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第37話 ランドルフとギルベルトの土産

 南の国に滞在しているギルベルトとランドルフの帰りは、もう少し遅くなると騎士が戻りジークハルトに報告した。バーチュ王国と隣国のアンゲラー王国の和解の話し合いの際、問題が起きたのだ。そもそもの問題は、両国に挟まれているヘンライン王国から採れる鉱物の貿易の関税をどちらが多く取るか、という小さな対立からだった。

 南の国は、色々な資源が多く取れる。それを大陸一の領土を誇るバルシュミーデ皇国や、東のレーヴェニヒ王国に売ると莫大な富になる。ヘンライン王国は小さな国だが、武器を作るのに必要な鉱物が豊富に採掘できる。しかし小さい国の為、バーチュ王国かアンゲラー王国を介さないと、北や東と貿易が出来ない。その為、貿易利益を巡って両国が揉めるのは度々の事だ。


 しかし今回そのヘンライン王国が独自に貿易をしたいと、初めて両国を介せずに貿易をすると発表した。その為争いが三国に及んだので、ギルベルトもランドルフも帰れないのだ。


 その報告をした騎士たちは、沢山の土産を持ち帰った。南でしか取れない食べ物が多く、後は織物や宝石の素だ。その中で、ランドルフとギルベルトから預かった土産は、騎士が大事そうに持ち帰った。どちらも、ヴェンデルガルトの為の土産だ。


「枯れずに持ち帰れて、安心しました」

 白薔薇騎士と紫薔薇騎士が、大きな花が咲いている木を持ち帰った。庭師を呼び、それを鉢に入れてヴェンデルガルトの部屋まで運んだのだ。

「南の花の、リュデケです」

 オレンジや紫の混ざり合った、鳥の姿にも見える花だ。派手な花なので、貴族に人気があった。水をあまりやらないでいいので、育てるのも簡単だ。ヴェンデルガルトの部屋が、鮮やかに彩られた。

 それに、沢山の織物。これをドレスに加工して、短い夏に着ると涼しいらしい。あとは、宝石をイヤリングに加工したものや、指輪、手首を飾る鎖に宝石をちりばめられたブレスレットなど、高価なものが沢山部屋に届けられた。


「カードもお預かりしています」

 白いカードは、ギルベルトから。紫のカードは、ランドルフからだ。

「本来なら明日こちらに戻る準備を始めるはずでしたが、戻る事が叶わずヴェンデルガルトにお会いしたい気持ちでお二人は贈り物を我々に託されました」

「まあ、こんなに沢山……」


「あと、メイドのお二人にもこれを」

 そう言って、ビルギットとカリーナにも包みを渡した。

「香りのよい石鹸と、肌に良いクリームです。お仕事の後に、是非お使いくださいと」

「私達にも?」

「よろしいのでしょうか?」

 ビルギットとカリーナはお互いを見合ってから、ヴェンデルガルトに視線を向けた。


「お二人ともお優しいですね。良かったわね、ビルギットとカリーナさん」

「ヴェンデルガルト様、もう『さん』は要らないですと、何度も申し上げているのに」

 「何だか距離があって寂しいです」と、カリーナはヴェンデルガルトにそう言っていた。ビルギットと比べて、少し焼きもちを焼いているようだった。

「そうだったわ、ごめんなさい。二人とも、部屋に持って帰っていいわよ。その間に、私はカードを読んでいるから」

「分かりました」

 カリーナとビルギットは、同室にして貰っていた。メイドは普通四人部屋なので、カリーナはビルギットと二人部屋である事を喜んでいる。

「では、我々も失礼します」

 数日で肌が浅黒くなった騎士たちは、礼をして部屋を出て行った。その後に、「急いで戻ります」とビルギットとカリーナも出て行った。


『愛しいヴェンデル。如何お過ごしでしょうか? 数日だというのに、あなたに会えない日々、この暑い国で過ごすのを寂しく思っています。早く国に戻り、あなたを抱き締められるのを希望に、もうしばらくこの地で仕事を頑張ります。戻りましたら、一番にあなたの笑顔を見られる事を願い――』


『俺のヴェンデル。寂しくて泣いてねぇか? 面倒な事に帰る日が伸びて、お前に会えなくて俺の方が寂しいのかもしれないな。ここは珍しいもんが多くて、お前が見たらきっと喜びそうだ。何を見ても、お前が傍にいるように感じる。早く問題ごとを解決して、お前とのんびり出来る様に――』


 二人のカードはヴェンデルガルトに会えない寂しさと、早く帰ってヴェンデルガルトと過ごしたいという、彼女への想いで溢れていた。ヴェンデルガルトはその二人からのカードを胸に抱き締めて、「どうか無事で、戻られますように」と祈ってからカードボックスに入れた。


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