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ヴェンデルガルトの考察

第35話 ゲームと違う?

 結局夕食も共にしたジークハルトが仕事に戻ると、湯殿で身体を清めたヴェンデルガルトはベッドに横になり、また見慣れてきたはずなのに変わってしまった天井を見上げて今までを振り返った。


 今の世界は、前世? で死ぬ前に愛していたゲームの世界だ。ただ、ゲームと違う事が多い。まず主人公は二百年も寝ていない。そもそもヴェンデルガルトは、の筈だ。ゲームには、古龍――コンスタンティンも出てこない。そうして、薔薇騎士団長は最初で登場する。彼らは、北の国から訪れるのだ。

 そのゲームでは白薔薇、黄薔薇、紫薔薇の恋愛イベントをクリアして、ようやく四人目の赤薔薇の恋愛ルートが現れる。そうして赤薔薇ルートをクリアすると、北の国からが彼らを迎えに来て攻略対象になるはずなのだ。知っているはずのゲームと違う箇所が、沢山ある。


 前世では一人目も攻略出来ていなかったから、どの薔薇のルートを辿っているのか分からない。確か最後の時、黄薔薇のカールとの恋愛ルートに差し掛かっていたはずなのだ。


 ただ――コンスタンティン。ゲームには出なかった彼が生きていて一緒に生活をしていた時、彼と結ばれると思っていた。ここは、彼が居ない世界。ビルギットしかいないこの世界で、生きていけるのだろうか。彼は、いつ生まれ変わってくるのだろうか? イザークが言っていた様に、彼がコンスタンティンの生まれ変わりなのだろうか?


 ヴェンデルガルトは、二度生まれ変わった気がしていた。今、魔法が使えるのは自分だけのようだ。そもそも魔法は、東の国から産まれた能力だと教会では教わった。コンスタンティンに連れられて生活していた住処も、東の国だ。

 まず、何故自分たちが閉じ込められた金の卵をこの国の者たちが掘り起こしたのか――それも気になっていた。


 もしゲームと根本が同じ世界なら――あのイベントを忘れてはいけない。『南の国の王子』と『騎士団長の剣作り』だ。『南の国の王子』は、殆どの人が辿り着けないイベントで、SSランクの攻略対象だ。『剣作り』は、魔法が廃れたこの世界で魔獣をもっと楽に倒せる魔法の剣。南の国で採れる、魔力を帯びた石を採掘して作るのだ。だが希少過ぎて、騎士団長分とあと一本。六本分しか作れない。この最後の一本が、誰の分なのかも分からない。攻略サイトでも誰のものかと議論されていて、SSSランクの攻略対象がいるのではないかと噂されていた。



 それから自分の部屋で倒された魔獣の姿を思い出して、ヴェンデルガルトは身体を震わせた。前世では、見る事ない景色だった。生き物――人も呆気なく殺される世界なのだ。それに、イザークの負った怪我……あの傷は、コンスタンティンの魔力がないと治せなかったか、魔力の使い過ぎで自分が倒れてしまうほどだった。

 ブラック企業で働いていた根性のお陰かもしれないと、乾いた笑いを浮かべる。


 それにしても、やはり赤薔薇はSランクの相手だ。婚約者もいるなら、ジークハルトは攻略できないだろう。というか、ここがゲームの世界である事すら忘れていた。ただ必死に騎士たちと交流していたら、四人に好かれていた。

 このまま、四人の誰かと結ばれるのだろうか? でも、幻のイベントも気になっている。会社しかない生活より、ずっと楽しいゲームの世界があった。あの日の深夜ホームから落ちて、こんな世界が待っていたとは。運命って、とても意外なものだ。新しい生活の充実感を知れて、ヴェンデルガルトはその運命に感謝していた。


 ふふ、と小さく笑うヴェンデルガルトの頬を、テオが舐めた。テオは、ゲームでも存在していた。ただし、二百年眠る事のない世界線で最初に攻略する薔薇騎士団長と一緒に見つけるイベントなのだ。カールが見つけてくれて、ヴェンデルガルトが飼うことになった。


 ヴェンデルガルトは、五薔薇騎士たちを思い浮かべた。皆それぞれ違うイケメンたちだ。三次元で身近にイケメンがいる生活は、とても刺激的だ。

 それにしても――フロレンツィアに目を付けられたのは、災難だ。会わないように、考えて行動しなければならない。あの人に怒鳴られていると、前世の上司を思い出して気分が悪くなる。

 それに、フロレンツィアもゲームでは登場しなかった。


 しかし――これから、どんな世界が待っているのか。誰一人も攻略した事のないゲームの世界で、ヴェンデルガルトは戸惑う。しかし、ゲームとは違う。ここには『命がある』と改めて気を引き締めた。

 自分が選択する事で、誰かが死ぬ事もある世界なのだ――現実的に命が宿っている、世界なのだ。改めてそれを忘れないようにしなければならない。


 そして、自分の能力。もっと、騎士団や困っている人の為に使いたい。コンスタンティンも、そう願っているはずだ。


 ビルギットの懐かしいガヌレットーー前世では焼き林檎リンゴと呼ばれていたお菓子は、とても美味しかった。コンスタンティンも、気に入って喜んでいたのだ。それをジークハルトと食べたのは新鮮で――不思議に居心地よかった。


 明日は、何をしよう? そう考えていると、テオの温もりが気持ちよくヴェンデルガルトは眠りに落ちた。


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