしまうことになるし、神聖な儀式についてあーだこーだと条件をつけると、人間側から不審がられる可能性があるからだ。


 まぁ、厳格な儀式って、むしろそういう細かい条件が多い傾向にあったりもするんだろうけど、いかんせんこの宗教はヴァンパイアが生贄である人間を簡単に集めるために創っただけのはったり宗教だ。

 ルールの類は可能な限り緩くし、入信しようとする者に対して、入口の門を出来る限り広くするのが賢いやり方だ。


 先日エールディの奴隷売買地区を見た時に、その場で食肉用として殺される人間たちもいたし、さっきガルト君が「奴隷なんて主人の好きにすれば」うんぬんって言ってたから、この国における人間の命は限りなく軽い。

 しかも最近は人間の奴隷数が減ってきているとの話だから、そんな国で人間の確保は限りなく困難だ。

 でもヴァンパイアそのものはこの国で確かな地位を占めているし、奴隷の人間が「私はヴァンパイア教です。なので、ヴァンパイア様に殺されないといけません」と言われたら、奴隷売買所で働く魔族だって無視はできん。


 というこの宗教の創始者の工夫と苦労が垣間見れるけど、その事情は今はどうでもいいとして――あと、この宗教が“ヴァンパイア教”というのかは知らないけど、それもどうでもいいとして……。

 今回はそこらへんのルールの緩さを利用させてもらおう。


「さて……ヴァンパイア様に血を吸われながら息絶えると、天国へ行けると経典には書いてありましたが、死んだ後の骸となると……。

 そのような話は聞いたことがありません……」


 少しの沈黙の後、白髪の老人がぼそっと呟いた。

 でもその答えは俺が期待していたもの。

 やっぱりな。


 じゃあここで小さな嘘でも。

 俺の“預言能力”、覚醒だッ!


「先日、僕の夢に光り輝くヴァンパイアが出てきたのです。あれはまちがいなく教祖様でした……」

「おぉ!」

「まさかドキュール様がタカーシ様にお告げをッ!?」

「なんという奇跡!」


 あぁ……あんたらの宗教の偉い人、ドキュールっていうのね……?

 教えてくれてありがとう。


「そ、そうです! そのドキュール様がおっしゃったのです。経典にほころびが見えている。お前の手でそのほころびを直せ、と」

「あぁ! なんということがぁッ!」

「それは間違いなく神のお告げぇッ!!」

「私は今、教えが変わる場にいるのねぇ!?」

「奇跡じゃあ! それは間違いなく神の起こしたもうた奇跡じゃあ!!」


 あっ……。

 俺、今ちょっとした宗教改革しちゃったっぽい……。

 まっ、いっか。


 ちなみに俺の嘘に騙されて興奮しているのは大人たちだけだ。

 双子の子供はというと、この話についてくることが出来ず、ぽかーんってしている。


「そして僕は一晩考えたのです。そして答えが見つかった。死後の骸に儀式を行っても、魂は天国へといざなわれる。

 その点についての記述が経典にないことに。ドキュール様のお言葉は、この点を追加せよという預言で間違いないでしょう!

 これは小さな変革です!」


「そうだそうだ!」

「間違いない!」

「今こそ歴史が変わる時!」


 ごめん。いつの間にか“小さなウソ”じゃ済まなくなったわ。

 人間たちに対してもごめんだし、俺の良心に対してもごめんなさい。


 でも、流れもいいし、このままいっちゃおう。


「じゃあ、病気か老衰か事故。それらの事情によりで死期が近づいたとわかったら僕が儀式で天国へと送る。

 もしそれが不可能であったとしても、なんとかしてあなた方の遺体から血をいただきます。

 その体が病に蝕まれていようとも、僕があなた方の骸から血を吸います。

 その責任は絶対にとります!

 そして、その時まではぜひとも有意義に人生を送っていただきたいのです!

 皆さんが労働をしながら幸せに歳月を重ね、人生を謳歌した後で幸せな死を!

 これでよろしいですね!?」


「もちろんです!」

「ははぁ! おおせの通りに!」

「ぜひとも!」

「私はタカーシ様の生贄になれてよかったわぁ! 神よ! あなた様のご慈愛に感謝をぉー!」


 さて、ついでに双子の子供たちにもフォローしておこう。

 話が理解できずに、結構前から蚊帳の外になっちゃってるからな。

 あとこういう時は子供の存在を利用するのが利口な方法だ。

 ヴァンパイアである俺が人間の子供たちの未来についてまで真剣に考えているという意志を見せておけば、大人の人間たちに対するいいアピールにもなるし、今後の仕事にもいい影響を及ぼすはず。


「なんだったら僕はそちらの子供たちが立派な大人になるのも見守りたい!

