「よーし、それじゃあ始めるか」
『おー』
「クルルル」「わんわん!」「キューゥ」
俺の言葉に、皆が腕を上げ、出来ない娘達は声を上げた。今から我が家では雪合戦を開始する。
チーム分けは俺とサーミャ、リケ、ディアナ、そしてクルルとマリベルのクルルチーム。対するはリディ、ヘレン、アンネにルーシーとハヤテのルーシーチームである。
クルルチームの戦力が大きいような印象を受けるが、ヘレン1人でかなり強いからなぁ。
最初は「ヘレンが1人でも問題ないのでは」という意見も出ないではなかった。
しかし、流石にそれはちょっと……となり、なんとなしでバランスを取ることになったのだ。
サーミャやヘレンは普段露出が多めの格好なのだが、今日ばかりはキッチリ着込んでいて、ややモコモコした状態になっている。
いや、モコモコしているのは皆似たり寄ったりだ。あまり寒さが得意と言えないディアナは服ではない布地も動員しているので、余計にモコモコしている。
少し前から冬毛っぽくなっているルーシーとどっこいどっこいだ。
リケやリディもいつもより着込んで、リディは普段被らない帽子も被っている。
比較的薄着なのはアンネだ。身体が大きいこともあるのだろうか。とは言っても、サーミャやヘレンよりも1枚ほど着込んでないくらいで、いつもよりモコモコなのは変わりない。
普段と変わらないのはマリベルだが、彼女は炎の精霊だからな。特に気温でどうこうなるということはないらしい。雪に触れると消えてしまったりもしない。
結構な広さを誇る我が家の庭。そこが今は雪で真っ白になっている。
ところどころ、クルルとルーシーの足跡があるが。あれは俺たちが朝飯を食べてる間に駆け回ったのだろう。
その白い庭にモコモコな皆が集まり、クルルチームとルーシーチームが対峙する。
対峙してはいるが、特に負かしてやろうとか、そんな雰囲気は無い。サーミャやディアナ、ヘレン、そして娘達4人がやる気に満ちた顔をしているが。
「じゃ、ルールを説明するぞ。と言っても、雪玉を作って投げて、当たったなと思ったら一旦退場だ」
俺が言うと、皆静かに頷いた。呼吸をしているだけでも、白い息が皆の鼻から出てきて、それが気合いを入れているようにも見える。
「はいはい! クルルやルーシー、ハヤテは?」
マリベルが手を挙げて言った。3人は流石に雪玉を作って投げるのは難しいだろう。俺に視線が集まった。
「皆が作って渡してやってくれ。3人とも投げる……くわえて放り投げるのは出来るはずだから」
クルル達がオモチャにしている木の球なんかを放り投げているところを、俺は何回か目撃していた。アレが出来るなら射程や正確さはさておき、参加は出来るはずだ。
最初は加減が掴めずに潰してしまったりもするだろうが、なに、そこは経験していけばすぐに慣れるだろう。
前の世界では雪合戦にもちゃんとしたルールがあって、障害物の大きさやなんかも決まっているらしいのだが、うちでレクリエーションとしてやるだけなら、厳密なルールはいらない。そもそもキッチリ勝敗をつけてどうこうしようという話ではないのだし。
――ないはずだったのだが。
「なんでこう、うちの子たちは本気になっちゃうかね」
開始早々に退場と相成った俺は、“戦場”から少し離れたところから、凄い速度で飛び交う雪玉と、やはり凄い速度で駆け回る家族のみんなを眺めていた。