雪はほとんどその姿を消していた。寒さはあるが、雪を維持するほどではなかったようだ。僅かに日の差さないところで特に溜まっていたらしいのが残っている。
うちの庭には木が生えていないので日当たりが良い。なので、昨日雪合戦をしたフィールドはバリケードにした塊の一部がちょっと残っているだけだった。
その残っているのを、クルルが鼻先、ルーシーが前足、ハヤテも鼻先でちょいちょいとして、雪の名残を惜しんでいた。
朝の水汲みの時もだったが、その時よりも更に減っている。滅多に降らないということは、次に出会えるのは来年かも知れない。それまでしばしのお別れになるはずなので、娘達にはほんの少しでも今の間に触れられるだけ触れておいて欲しいところだ。
まぁ、雪が残っていたら石を探すのも一苦労なので、俺達としては気候に感謝すべきところだろうな。
適当に散らばって、適当な大きさの石を集める。もちろん、あまり大きいと挟んで振り回すのに都合が悪いので、あまり大きくないものをだ。
半時ほど皆で手分けすると結構な数が集まった。小さく山になっている。すぐにこれくらい集まってくれないと「いざという時に弾の入手が容易」というメリットを活かせないからな。
「よーし、アタイから行くか!」
「手本を頼むわ」
「おう!」
ヘレンはスリングの片側の紐を輪っかにすると、そこに手を通し手首で固定されるようにした。次に手首に通してないほうの端を握りこんだ。見た目には大きな革の輪を手に持っているようにも見える。
そして、石ころを1つ摘まみあげると、布のようになっているところにセットする。テキパキと進めていて澱みがない。過去にどこかの戦場で使ったことがあるんだろう。
「よぅし」
ヘレンはそう言うと、ブンブンと振り回しはじめた。勿論俺達は距離を取っている。ヘレンに限って滅多なことは無いと思うが、用心せずに事故を起こすほうがマズいことは言うまでもないからな。
標的はいつも弓の練習に使っている的だ。何度も使っていて表面のささくれが酷くなっている。そろそろ替え時でもあったし、命中して粉砕してしまっても問題はない。
最初はゆったりと振り回していたが、数回かなり素早く振り回したかと思うと、普通に投げる時のような動作をした。
パン! と派手な音が辺りに響いた。一瞬皆が身をすくめる。
音は的が弾け飛んで起きたものではない。離したほうの紐の先端が波打つことで一瞬だけ音速を超え、その衝撃波で破裂音がしたのだ。鞭を振るったときにも起こる現象である。簡単なところでは長いチェーンを波打たせると、最終的に先端が音速を超えて音が鳴る。
その派手な音とは裏腹に、ぽーんといった風情で石が飛んでいく。狙ったところに飛ばすにはそれなりに練習がいるはずだが、低い山なりに飛んだ石は的に向かって飛び、見事に命中した。
パカンと石が砕ける。あまり硬い石ではなかったようだ。では的のほうにはあまりダメージが無かったかというと、さにあらず。
元々かなり傷んでいたこともあるだろうが、命中したところが石の形に砕け散っている。これが頭に命中したら、兜を被っていたとしても致命傷であることは間違いない。
俺達はそれを少し背筋を寒くさせながら見ている。
「こんなもんだろ。よっし、それじゃあ練習しようぜ!」
生き生きと話すヘレンに、俺達はコクコクと頷くのだった。