 お2人もよく聞いてください! 一生懸命働き、一生懸命に勉強し、立派な大人になってから死ぬのですよ!」

「はい!」

「はい!」


 双子の子供たちも元気に返事を返してくれた。

 ふっふっふ。

 大人たちも返事をする双子を優しいまなざしで見つめ始めたし、とりあえずはこれぐらいでいいか。

 さて、じゃあここで一息入れるために質問などを受け付けよう。


「ここまでで、何か疑問などはありますか?」


「お気持ちは嬉しいです。でも……わしのような老いぼれはなんの役にもたちません。こんなわしでもお力になれますか?」

「でも……そうなったら、ヴァンパイア様の儀式はどうなるのですか? 毎月1人ずつ血を献上しなければ、ヴァンパイア様がお困りにならないですか?」

「僕たちみたいな子供でもお仕事できますか?」

「私、ヴァンパイア様の下で働けるのですか? お兄ちゃんと離れたくないし、知らないところに行きたくないです」


 おいおい。

 一斉に言われても、対応しきれねぇってば。

 まぁ、今の俺と人間たちは魔力による言語変換機能を経由して会話しているから、1人1人の言葉も魔力に乗ってしっかり俺の脳に届いているけどさ。

 つーか、魔力による言語変換機能ってそういう効果もあるんだな。

 こんな大勢から一気に話しかけられたことなんてないから知らなかったわ。


 なんて言ってる場合じゃないな。

 白髪のじいさんはこの先短そうだから俺の話にはやっぱり不安も多いようだ。

 日本だったらのんびりと年金暮らししてそうな年齢だしな。

 今さら仕事しろって言われても、きついだろう。


 んで、40代の女――この人はさっき俺の膝にすがりついてきた人なんだけど、俺の事情について質問してきた。

 自分のことしか考えないタイプと思ったけど、意外と周りのことまで気を配るタイプなのかな。

 状況が落ち着いたら、この人には子供たちの面倒や教育を頼んでみるか。


 そして子供たち。

 不安そうではあるが、俺の話に前向きな態度を示してくれている。

 やっぱ若いっていいな。価値観に縛りがない。

 もちろんこの子たちの仕事も、そして今後も兄弟仲良く暮らすという2人の願いも考慮してやるさ。

 安心しろ!


「大丈夫です。僕は老人に鞭打つような真似はしたくありません。他に元気な成人男性が2人もおられるのですから、あなたには体への負担が少ない仕事をしてもらうつもりです。

 あと血の儀式の件についてもご安心を。今後もしかすると新たな人間がここに来るかも知れませんが、僕は今ここにいる皆さんから儀式のたびに少しずつ血をいただくつもりです。皆さんには毎回痛い思いをしてもらうことになるかもしれませんが、それだけは僕のわがままに付き合って下さい。

 んで、そこのお2人? 大丈夫だよ。僕のことお兄ちゃんだと思って、僕の言うこと聞いてね? さっきも言ったけど、お仕事もしてもらうし、お勉強もしてもらうから、僕の下でしっかり頑張って」

「はい!」

「はい!」


 そして俺は立ち上がり、全員に向けて大きな声で言った。


「皆さん、これからともに頑張りましょう!」


 その後、俺は人間たち全員に仕事経験や1日の労働時間の限界を聞くことにした。

 他にも趣味や好きな事を発表してもらったところで、アルメさんが昼食の用意が出来たと伝えに来た。

 んで俺は交渉が上手くいったという達成感とともに、ルンルン気分で外階段を上がっていたんだけど、その途中でヘルちゃんたちから痛烈な言葉を浴びせられたわ。


「この詐欺師め……決めた。私、タカーシの事は信用しないことにしましたわ」

「外道にもほどがあります。タカーシ様? 相手の身にもなってあげてください。騙された人間たちが可哀そうですよ」


 くっそ。

 この2人もガキだから俺のウソに騙されているかと思っていたけど、バレバレだったのか。

 鋭い奴らめ……。



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