目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

隣国

「大量生産か」


 今の俺だと更に生産スピードが上がっているのでより多く作れるし、ものによるが問題はないだろう。


「かまわないが、そのかわり……」

「そのかわり?」

「何が起きているかの説明くらいはしてくれ」


 俺はそうカミロに言った。流石に何も分からずに注文主の言うことだけ聞いて作るのもなにか違うような気がするのだ。


 カミロは俺に説明する前、いつも考え込む。俺に教えて巻き込むことを避けたいというのもあるのだろうが、このところはどうもそれ以外の意図があるように思えてならない。

 そこを聞くのは野暮になりそうなので聞いてないが、いつか話してくれるだろうか。


「これは余所に話すなよ?」

「話す相手がいないよ」

「それもそうか」


 俺の言葉を聞いて、カミロは苦笑する。彼は数少ない俺の家の場所を知っている人間だ。ほぼ誰も来ない森の中の一軒家住まいで、ここにいない誰かと話す機会なんてまずない。ごくごく偶に客が来るがそれ以外で話す相手はいないので、漏洩のしようがないのだ。

 一応俺は皆を見回したが、一様に頷いている。彼女たちも話す相手がいるわけではないからな。


 それを見たカミロは一息ついて言った。


「ここでは詳しい話は省くが、帝国で近く革命がおこる。皇帝を打倒して民衆でまつりごとを行うのだ、と首謀者は言っているそうだ」

「それは穏やかじゃないな」

「ああ。この情報を掴んだ王国は、その混乱に乗じてほんの少しばかり国土を広げるつもりらしい」

「で、伯爵の出番か?」

「いや、侯爵閣下だ。伯爵経由だけどな」

「ああ、あの……」


 メンツェル侯爵。マリウス――つまりはエイムール伯爵家の後見人のような立場の人物だ。あの御仁にはある程度バレてると思うんだよな。


「マリウスに続けて手柄を立てさせるわけにもいかない?」

「そうだな。それをしてしまうと贔屓と言われるだろうし、なにより伯爵が力をつけすぎてしまう」

「後を継いでいきなり2回も任務を成功裏に納めるとは、さすがは武でならしたエイムール伯爵家だ、ってなるのは誰にとっても嬉しくないってことか」

「そういうこと。かと言って以外に手柄を譲る気もないのが侯爵閣下らしさではあるな。で、今回はお前をご指名だよ」

「マリウス経由で?」

「マリウス経由で」


 じゃあ、もうほとんどバレているな。そりゃ北方のそれなりの立場の友人のはずが、魔物討伐の遠征隊で補給隊と一緒にいたんじゃバレるか。家宝を作ったのが俺というところまでバレているかはわからないが。


「あの御仁の名指しじゃあ、そもそも断れないな。で、何を作ればいいんだ?」

「槍を20と長剣を30だ」

「思ったよりは少ないな」

「おおっぴらに動くと帝国にバレるからな。最低限の手勢で行くらしい」

「なるほど」

「で、すまないが来週には持ってきて欲しい」

「来週ね……」

「無理か?」


 俺は少し考える。前回は剣を50作ったが、大丈夫だった。槍の20を俺が作って、剣はリケ達に任せればギリギリいけるようには思う。俺の作業効率も上がってるしな。


「いや、大丈夫だ。じゃあ、また来週納品に来るよ」

「頼んだぞ」


 俺とカミロはがっしりと握手をした。お互い、変なことに巻き込まれないといいな。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?