「で、都のほうはどうなんだ?」
「ん? ああ、大きなことはない……んだが」
カミロは茶に口をつけた。一口飲むと、口ひげをいじる。彼が話をしようかどうか迷っているときの仕草だ。
俺は自分も茶を飲んで、カミロが話すかどうか決めるのを待った。ヘレンが焦れている気配がするが。
「一応、お前の耳には入れとくか。話を売るって話もしたし」
カミロはもう一度茶を啜ると、俺を見据えた。
「北方から人が来ただろ?」
「ああ」
色々なすれ違いで、不幸な出会いになってしまった一件だ。そう言えば、カレンさんの作品(?)を見る約束をしていたな。届いたら俺だけでも街に出てくるか……。
「あの時、俺なりに裏は取ったんだよ。で、大丈夫だと判断した。でなきゃお前のとこにはやらんからな」
カミロの言葉に、俺は深く頷いた。その辺りは俺も大きく信頼を置いているところだ。
「で、あれがあってから、もう一度調べてみたんだが、どうも俺のところにくる情報が意図的に改ざんされていた感じがある」
「ほう」
カミロくらいになれば複数の情報源、情報網を持っていてもおかしくない。それこそ、マリウスですら知らないような。
それを操作できるほどの力を持っているとすれば……。
「“公爵派”か」
「だと、俺は睨んでいる。ま、そこで尻尾を出すような連中でもないからな」
「だろうな」
そこであっさり尻尾を掴まれるようなら、サッサと侯爵とマリウスが排除していることだろう。“主流派”と呼ばれる派閥と丁々発止やりあうなら、そんなうっかりでは務まるまい。
「そんなわけで、お前に売る話に細工されたものが混じる可能性がある。伯爵閣下のはそのままソックリ渡すが、そっちもまぁあくまで“主流派”から見た話だ、ってのは覚えておいてくれ」
「分かった」
まぁ、情報というものは多かれ少なかれ主観やなんやが混じってしまうことがあるのは仕方ない。シマウマを白地に黒縞だと思ってそう言うか、黒地に白縞と思ってそう言うかだ。シマウマの場合、実際には後者らしいが。
それはさておき、俺が“新聞”に期待しているのは、この世界全体の空気というか、匂いのようなもので、大まかに何が起きているかを知りたいのだ。
基本的には“黒の森”に籠もってるからな。どのみち、例えば明日ふらっと旅に出たとして、この世界で俺が知り得る範囲はかなり狭いだろう。それはそれで楽しい人生だと思うが、それをしたいならウォッチドッグにそう言ってるからな。
その点、カミロであれば自身は動かずとも、あちこちから色々な話がやってくるに違いない。いずれ興が乗ればかなり遠いところの話も仕入れてきてくれるかもだし。
それでまぁ、鍛冶屋仕事のヒントみたいなものがあればなお良いな、といったところだ。うちにある希少な鉱物たちも一筋縄ではいかなさそうだし。
「それじゃ、とりあえず頼んだ」
「おう」
こうして、この冬最後になるかも知れない商談をつつがなく終え、俺たちは商談室を後にした。