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改装完了

 部品をバラした荷車のところへ持っていく。今からこれらを組み付けていくが、前の世界とは違う部分があるので、そこはアレンジが必要になってくる。例えばナットやボルトなんかは使わず、ピンやくさびで補ったりするわけだ。

 これらは整備性や耐久性に影響を及ぼす。俺はチートで作った部品と日々の点検でその辺りのフォローをするが、真似する人たちには自力で改善をお願いしたい。


 まずは後輪から組み付ける。荷台の後ろ側に板バネセットと荷台を連結するための部品を取り付け、そこに1番長い板バネの筒状にした部分が連結されるようにする。

 板バネは弓状なので伸ばしたときと縮んだときで、弓で言う弦の部分の長さが変わる。連結する時にはそれを吸収するような部品が必要なのだ。これは片方のみに取り付け、もう一方は直接荷台と連結する。

 板バネセットをまとめるような部品で板バネをまとめたら、その部品の1番下にある筒に車軸を通し、両側に車輪を付けたら構造としては完成する。

 潤滑油は前の世界でも鉱物油が一般的になる前には使われていた豚脂、つまりラードである。うちの場合は猪脂だが。後は菜種油なんかも使うらしいのだが、うちは猪脂が豊富にあるからな。


 一旦ここで前輪を仮に組み付けて(取付用の部品は材木を加工した)、引っ張って試してみようとすると、いつの間にか来ていたクルルが鼻息も荒く待機していた。

 長い距離を牽いてもらうわけではないので、装具は着けずに縄で代用する。


「痛くないか?」

「クルルゥ」


 問題ないかどうか確認してみると、平気そうなのでそのまま庭を回ってもらった。機構自体はうまく動いているが、ところどころおかしい箇所もあるので、外して調整してまた牽いてもらってということを繰り返す。


 日が沈むかどうかといった頃合いでやっと調整が完了した。ひとまずはこれで後輪は完成とする。前輪と装具の連結部分は明日だな。


 翌朝、今日の水汲みはクルル自身に持たせてやった。クルルはご満悦である。

 そういえば、走竜が物を牽きたがったり、運びたがったりするのはなんでだろうな。賢いので生物としての本能以外の部分でもなにかありそうな気はするが、残念ながら生物学のチートはないし、インストールでもその辺りの知識は入ってないのでさっぱり不明だ。

 とりあえずはクルルの機嫌がいいのでよしとする。


 前輪部分は多少機構が違うが、作業としては同じである。ネジやボルトの代わりにピンなどで部品を組み付け、調整をする。

 前輪は左右が独立しているので、耐久性が必要なところは鋼にしてある。これでも若干の不安がなくはない。なので特注モデル並みに魔力を入れた鋼にしてある。かなりの力技だ。


 最終調整は装具との連結部分の改造をしてからになる。取り外した連結部分の形状から、新しく連結部分の部品を作る。ここは木製と既存の部品の流用だ。チャチャッと新規の部品を作ったら、クルルに装具を着けて(慣れてないので時間がかかった)、連結部分と荷車との調整をする。

 少し動いては調整、少し動いては調整を繰り返して、やっとクルルがスムーズに牽ける状態になる。次に補修やらをしたときはもっとスムーズにできるようにしたいものだな……。


 これで全体の最終調整が行えるようになったので、再びクルルに荷車を牽いてもらう。前輪後輪ともにサスペンションが働いているようだ。だがやはり少し不具合もあるようなので、止めては調整を繰り返す。納得のいく状態になった頃にはもう日が沈みかけていた。

 鍛冶のみの作業であれば、ここまで時間もかからないのだろうが、生産一般のチートは鍛冶ほどの能力はない。こうして試行錯誤を繰り返すよりないのだ。


 ともあれ、これで乗り心地は格段に良くなったはずだし、その分速度も若干出せる。街へ行くのに時間がかからないようになれば、その分の時間で他にできることも増えるだろう。

 その時間で何ができるだろうか、という幸せな想像をしながら、俺は後片付けを始めるのだった。

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