数日の間、俺も加わって納品するナイフやショートソード、そして槍なんかを作っていた。
我が工房における生産速度はちょっとした工場並、と言うとちょっと盛りすぎではあるのだが、まぁ普通の工房ではちょっと難しいかも知れないくらいの数を量産できている。
そんなわけで、長期の“森篭もり”ともなればペース的に全く製作をしなくても良い日が出てくる。
冬になる前はそういった日を利用してあちらこちらに行っていた。街や都に行けなくとも、森の中を散策したり、釣りに出かけたりだ。
釣りも以前は夕食にと当てにしていた(俺の釣果はさておくとして)ものだが、それなりの大家族となった我が家においては、それもそろそろ厳しかろうなぁ。
純粋にレジャーとして楽しむ釣りに出かけるのはありだろうけど。
そして、今日はそんな「休日」なので、クルルとルーシー、そしてハヤテの散歩、それにマリベルも付近にどういうものがあるのかは知っておいたほうが良かろうと、付近の散策に出ようかと思っていたのだが、朝起きてすぐにそのプランは水泡に帰した。
水瓶を用意し、ドアを開ける。ため息をつかずとも、吐く息は白い。娘達4人も白い息を吐きながら、寄ってこようとする。
するのだが、わずかばかり足下が覚束ないような感じで、いつものような素早さがない。
我が家の周囲が真っ白に染められているからだ。
そう、夜の間に雪が積もったのである。
我が家の周りには木が生えていない。普段はそれが日当たりの良さをもたらしてくれていたのだが、こういったときには完全に逆効果、と言っていいのだろうか。
とにかく、遮るものがないので遠慮無く積もってくれたようだった。木から雪が滑り落ちてくるのに気をつけながら過ごすのとどっちが良いかは迷うところだが。
ギュッギュと雪を踏みしめる音を立てて、娘達が寄ってきた。
マリベルは飛べる(あまり高度はとれないらしい)のだが、雪の感触が楽しいのか、彼女も歩いている。
「寒くても平気か?」
「うん、だいじょぶ」
「そうか。こう寒いとお前がうちに来てくれて本当によかったよ」
「そう? えへへ」
俺が言うと、マリベルは嬉しそうにはにかんだ。今もほんのり暖かさを放っていて、彼女の周りだけ雪がかなり緩んでいる。
この寒さだし、昨晩はマリベルが暖かさを姉妹に分けてくれたに違いない。ガシガシと、俺は末の娘の頭を撫でた。
クルルがそんな俺の顔に頭を擦り付ける。水瓶を寄越せと催促しているのだ。
「冷たくないか?」
「クルルゥ?」
水瓶を首にかけてやったあとそう言うと、クルルは小首を傾げた。冷たくて厳しいということは無いらしい。見た目は爬虫類に近いので、それこそ冬眠でもしそうだなぁとクルルには失礼なことを思ってしまうのだが、そこはやはり竜であるらしい。
「わんわん!」
「ルーシーも大丈夫か?」
「わん!」
ルーシーも「頭を撫でて!」と身体の前半分を持ち上げる。俺は屈んで撫でてやった。ルーシーは見た目は普通の狼なので、足の裏が霜焼けになってしまいやしないかと心配になったが、前の世界のシンリンオオカミなどは雪の上で寝こけていたりすることもあるくらいだし、多分平気なのだろう。
このあたりもかなり寒くなることはあるとサーミャも言っていたし、生物としての備えが出来ているのだろう。魔物になっていることも一因かも知れないが。
そう言えばどことなし毛足が夏場よりも長くなっていて、毛の密度も増している……有り体に言えばモフモフ度が増しているような気もするな。
ハヤテは娘達の中では唯一、雪の地面がお気に召さないようで、クルルの背中にいたあと、俺の肩へと移ってきた。
それでもはしゃいで走り回っているルーシーの姿を見て、パッと一瞬だけ地面に降り立ったが、
「ピャッ」
と短く鳴くと、再び俺の肩に戻ってくる。
「俺はどっちかと言えばお前と同じ気分だよ」
「キューゥ」
足下に幾重にも布を巻いて対処はしているが、それでも当然吸湿発熱や防水ではないのでジワジワと冷たさが染みこんでくる。もしかしなくても一番霜焼けに近いのは、俺だろう。
「よーし、寒いし今日はサッサと済ませよう! ただし、コケたりしないようにな」
俺は娘達にそう言って森へ進み出す。歳がいくと雪なんて憂鬱なばかりだと思っていたが、娘達とこうして進む雪景色はなんだかんだテンションが上がるのだった。